表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

チャプター 15:「強敵」

「どうだ、ハル。準備できたか」

 先にパイロットスーツへ着替え終わったエディは、いつもの如くカーテンの中で着替え

るハルを覗く。

「うん。大丈夫」

 ハルの準備はほぼ終わっており、カーテンを開け外へ出ると、机に用意された手袋やヘ

ルムを淡々と身につけ始めた。

 普段ならば赤面し、背中を向けるハルだが、その日は強張った表情を崩さなかった。そ

れもその筈で、二人が行ってるのは入隊試験の準備であり、開始まで半刻を切っていた。

「緊張、してるのか?」

「…………うん」

 素直に心中を吐露するハルに、エディは微笑んだ。

「大丈夫だ。いつも通りにやればいいし、それしかできる事はないんだ。気楽に行こう」

「そう、だね」

 ぎこちなく微笑み返すハルに、安堵する。自分の発した言葉は自分自身にも向けた言葉

であり、自分自身も、入隊試験に臨むのは初めてだった。

「着衣良し、ヘルム、ゴーグル良し…………いいな」

 声に出しながら、お互いの装備を点検する。

 問題が無い事を確認すると、二人は一つ頷きあった。

「よし…………行くぞ!」

「うん! 行こう」

 確たる足取りで部屋を出た二人は、迷いなく格納庫へと向かった。正午も近く、日差し

は燦々と降り注ぎ、乾いた滑走路の土が突風に弄ばれ、煙となって巻き上がる。

 格納庫へ到着すると、制服姿の隊員達がいくつかの列を作り、整然と並んでいた。

「よう。準備はいいか?」

 列の正面に立つハンクが向き直り、二人に問う。エディとハルは息を合わせたように頷

いた。

「ようし! それでは入隊試験を始める。受験者はエディ・シャムロック、ハル・エリオ

ット。一次試験は基地上空での格闘戦、二次試験は偵察任務に必要な持久力を試す長距離

飛行。この二つを行う」

 隊員達に向き直ったハンクは、全員を見渡し手を腰に当てた。

「先ず、一次試験の対戦相手を発表する。これは俺も悩んだが…………」

 ハンクの視線は、列の右端に経つ、長身の男へ向けられる。

「ブライアン、アドニス。お前達が飛んでくれ」

 ハンクの一言に、隊員達がどよめく。ブライアンとアドニスの二人は隊の中でも非常に

優秀で、序列があるならばハンクに次ぐ実力だと評価だれていた。

 指名されたブライアンが、無精ひげを撫でながら鋭い視線を投げかけた。

「隊長。俺を指名するのは構いませんが。新人を入隊させるつもりがないのですか?」

「いいや? 一番妥当な選択ではないかと考えている。それに」

 口先に手を当て何かを言い淀むが、言葉にする事を選んだのか、強く息を吸う。

「先に言っておくが、お前を過小評価しているわけではない。だが、今回の試験について

は、敗北の罰はなしとする」

 庫内が一層ざわついた。ハンクの発言は、それ程異例のものだったからだ。

 入隊試験の相手をするのは正規のパイロットであり、経験も、技術も新人に劣っている

事は許されない。敗北した者には厳しい罰が与えられ、除隊処分も前例がある。これはパ

イロット達の技能を高める為の仕組みであり、限られた兵器を有効に利用する為にハンク

が考案した方針である。

 しかし、新人に劣っていると評価されたに等しいブライアンが冷静でいられる筈がなか

った。

 敵意をむき出しに、ハンクや、新人の二人を見る。

「…………いいでしょう。その汚名、晴らして見せます。アドニス、行くぞ」

「はい」

 ブライアンは金髪の機関師を連れ、格納庫の作業員へ戦闘機の出庫を命令する。

 二人を眺めていたハンクは、エディに向き直り苦笑した。

「怒らせるつもりは無かったんだが……あいつはどうも真面目すぎるんだ」

 エディは鼻で笑う。

「お前の言い方が悪い。あたしが同じ立場でも怒る…………いや、お前に稲妻を撃ち込ん

でいたかもな」

「ははは。それは怖い。…………それはそうと、エディとハルも準備してくれ。旦那はも

う機関室で待機してるから、いつでも飛べるぞ? 二人の乗る戦闘機はこの間の試験機だ。

既に滑走路に出してある。もう出ても大丈夫だ」

 エディはハンクから視線を外し、右隣に立つ相棒へ視線を降ろす。

「ハル!」

「うん!」

 手袋に包まれたお互いの拳を突合せ、二人は外へと駆け出した。

 滑走路の左側に用意された訓練機の梯子へ手を掛け、慣れた足取りで前方に収まったハ

ルに続き、エディが機体へと乗り込む。

 右方へ目を向けると、離陸準備を行うブライアンの機体が見えた。こちらの視線に気が

ついたのか、攻撃的な視線が帰ってくる。

「エディ、先に上がって試験区域まで飛ぼう。空に身体を慣らしたい」

「わかった。機関室に離陸の宣言を」

 エディの許可を受け頷くと、ハルは前方の門へ触れボイラーとの空間を繋ぐ。そして、

光の中からは当たり前のように回転する動力軸が顔を出し、戦闘機への動力供給を開始し

た。

「キースさん。先に離陸します」

『了解した。ブライアンがお前達の後方に着き次第、開始の合図を送る』

「了解しました。ハル・エリオット、エディ・シャムロック、離陸します!」

 機関室からの許可を受け、こちらを向くハルに、頷き返すエディ。

 キャノピーを閉じ、辺りに人が居ない事を目視確認すると、変速機を一速へと押し込む。

戦闘機はみるみる加速し、あっという間に地を手放し空へと舞い上がった。

「……不思議な気持ちだ」

「うん? 何がだ」

 訓練中は私語がないハルが珍しく口を開き、エディもそれに問い返す。

「さっきまではあんなに緊張していたのに、こうして空を飛ぶと、気持ちが落ち着くんだ。

何度もエディと飛んだ空だから」

 心から安心した様子のハルの声色に、エディの心も弛緩して行く。そして、いつもと同

じように、空中でいくつものターンを披露し、自分もいつも通りなのだとハルに伝える。

 数度目のターンを終えた所で、背後に気配を感じ振り向く。そこには、離陸してきたブ

ライアンの戦闘機が後方へ接近してきていた。

『ハル、いいか?』

「はい!」

『それでは…………始め!』

 キースの開始宣言と共に、背後のブライアンは容赦なく機関砲を発砲する。開始位置か

ら、エディ達は不利な立場にあり、後方を確認していたエディはその攻撃を辛うじて回避

する。

「……やってくれる!」

 機体を右へ傾け、斜め前方へと上昇してゆくエディと、それを追従するブライアン。

 旋回しながら前方に座るハルの様子を見ると、自分の相棒はいつも以上にしっかりとし

た雰囲気を纏っていた。その姿に、エディは高負荷を伴う戦闘機動を選択する。

「ついて、来ているな」

 後方を確認すると、僅かに距離を置いてブライアンの戦闘機がついてきていた。それは

ハンクの距離と同じながら、発する圧力は比べ物にならない程弱い。

 選択は一瞬で完了した。ターン終了時に機首を一気に下げ、機体が自由落下を超えた下

降を始める。急降下は戦闘機が最も速度を稼ぐ事のできる動作で、離されないよう後方の

ブライアンも追従してきた。

 しかしエディは急降下したまま、機体を百八十度回転させ、機首を引き上げた。加速し

た機体は急激に減速し、二人の下方に位置する空間をブライアンの機体が飛び去る。そし

て、距離が離れた位置から一度のターンで後方を捉えたエディが、変速機を五速まで使い、

相手の後方へ迫る。

 幾度か左右に振り回されるも、機関砲を撃つことなく、相手を冷静に観察するエディ。

 彼女には勝利の確信があった。ブライアンは腕の立つパイロットではあったが、比較対

象がハンクだけに、ひどく色褪せて見えていた。

 自分が上だという確信。

 それだけに焦りはなく、ただ静かに機会を待つ。

 そして、確実に仕留められる瞬間を狙い、静かに操縦桿の引き金を絞り、火を噴いた機

関砲が、相手の船尾と尾翼、左主翼へ赤い塗料を撒き散らす。

 相手の撃墜に、前方のハルへ目を向けると、同じように振り向いていたハルと目が合う。

「エディ!」

「ああ!」

 一次試験は驚くほどあっけなく、エディ達の勝利によって幕を引いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ