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お互いの事情と情報交換

 発端は、三十年前のサラフェイア崩壊の時です。

 南部大陸随一の繁栄を誇った都市サラフェイア、そこが一夜にして滅んだのは、ご存知の通り、かの悪名高き吸血鬼の仕業です。

 鮮血公爵、ダシュド・ファツァル。

 既に周辺国家と、トリアント教会の聖騎士団によって討伐はされましたが、未だに各地には、サラフェイア崩壊の影響で生まれた吸血鬼たちが潜伏しています。

 私の父は、その一人なのだと、母は言っておりました。

 父と母は愛し合っていたそうですが、私が生まれると同時に父は姿を消し、母は女手一人で私を育て上げました。

 しかし、どうしてもこの赤い瞳、これだけは隠しようがなく、隠れ住むように暮らしていたのですが、ある日異端審問官の襲撃に会い、母は亡くなりました。

 残された私は、母から教わった魔術と、この導石を頼りに今日まで生きてきました。

 目的を抱いて導石の導きに従えば、少なくとも目的地には近づける。これは、そういう石です。

 私の目的は、迫害されず、一人の人間として生きて行くことのできる地を探すこと。

 そうして探していくうちに、知ったのです。

 魔族達の国、ヴァルナハトのことを。

 


 〇



「そして、ようやく見つけた。貴方こそがヴァルナハトの吸血鬼。偉大なる夜の貴族。どうかお教えください、彼の国に行く方法を!」


 願うように、強請るように、祈るように、アンナは私にそう言ってくる。

 しかし、私はアンナのたった一つのプロフィールについて激しく考えていた。

 ダンピール、ダンピール、ダンピール……。

 ───課金職業じゃねえか!


「おい、アンナ、一旦落ち着け。向こうさん、冷たい目で見てるぞ」

「え、ああ、いや、そんなことは……」

「……っは!?も、申し訳ありません、ついに念願の手がかりに会えたと思い、気持ちが逸りました!」


 私のどうでも良い私怨とアンナの焦りが、黒ずくめの戦士によって中断される。

 そこで、何だか場が一旦仕切り直しのような雰囲気になった。


「……っと、とりあえず自己紹介しましょう!私の名前は……メリアと言います」

「おう、俺はクロウだ。こいつの護衛やってる」

「……改めまして、アンナです。取り乱してしまい、申し訳ありません」


 名前をPCの名前で答えてしまった。

 とはいえ、今更日本語の本名で話した方が不自然だろう。この世界、基本洋風だし。

 そして、とりあえず誤解を解くところから始めよう。


「それで、アンナさん。一つ誤解がありまして……私自身、何といっていいかわからないんですが……」

「誤解、でございますか……?」




 〇



「あー……つまり、なんだ。あんたはゲームとやらで吸血鬼の自分になり切って、架空の世界で遊んでいたら、実際にその世界に来てしまったと」

「おお、クロウさん、素晴らしい。その通りです!」


 クロウさんとアンナさんは一旦私から離れてひそひそ話をする。


「……おい、どうすんだよ。吸血鬼は吸血鬼でも、精神的に異常がある吸血鬼だぞ?本当に手がかりなのかこれ……」

「いえ、私には分かります。あの方は間違いなくヴァルナハトの吸血鬼です。高位の種族で長命な方は、特に精神を壊しやすいと聞きますし……」


 聞こえてる。

 めっちゃ聞こえてる。

 分かっちゃいたけど、精神異常扱いされるのはきついなぁ!まあ自分も現実に起きなきゃそう思っただろうし、反応に同意できる分余計気まずい!


「あ、あのー、それでですね。ゲームと一緒ならヴァルナハトへの行き方も分かるんですが」

「!!本当ですか!?」

「おい、アンナ……」

「でもですね、今が何年だとか、本当に全部ゲームと一緒なのかがわからなくて……」

「お教えいたします故、どうかヴァルナハトへの行き方を!」

「落ち着け、アンナ!」

「だから、私にこの世界のことを教えてもらったり、独り立ちするまで生活の補助をお願いする代わりに、ヴァルナハトまで共に行くというのはどうでしょう!」

「素晴らしいです!!契約成立!」

「アンナ―!!」


 私にしがみつくアンナさん、そんなアンナさんの頭を叩いて正気に戻そうとするクロウさん。

 もうなんだかしっちゃかめっちゃかだった。

 




「……それで、だ。いい加減この遺跡から出ようぜ?もう夕暮れ時も近い」


 クロウさんの発言に、私もアンナさんも頷きを返す。


「結局、クロウさんも契約には了承してくれますか?」

「おれぁ護衛だよ。アンナに危険を避けるように頼みゃするが、意思決定はアンナがする」

「そういう事です。それと……」


 アンナさんは懐から丸石……導石を取り出す。

 それは、確かに私以外の方向を指し示していた。


「丁度、新しい導が、町の方にあるようですしね」

「はぁ!?」


 それに対してクロウさんは何故か驚いた。


「おいおい、流石に町に戻るのは反対だぜ!冒険者の中に刺客がいたんだぞ?ぜってぇ異端審問官共が捕捉してくる!」

「大丈夫でしょう。心強い旅の仲間も出来たことですし」

「え、えー?それって私ですか?」

「もちろんです!」


 アンナさんは笑顔でそういう、が。


「契約に護衛は含まれてなかったような……」

「おや、メリアさんは今、右も左もわからず、空想の世界に迷い込んできてしまったのでしょう?頼れる人間は貴重なはずです。ましてや貴方はヴァンパイア。発見されれば即討伐隊が組まれます。契約を結んで貴方に物事を教えられる人間が我々意外にいない以上、我々は既に運命共同体なのです」

「ぬ、ぐむぅ……」


 ぐうの音が出る程度には正論だった。


「こいつ、結構あくどいところがあんだよな……」


 クロウさんはぼそりと呟いた。


「はい、何はともあれ町まで行きましょう!道すがら、メリアさんと知識の交換もしたいことですしね」


 にこやかに笑うアンナさんに少々押されながら、私とクロウさんは町までの道を歩いた。




 〇



「なるほど……。メリアさんが生きていたのは、四大国家が覇権を争っていた時代でしたか……」


 アンナさんと互いに自身の知識を語り合いながら、町までの道を歩く。


「今はもうないんですか?四大国家」

「はい。四大国家が存在したのは、資料が正しければ約五百年前。最終戦争と呼ばれる戦争が起き、そこで一度世界は滅んだと言われています」


 新鮮な気持ちでアンナさんの話を聞く。

 なんだか脳みその裏側がうずうずしてくる会話だった。ゲームが現実になると、まるで自分がやっていたゲームが本当の歴史の様に思えてワクワクする。

 五百年前に存在していた四大国家、竜人帝国ドラグニク、海洋都市同盟レンブル、神聖大樹国オードレリア、そして最後に、存在を秘匿された夜の国ヴァルナハト。

 この国々は最終的に最終戦争と言うものを起こし、人類は世界事一度滅びかけたらしい。

 それを救ったのが、流浪神トリアント。今は救済神トリアントとも呼ばれ、トリアント教会にて祀られている。大陸最大の宗教だ。

 トリアントは人々に奇蹟と、知恵と、力を授け、最後には星に巡る力……マナと呼ばれるものになって世界を救った。

 現在の世界に大気と魔力があるのは、トリアントのおかげなんだそうだ。


「ここまで聞けばトリアントは大層素晴らしい神様なんですが、問題も一つ」

「トリアント教はな、人間贔屓なんだ。他種族、特に魔族に対しては苛烈に弾圧するくらいには」


 アンナさんとクロウさんが言うには、恐らく四大国家の中で一般にヴァルナハトの名前だけが知られていないのは、トリアントが魔族の国があった、というのを消したかったからではないか、との事。


「まぁ、今時魔族なんかどこ行ったって鼻つまみものの厄介者だしな。今の覇権種族は人間ヒューマンだ。次いで妖精人エルフ獣人ビーストマンだのの亜種族。魔族は敵か最底辺だ」

「人に近いところで暮らす魔族は迫害されて育ちます。それゆえ人間への憎悪を抱き、先の鮮血公爵の様に大事件を起こすものも少なくない。……まぁ迫害関係なく、魔族は大抵プライド高く協調性がないので、群れて国家をつくることが出来ず人間に対抗できないというところもありますが」


 慣れた口調で世相を話す二人。

 その話に頷いている内に、夕暮れを背景に町が見えてきた。


「見えたぞ。コートロルムの町だ」

「カラカンじゃないんですね」

「カラカン?……ああ、確か近くにそんな遺跡があった様な」


 町には門と衛兵が立っているのが見える。

 それにほっとしたように、クロウさんは言った。


「何とか閉門前に着けたな。……あっーつってもなぁ。町に着いた瞬間異端審問官がずらり、ってのもあり得るぜ」

「恐らくはないでしょう。それならば、冒険者に紛れ込みなどせず正面から異端審問官を率いてやってきています。彼らは、我々を秘密裏に処理したいのでしょう」


 二人はそう言うが、秘密裏に始末したい、などと言う話を聞くに、どうやら迫害とはまた別の理由で異端審問官に追われているらしい。

 すると気になることがある。


「……そういえば、二人は何で追われているんですか?」


 そう言うと二人は顔を見合わせて、しばらく黙った後に。


「「まぁまぁまぁ」」


 と何故か誤魔化した。



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