畏怖と敬愛を貴女に。
ガレンシア家で開かれた宴は見事なものだった。そして、それに参加する人々も。絢爛豪華な衣装にそれを引き立てる装飾具。女性は華やかに髪を結いあげ、男性は勲章や紋章でその身分を誇る。眩暈がしそうなほど、煌びやかな人々。
本当に、素晴らしいほど、自分には合わなかった。
ナーシャは、一人部屋でため息をついた。次第に会場にいるのを苦痛に感じ始め、主役たちが愛の巣に引き上げるや否や、早々に自室に戻ったのだ。
そう、あの兄夫婦は彼女に、ほいっと、それはもうすごい部屋を下さった。今まで自分が暮らしていた部屋がトイレの広さに負けているのに気が付き、涙するような部屋を。室内装飾も無駄に豪華だ。
その自室の重厚な扉を誰かがノックする。
「どうぞ。」
入ってきたのは、メイドだった。
言われるままに、そのあとについていくと、そこは。
「・・・ここは、兄達の寝室では?」
さすがのナーシャにも、あの新婚らぶらぶバカップルの部屋に堂々と入っていく勇気はない。
どうしようか迷っていると、ふいに、開いた扉から伸びた腕に部屋の中に引きずり込まれる。
すると、中では両親とナスターシャが、向かい合わせのソファーに座っていた。ナーシャは、自分をこの部屋に引きずり込んでくれた兄を見上げた。
「・・・兄さん。そんな趣味が・・・。」
「おいっ! ちょっとまて、おまえ、とんでもない想像をしなかったか、今。違うぞ。誤解だからな。そんな生暖かい目で俺を見るな。おいっ。ナスターシャ、父さん、母さん。何とか言ってくれ。俺はそんな男じゃないって。って、なんで皆、目をそらすんだ。」
「さて、兄さんで遊ぶのはこのくらいにして。」
え、俺もてあそばれたの!? と、泣き崩れてみせる兄を放っておいて、彼女は、母の隣に座る。
「で、ご用件は?」
「お、おい。ナーシャ。」
父が焦っている。さすがに、四大貴族相手に、この態度はまずかっただろうか。
だが、当の四大貴族様は、泣き崩れる夫を面白そうに見ながら、扇子をひらひらと振り、構わないと微笑んだ。
「今日から、ナーシャさんは、私の妹ですもの。名前もなんだか似ていますし、ふふ、本当に妹ができたみたい。私、兄弟がおりませんでしたから、こんなに可愛らしい妹ができて嬉しいわ。式の時間が迫っていたものだから、正式なご挨拶はまだでしたわね。ごめんなさい。私は、ナスターシャ・ローランド・ガレンシアと申します。ナスターシャで構いませんわ。これからよろしくね。ナーシャってお呼びしてもよろしいかしら。」
そう言って、柔和に微笑む佳人に、私は頬を染めて、つぶやいた。
「どうやって、騙したんだろう。こんなに素敵な人。あの馬鹿兄にはもったいない。」
隣で両親が思わずという風に頷く。
「騙してなんかいない! 俺とナスターシャは相思相愛の恋愛結婚だ!」
いつの間にか復活した兄がナスターシャさんの横に座っていた。
「嘘だ」
「本当だって!」
「ふーん」
「あっ! 信じてないな!」
パンッ。
扇を閉じる音がナーシャと兄のじゃれ合いを止めた。見れば、ナスターシャがそれはそれは美しい笑顔で微笑んでいた。
「話を戻してもよろしいかしら。」
その笑みに、兄とともに、必死に何度も頷く。わが兄よ。早くも尻に敷かれているのか。そしてナスターシャさん。その笑顔、マジで怖いです。さすが、この馬鹿兄の手綱を握るだけはありますが、どうか、やめてください。




