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第十九章「孤高の戦士、異世界で立つ」


中央工廠に警報が鳴り響いたのは、コウタがジャンクの寄せ集め機体を完成させてから、わずか三日後のことだった。


「大型ドリフターです! これまでにない規模です!」


オペレーターの叫び声に、工廠内はパニックに陥った。モニターには、工廠の目前に迫る巨大なドリフターの姿が映し出されている。これまで中央大陸で観測されたどの個体よりも巨大で、虹色の触手は工廠の機動兵器を遥かに凌駕する長さだ。


「くそっ……! 試作機を出せ! 時間を稼ぐんだ!」


ガルド工廠長の号令で、工廠の試作機が次々と出撃していく。しかし、ドリフターの触手の前には為す術もなく、機体は次々と薙ぎ倒されていった。


「ダメです! 火力が足りません!」

「このままじゃ全滅します!」


工廠の中枢では、技術主任が頭を抱えていた。正規の機動兵器ですら歯が立たない。もはや撤退しかない状況だった。


「……各員、下がらせろ」


静かな、しかし確かな声が響いた。


振り返ると、そこには作業服を着たコウタが立っていた。その背後には、つい先日完成したばかりのジャンクパーツの寄せ集め機体――まだ名前すら与えていない、彼の「ロマンの結晶」が鎮座している。


「星野……? なにを言ってるんだ」

「ふっ……私が出ます。皆さんは下がっていてください」

「正気か!? そのガラクタで戦う気か! 死ぬぞ!」

「ふっ……ご心配なく。私ですから」


コウタは優雅に一礼し、自ら組み上げた機体のコックピットに乗り込んだ。ハッチは完全には閉まらない。モニターはジャンクから拾ってきた古いブラウン管で、画面の端が歪んでいる。動力炉は廃棄品を無理やり修理した旧式核融合炉。関節部は錆びついた駆動系に油を差しただけ。配線は切れ端を繋ぎ合わせた寄せ集め。


誰が見ても、動くはずのないガラクタだった。


しかし、コウタは操縦桿を握り、静かに微笑んだ。


「ふっ……行きますぞ」


機体が、ゆっくりと立ち上がった。ぎこちなく、ぎしぎしと関節を�ませながら、それでも確かに、自分の足で立った。


「う、動いた……! あのガラクタが……!」

「信じられん……!」


工廠の誰もが言葉を失う中、コウタの機体は工廠の門をくぐり、ただ一機でドリフターの正面に立った。


「ふっ……お待たせしました。私が相手になりましょう」


ドリフターの虹色の触手が、機体目掛けて振り下ろされる。工廠の試作機を一撃で薙ぎ倒したその攻撃を、コウタは紙一重でかわした。錆びついた関節が悲鳴を上げるが、彼は構わず機体を旋回させる。


「はあああっ!」


右腕の即席の剣――ジャンクの鉄板を削り出して作っただけの粗末な武器が、ドリフターの触手を斬り裂いた。本来なら切れるはずのない装甲を、なぜか剣は易々と貫く。


「な、なんだ……!? ただの鉄板が、ドリフターを……!?」

「ありえねえ……! あんなガラクタ機体が、なんで……!」


工廠のモニターを見つめる技術者たちは、誰もが同じ疑問を抱いていた。しかしコウタは止まらない。機体は無茶苦茶な動きでドリフターの攻撃をかわし続け、即席の剣で次々と触手を斬り落としていく。


そしてついに――機体はドリフターの頭頂部に躍り出た。


「ふっ……これで終わりです」


即席の剣を、渾身の力で頭頂部に突き立てる。瞬間、ドリフターは大きくしゃっくりをし、後退した。さらに追撃。二度、三度と剣を突き立て、ドリフターは断末魔の叫びと共に、消滅した。


工廠に静寂が戻る。


誰もが言葉を失い、ただモニターに映る一機のガラクタ機体を見つめていた。


やがて、工廠の門からその機体がゆっくりと戻ってくる。ボロボロになりながらも、確かに帰還を果たした。


コックピットから降り立ったコウタを、工廠の全員が呆然と見つめた。


「……星野。あんた、いったい……」


ガルドが震える声で尋ねる。


「ふっ……当然の結果です。私ですから」


コウタは気取った微笑を浮かべ、優雅に一礼した。その姿は、つい先ほどまでジャンクを漁っていた変わり者の整備員と、何一つ変わっていなかった。


リュカが駆け寄り、コウタの肩を叩いた。


「コウタさん……! あんた、本当にやりやがった……!」

「ふっ……私は約束しました。気合で動くロボットをお見せすると」

「気合って……マジで気合だったのかよ……!」


リュカは涙を浮かべて笑った。工廠の技術者たちも、いつしか拍手を送っていた。それは、変わり者扱いされてきた男への、初めての心からの称賛だった。


しかし、コウタは機体を振り返り、静かに呟いた。


「……ふっ。しかし、まだ名前がありませんでしたな」

「名前?」

「ええ。この機体は、私のロマンの結晶。相応しい名を与えねば」


彼は少し考え、そして微笑んだ。


「……『零式』。ゼロから始まる、私の新たなロマンです」


こうして、異世界で生まれた最初の「魂動機」――いや、まだ誰もそう呼んではいないが――が、その産声を上げたのだった。


第十九章 了


『彗星の指揮官は今日も無茶を言う』 続く

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