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第二十六章「星の欠片」


1


ツクヨミ、艦内の簡易分析室。


アイリは白衣を羽織り、真剣な眼差しで解析装置のモニターを見つめていた。手元には、コウタから預かった零式の破片——小さな金属片が、無菌ケースの中に収められている。


「……どうです、少尉」


コウタが後ろから声をかけた。今日は非番で、アイリの分析に立ち会っている。ユズハも隣で、珍しく神妙な顔つきでモニターを覗き込んでいた。


「……信じられませんわ」


アイリは眉をひそめ、解析データをスクロールさせた。


「まず、この金属の組成がまったく未知ですわ。周期表に存在しない元素が含まれています。少なくとも、連合宇宙軍のデータベースには該当なし」

「ふっ……異世界の産物ですからな」

「それだけではありません。この破片、極めて微弱ですが、常に一定のエネルギーを放出していますわ。しかも、そのエネルギー波形が——」

「波形が?」

「……貴方の生体反応と、完全に同期していますわ」


コウタは目を丸くした。ユズハも首を傾げる。


「コウタくんの生体反応と同期って、どういうこと?」

「つまり、この破片はまるで生きているかのように、コウタの魂と共鳴しているんですの。理屈では説明できませんわ。でも、データは確かにそう示している」

「ふっ……ロマンですな」

「……またそれですか」


アイリはため息をついたが、その顔はどこか嬉しそうだった。彼女はさらに解析を進め、破片の断面を電子顕微鏡で観察した。


「……これは」


彼女は絶句した。破片の内部には、無数の微細な回路が刻まれていた。しかし、それは人間の技術で作り出せるものではない。まるで、金属そのものが自然に成長して、この構造を形作ったかのようだった。


「……まるで、金属の細胞ですわ。この破片は、ただの装甲片ではない。何かの『記憶』を宿している」

「記憶?」

「ええ。この回路は、明らかに情報を保持するための構造ですわ。しかし、その情報を読み取る術は、今の私にはありません」


アイリはモニターから顔を上げ、コウタをまっすぐに見つめた。


「……コウタ。この破片は、貴方にしかわからない何かを伝えようとしているのかもしれませんわ」

「ふっ……零式のゴーストが私を攻撃するのも、その『何か』のためですか」

「おそらく。この破片は、貴方が本来の自分を思い出すことを望んでいる。そして、それは貴方にしかできないことですわ」


コウタは破片を手に取り、そっと握りしめた。ほんのりと温かい。まるで、零式の魂がそこに宿っているかのように。


「ふっ……わかりました。私はこの破片と共に、本来の自分を取り戻しましょう」

「……ええ。私も、解析できることは続けますわ。何かわかれば、すぐに報告します」

「ふっ……感謝します、少尉」


ユズハも笑顔でうなずいた。


「ユズハも応援するからね! コウタくんとなかよしの零式さんが、早く仲直りできますように!」

「ふっ……仲直り、ですか」

「うん! だって零式さん、コウタくんに怒ってるんだよね? それって、コウタくんのことが大好きだからだよ。ユズハにはわかるもん」

「……ふっ。そうかもしれませんな」


三人は顔を見合わせ、小さく笑った。


分析室の片隅で、零式の破片は静かに、しかし確かな温もりを放ち続けていた。


2


それから数日後。アイリは再びコウタを分析室に呼び出した。


「……少尉、何かわかりましたか」

「いいえ。むしろ、謎が深まりましたわ」


彼女はモニターに、破片の詳細な解析データを表示した。


「この破片、時間の経過と共に内部構造が変化していますわ。まるで、生きているかのように」

「……変化?」

「ええ。最初に解析した時よりも、回路の密度が増している。何かを学習し、成長しているんですの」

「ふっ……ロマンですな」

「……もう、それ以外に言葉はないんですの?」


アイリは呆れながらも、どこか楽しそうだった。


「でも、一つだけ確かなことがありますわ。この破片は、貴方にとって危険なものではない。むしろ、貴方を導こうとしている」

「導く……?」

「ええ。この破片が貴方に見せる『零式のゴースト』は、おそらく貴方自身の魂の投影ですわ。貴方が忘れている『本来の自分』が、形を取って現れている」

「……なるほど。つまり、零式は私自身」

「そうかもしれませんわね。理屈ではありません。ロマンです」


アイリはコウタの口癖を真似て、少しだけ微笑んだ。


「ふっ……少尉もようやく、ロマンの住人ですな」

「調子に乗るな、この雑魚」

「ふっ……相変わらずですな」


二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


零式の破片は、今日も静かに温もりを放っている。それは、コウタが「本来の自分」へと至る道を、優しく照らし続ける灯のようだった。



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