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第二十三章「パイロット立志編 〜言い訳の天才〜」


1


ツクヨミ、第一格納庫・模擬戦エリア。


コウタが帰還してから一週間。鬼丸副長の指示で、コウタは正式に「テストパイロット」として模擬戦訓練に参加することになった。肩書きは相変わらず「整備試験員」のままだったが、スサノオに乗れるのは彼だけだという事実が、徐々に司令部にも認められつつあった。


「星野訓練生、本日は基礎機動の再確認だ。相手は訓練生のカイト。お前より二つ年下だが、成績は上位だ。気を抜くなよ」


鬼丸の声が通信に響く。


「ふっ……ご心配なく。私ですから」


コウタはスサノオのコックピットで、気取った微笑を浮かべた。機体の調子は万全だ。斬魂刀も青白く輝いている。準備は整っている。


「模擬戦、開始!」


合図と共に、相手機が飛び出した。コウタもスサノオを前進させようと、操縦桿を握りしめる。しかし——間に合わない。相手機の模擬弾が、スサノオの胸部に命中した。


【判定:被弾。残機数ゼロ。勝者、カイト訓練生】


「……ふっ」


コウタはモニターを見つめ、静かにうなずいた。


「星野先輩、ありがとうございました! でも先輩、出だしが遅かったですよ」

「ふっ……本来なら、ここで背部ブースターが火を噴いてかわせるはずだったのです」

「……は? スサノオにブースターなんてついてませんよ」

「ふっ……私の気合があれば、本来は火を噴くのです。シミュレーションでは再現されていないようですが」

「はあ……」


カイトは困惑した声で返事をし、通信を切った。


鬼丸が呆れた声で言った。


「星野、言い訳をするな。次だ」


2


第二戦。相手は別の訓練生。


「模擬戦、開始!」


今度はコウタも素早く動いた。相手機の攻撃をかわし、斬魂刀を抜く。模擬刃が相手機の肩をかすめた。しかし、決定打にはならない。逆に相手機の反撃がスサノオの脚部を捉えた。


【判定:被弾。機動性能低下。その後の攻撃で残機数ゼロ。勝者、訓練生】


「ふっ……」


コウタは操縦桿から手を離し、天井を見上げた。


「星野先輩、今のどうでした?」

「ふっ……本来なら、斬魂刀がお前の機体を真っ二つにしていたはずなのです」

「え? でも、模擬戦用に出力制限されてますよね?」

「ふっ……私の魂があれば、制限など関係なく刃は届いていた。シミュレーションでは魂が再現されていない。やむを得ません」

「魂って……」


訓練生は首を傾げながら通信を切った。


鬼丸のため息が聞こえる。


「星野、次だ」


3


第三戦。


【判定:被弾。残機数ゼロ。勝者、訓練生】


「ふっ……本来なら、このタイミングで流星駆動が火を噴き、瞬時に間合いを詰められていたはず」

「流星駆動ってなんですか」

「ふっ……私の愛機がかつて装備していた伝説の加速装置です。今はありませんが、私の魂は覚えている」


第四戦。


【判定:被弾。残機数ゼロ。勝者、訓練生】


「ふっ……本来なら、月読の盾が自動展開して、あの攻撃を防いでいたはず」

「月読の盾……?」

「ふっ……かつて私を守った伝説の防壁です。シミュレーションでは再現されていませんが」


第五戦。


【判定:被弾。残機数ゼロ。勝者、訓練生】


「ふっ……本来なら、ここで幻影発生装置が起動し、敵は私の残像に惑わされていた」

「……もういい」


鬼丸の声が、疲れ切った調子で響いた。


「星野。お前、負けるたびに『本来なら』『かつては』『私の魂があれば』と言い訳をしているが、全部シミュレーションには関係ないことばかりじゃないか」

「ふっ……関係あります。私のロマンが再現されていないだけです」

「ロマン……」

「ええ。この模擬戦は、私の真の力を測るには不完全です。本来の私は、もっと強い」

「……データは嘘をつかんぞ。お前は今日、五戦全敗だ」

「ふっ……データなど飾りです」


鬼丸は何も言わなくなった。


4


食堂。昼食の時間。


「コウタくん、今日の模擬戦、どうだった?」


ユズハがハンバーグを頬張りながら尋ねた。隣ではアイリが紅茶を飲んでいる。


「ふっ……五戦全敗です」

「ええっ!? コウタくんが!?」

「ふっ……シミュレーションが私のロマンを再現できていないだけです。本来なら、五戦全勝でした」

「……どういうこと?」


アイリが冷たい目で紅茶を置き、タブレットを取り出した。


「説明していただけますわね」

「ふっ……本来なら、背部ブースターが火を噴き、流星駆動が加速し、月読の盾が防御し、幻影発生装置が敵を惑わせ、斬魂刀がすべてを斬り裂いていました」

「……それ、全部スサノオには搭載されていない武装ですわね」

「ふっ……私の魂は覚えているのです」

「魂が覚えていても、機体になければ意味がありませんわ」

「ふっ……シミュレーションの限界です。やむを得ません」


アイリは深いため息をつき、紅茶を一口含んだ。


「……要するに、貴方は自分の敗北をすべて『機体のせい』『シミュレーションのせい』にしているんですのね」

「ふっ……違います。私は真実を語っているだけです」

「どこが真実ですの、この雑魚!」

「ふっ……雑魚とは心外です。私は本来、もっと強いのですから」


ユズハは二人のやり取りをニコニコと眺め、そしてコウタの手を握った。


「コウタくん、ユズハは信じてるよ! コウタくんは本当は強いんだよね!」

「ふっ……当然です。私ですから」

「でも、シミュレーションでも勝てるように頑張ろうね!」

「ふっ……善処します。しかし、シミュレーションが私のロマンを再現しない限り、真の実力は発揮できません」

「……もう好きになさい」


アイリは諦めたように紅茶を飲み干した。


5


第三格納庫。夜。


コウタは一人、スサノオのコックピットに座っていた。


「ふっ……スサノオ。私は今日、五戦全敗でした」

「……」

「しかし、お前は知っているはずです。本来の私が、どれほどの戦士であるかを」

「……」

「シミュレーションでは再現できない。私の魂の力も、かつてお前が纏っていたロマン兵器の数々も。だから、私は負けたのです。決して私の実力ではない」


斬魂刀が、青白い光を静かに放った。まるで「そうだそうだ」と相槌を打つかのように。


「ふっ……お前だけはわかってくれる。私の真のロマンを」


彼は操縦桿をそっと撫で、目を閉じた。


「……明日も、私は言い続けましょう。『本来なら』と。それが、私のロマンですから」


スサノオは何も答えない。でも、斬魂刀の青白い光が、一際強く輝いた気がした。


第二十三章 了


『彗星の指揮官は今日も無茶を言う』 続く

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