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第二十章「ロマンの継承」
1
大型ドリフターを単機で撃退した翌日。コウタは工廠長ガルドに呼び出された。
部屋にはガルドだけでなく、技術主任や中央工廠の上層部、そして見たこともない軍服を着た男たちがずらりと並んでいる。
「星野コウタ。あんたに頼みがある」
ガルドは真剣な顔で切り出した。
「あんたのその知識と技術を、正式に我々に貸してほしい。中央工廠の新型機動兵器開発責任者として、あんたを召集する」
「ふっ……開発責任者」
コウタは腕を組み、しばらく考え込む素振りを見せた。しかし、その目はすでに決まっている。
「いいでしょう。お受けしましょう。歴史の一幕に、私の名を刻むために」
「よし! ありがとう、星野!」
ガルドは破顔し、技術主任もほっと胸を撫で下ろした。軍服の男たちも満足げにうなずく。
こうしてコウタは、正式に中央工廠の新型機動兵器開発責任者に就任した。ジャンクを漁っていた変わり者の整備員が、一夜にして工廠のトップに立ったのだ。
2
コウタの指揮のもと、新型機動兵器の開発は驚くべき速さで進んでいった。
彼がツクヨミで培った整備知識——未来の技術——は、この世界ではまさに「魔法」のようなものだった。動力炉の効率化、駆動系の最適化、装甲配置の見直し。どれもこれも、この世界の技術者たちが何年も解決できなかった課題を、コウタはいとも簡単にクリアしていった。
「す、すげえ……! このフレーム構造、軽いのに強度が三倍以上ある……!」
「動力炉の出力が五割も向上してる……! どうなってるんだ……!」
技術者たちは口々に驚きの声を上げた。コウタは腕を組み、気取った微笑を浮かべる。
「ふっ……当然です。私ですから」
「でもよ、星野さん。動力炉は結局核融合のままじゃねえか。気合で動くロボットはどうしたんだよ」
リュカが茶化すように言うと、コウタは真顔で答えた。
「ふっ……気合で動くロボットは、すでに完成しています」
「は? あの零式のことか? あれ、結局どうやって動いてるんだよ。俺たち、何度も同じものを作ろうとしたけど、まったく動かねえじゃねえか」
「ふっ……零式は、私の魂が宿った唯一無二の機体です。同じものは二度と作れません」
「魂って……やっぱりあんた、わけわかんねえよ」
リュカは呆れ顔でため息をついた。しかし、コウタの言葉は事実だった。零式だけは、なぜか彼にしか扱えず、同じ設計図で作られた二号機はただの鉄くず同然だった。工廠の誰もが首を捻ったが、結局「星野の気合のなせる業」ということで片付けられた。
3
それでも、コウタがもたらした未来の整備知識は、零式以外の機体にこそ真価を発揮した。
彼の設計思想に基づいて作られた新型機動兵器は、従来機とは比べ物にならない性能を誇った。軽量かつ高強度のフレーム。効率的な動力炉。パイロットの負担を軽減する操縦系統。どれをとっても一級品だった。
最初の量産型が完成した日、工廠中が歓声に包まれた。
「できた……! 本当にできたぞ……!」
「これならドリフターに対抗できる……!」
「星野さんのおかげだ……!」
コウタは新型機を見上げ、静かに微笑んだ。
「ふっ……素晴らしい機体です。しかし、まだ完成形ではありません」
「え? まだ何か足りないのか?」
技術主任が不安そうに尋ねる。
「ふっ……気合が足りません」
「またそれかよ!」
周囲から笑い声が上がった。しかし、誰も本気でコウタを馬鹿にしている者はいなかった。彼の「気合」や「ロマン」という言葉は、いつしか工廠の合言葉になっていたのだ。
4
その後も、コウタの設計思想を受け継いだ傑作機が次々と生み出されていった。
零式の設計データを基に、より洗練された機体——後の世に「英雄機」と呼ばれることになる機動兵器の数々が工廠から旅立っていった。パイロットたちは口を揃えて言った。
「この機体は、なんだか乗っていて気持ちがいい」
「操縦桿を握ると、機体が応えてくれる気がする」
それは、コウタが設計の随所に残した「気合の痕跡」だった。彼自身はもう零式以外の機体に「魂」を宿らせることはできなかったが、その設計思想には確かに彼のロマンが息づいていた。
そして、年月が流れた。
中央工廠はこの世界で最も重要な機動兵器開発拠点となり、コウタの名は伝説として語り継がれるようになった。
「気合でロボットを動かした男」
「零式の生みの親」
「ロマンを形にした天才」
彼を直接知る者たちは口を揃えて言った。
「星野さんは、確かに変わり者だった。でも、あの人のおかげで俺たちはドリフターに勝てるようになったんだ」
5
そして、ある日のこと。
コウタは工廠の裏手で、零式の整備をしていた。相変わらずの継ぎ接ぎだらけの機体。動力炉は廃棄品。配線は切れ端の寄せ集め。右腕には即席の剣。誰が見てもガラクタだ。
しかし、コウタにとっては唯一無二の愛機だった。
「ふっ……零式。お前は私のロマンの結晶です」
「……」
「この世界の人々は、私の設計を基に傑作機を生み出しました。しかし、お前だけは特別だ。お前だけが、私の魂を宿している」
零式は何も答えない。でも、即席の剣が、ほんの一瞬だけ青白く輝いた気がした。
「ふっ……では、そろそろ行きましょうか」
コウタはコックピットに乗り込み、ハッチを閉めた。彼は知っていた。この世界での役目は終わった。次なるロマンを求めて、旅立つ時が来たのだ。
「零式、発進します」
機体はゆっくりと浮上し、工廠の門をくぐっていった。
リュカがそれに気づき、駆け寄って叫んだ。
「コウタさん! どこ行くんだよ!」
「ふっ……ロマンを探しに。私ですから」
コウタは通信越しにそう答え、気取った微笑を浮かべた。
「……あんた、本当に変わってるよ」
「ふっ……よく言われます」
「でも……ありがとうな、コウタさん。あんたのおかげで、俺たちは強くなれた」
「ふっ……当然です。私ですから」
「……元気でな」
「ふっ……リュカさんも」
零式は空へと舞い上がり、やがて光に包まれて消えていった。
後に残されたのは、中央工廠に満ちる「ロマン」という言葉と、コウタが遺した数々の傑作機の設計図だけだった。
技術者たちは、彼が去った後も口々に言った。
「星野さんは言ってたよ。『核融合炉より気合で動くのがロボットだ』って」
「意味はわからねえけど、なんかカッコいいよな」
こうして、コウタのロマンは形を変え、異世界の技術者たちの心に永遠に受け継がれていったのだった。
第二十章 了
『彗星の指揮官は今日も無茶を言う』 続く




