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第三十五章「俺たちの最強ロボット」
1
「合体だ!」
コウタが叫んでから、すでに一時間が経過していた。
ジャンクヤードの整備場は、これまでにない騒ぎに包まれている。コウタは夢中で機体の図面らしきものを地面に描き、ああでもないこうでもないと呟きながら、時折ピキーンと硬直しては新たな理論をまくし立てていた。
「見てください、この原型をコアに、周囲の機体を次々と融合させるのです! 腕が足りなければ継ぎ足し、脚が足りなければ重ね、力が足りなければ気合で補う!」
「はいはい、わかったからちょっと黙ってろ」
リュカは煙草をふかしながら、呆れ果てた顔でコウタを眺めていた。しかし、その目はどこか真剣だ。彼は煙を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「……わかったよ」
「おや」
「あんたの言う『合体』とやらが本当にできるかは知らねえ。だが、ここにあるガラクタをかき集めて最強の機体を作るってなら、俺も乗ってやる」
リュカは周囲に集まっていた技術者たちを見渡した。彼らは最初こそコウタの熱弁に引いていたが、リュカの言葉に顔を上げる。
「聞いたか、てめえら。俺たちの最強ロボットを作るぞ。軍に見捨てられたクソッタレの俺たちが、あのドリフターどもをぶっ飛ばす機体をな」
場がざわついた。技術者たちの顔に、少しずつ熱が宿っていく。コウタは気取った微笑を浮かべ、優雅に一礼したきり、あとは腕を組んで満足げに眺めている。口を開くのはリュカの役目だと心得ているようだった。
「とはいえ、俺たちにできることは限られてる。設計図もねえ、資材もねえ、金もねえ。あんた以外、まともに機体を動かせるパイロットもいねえ」
リュカはコウタをじろりと見た。
「だが、あんたがいる。それだけで、なんとかなる気がしてきた」
「ふっ……当然です。私ですから」
「調子に乗るんじゃねえ」
リュカは新しい煙草に火をつけ、アイリを見た。
「あんた、さっきコウタがぶっ倒れながら喋ってた、あの『魂動機の先を行く理論』だか『クオリア抽出』だか、あれを形にする方法を考えてくれ。俺たちにわかる言葉でな」
「……やってみますわ。時間はかかりますが」
「かまわねえ。俺たちには時間だけは腐るほどある」
ユズハが手を挙げた。
「ユズハは何をすればいい!?」
「あんたは……そうだな、その辺のガラクタでも磨いてろ」
「えー! ひどい!」
「艦長の笑顔は、整備場の太陽です。それだけで十分です」
コウタが真顔で言うと、ユズハは顔を真っ赤にして俯いた。
「……ばか」
「ふっ……よく言われます」
リュカは深いため息をついた。
「とにかく、やるぞ。俺たちの最強ロボットを作るんだ。誰がなんと言おうと、俺たちは生き延びる。このジャンクヤードでな」
「おおっ!」
技術者たちが拳を突き上げた。こうして「俺たちの最強ロボット」開発プロジェクトは、正式に始動したのだった。
2
プロジェクトが始まって数日。整備場はかつてない活気に満ちていた。
技術者たちはジャンクヤード中の機体から使えるパーツをかき集め、リュカはそれらを一つ一つ検分して仕分けていく。コウタが描いた合体図面は、現実的な設計図に落とし込むとかなり無茶のあるものだったが、リュカは何も言わず、ただ黙々と調整を続けていた。アイリは持ち前の解析能力で、コウタが口走った「エントロピー反転理論の核心」をこの世界の技術水準で実現可能な形に落とし込もうと格闘している。そしてユズハは、リュカに言われた通りガラクタを磨き、合間に技術者たちへ手渡す飲み物や軽食の差し入れに走り回っていた。
「おい、星野。あんた、本当にこれ動くと思ってんのか」
リュカが作業の手を止め、コウタに尋ねた。
「ふっ……動きます。私ですから」
「またそれか」
「いいえ」
コウタは珍しく、真剣な顔でリュカを見た。
「私は、この機体が動くと信じています。あなた方が、本気でこの機体を作ろうとしているからです。ロマンは、信じる者の手によって形になる」
リュカはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……あんた、やっぱりあの変なやつにそっくりだよ」
「ふっ……私は私です」
「ああ。わかってるさ」
リュカはそう言って、再び工具を手に取った。
3
さらに数日後。アイリがついに一つの結論を導き出した。
「……リュカさん。コウタが口にした『完全なるエントロピー反転』の理論をそのまま実装するのは、今の技術では不可能ですわ」
「そうか」
「でも、その本質——パイロットの意志を直接的な秩序形成力へと変換する原理——を応用して、現行の魂動機の出力を飛躍的に向上させることは可能です。具体的には、この補助機構を——」
アイリは手描きの設計図を広げ、リュカに説明を始めた。そこには、情動観測機の感度を指数関数的に高めるクオリア直結インターフェースや、マクスウェル・アクチュエーターの選別効率を最大限に引き出すフィードバック経路が描かれている。リュカは煙草をくわえたまま、真剣な眼差しで図面を見つめている。
「……なるほどな。これなら、俺たちでも作れるかもしれねえ」
「ええ。そして、この機構を最大限に活かすには、パイロットと機体の完全な同調——魂の共鳴が必要ですわ」
「気合、ってやつか」
「ふっ……ロマンです」
アイリは紅茶を一口含み、静かに微笑んだ。
「ええ。ロマンですわ」
リュカは図面を丸め、立ち上がった。
「よし、お前ら! やるぞ! 俺たちの最強ロボットに、とびきりの魂をくれてやる!」
整備場に再び熱気が満ちた。技術者たちはアイリの設計図を回し読み、興奮した様子で作業に取りかかる。コウタはその様子を腕組みして眺め、気取った微笑を浮かべた。
「ふっ……歴史の一幕に、私たちの名を刻みましょう」
「あんたはたまに黙ってろ」
リュカに睨まれ、コウタは素直に口を閉じた。ユズハがくすくすと笑い、アイリは新しい紅茶を淹れ直す。
ジャンクヤードの夜は、今日も騒がしく更けていくのだった。
4
開発プロジェクトが始まって数日。整備場はこれまでにない熱気に包まれていた。技術者たちはジャンクヤード中の機体から使えるパーツをかき集め、リュカはそれらを一つ一つ検分して仕分けていく。アイリはクオリア直結インターフェースの理論をこの世界の技術で実現可能な形に落とし込もうと格闘し、ユズハは汗を流す技術者たちに飲み物を配って回っていた。
そんな中、コウタは「原型」の装甲を外し、内部の動力炉をじっと見つめていた。旧式の核融合炉——何度も修理され、継ぎ接ぎだらけになった、まさにガラクタ同然の代物だった。
「ふっ……」
コウタは静かに微笑み、誰にともなく呟いた。
「核融合なんて飾りです。ロボットは気合で動かすものですよ」
その言葉に、整備場の空気が変わった。技術者たちの手が止まり、アイリとユズハも顔を見合わせる。
リュカだけが、背を向けたまま動かなかった。彼は煙草を深く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出す。そして振り返り、コウタを真っ直ぐに見た。その目は、今まで見せたことのない、真剣なものだった。
「……お前、それ誰から聞いた?」
コウタはきょとんとした顔でリュカを見返した。自分が何を言ったのか、よくわかっていないようだった。
「ふっ……さあ。」
リュカは煙草をもみ消し、コウタに詰め寄った。
「それはな、ずっと昔に俺が聞いた言葉だ。ここに来るずっと前、俺がまだガキだった頃に、たった一人だけ、そんなことを抜かしてた大馬鹿者がいたんだよ」
アイリとユズハが息を呑む。コウタは相変わらずピンときていない顔で首を傾げていた。
「……そうなのですか。それは奇遇ですな」
「奇遇で済むか!」
リュカは声を荒げかけて、ぐっと堪えた。彼は深く息を吐き、再び煙草に火をつける。
「……あんた、やっぱりあいつにそっくりだ。口調も、考え方も、そのイキった態度も。まるであいつの生まれ変わりみたいじゃねえか」
「ふっ……私は私です。誰かの生まれ変わりなどではありません」
「そうかよ」
リュカは煙を吐き出し、背を向けた。でも、その背中はいつもより小さく見えた。
ユズハがそっとコウタの袖を引いた。
「ねえ、コウタくん。リュカさんの言ってる『あいつ』って、もしかして……」
「ふっ……さあ。私の記憶にはありません」
「……またそれか」
アイリが呆れたようにため息をつく。
「でも、リュカさんがそこまで言うなら、きっと本当にそっくりなんでしょうね。コウタと瓜二つの、変な人が昔いたんですわ」
「ふっ……それはお会いしてみたかったものですな」
リュカは振り返らず、ぼそりと呟いた。
「……あんたは、あんただ。それでいい。どうせ何を言っても無駄だろうよ」
彼はそう言って、機体の整備に戻っていった。でも、その手は微かに震えていた。
第三十五章 了
『彗星の指揮官は今日も無茶を言う』 続く




