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あなたは勇者さまなのです!

「つまるところあなたは別世界のたましいを持って現れた類稀な勇者さま。さあ、最強チートなユニークスキルを披露してくださいな!」


 マナの細い腕にぐんと引かれ、男はまたよろよろと崩れ落ちる。


「回復魔法の類も隠し持っているのでしょう?さあさあ、早く見せてちょうだい!」


 辺りを見回してみると、壊れた馬車と散らばる荷物。浮き立つ少女マナと……。


「さて……おはなしの続きはこいつらを蹴散らしてからにしましょうか」


 荷物の陰から現れたのは、大小様々なゼリー状の生き物だ。

積荷の中身を吸収したのだろうか、妙に気性が荒いように見える。

その中には鞍や外套、短剣なども取り込まれている。

……既のところで全滅だった、というわけだ。


「ふっふっふ、初陣がスライムだなんて最高のシナリオです。勇者さま、準備はいいですか?」


 難解な呪文の詠唱とともに、まばゆい光の輪が少女の足もとを這ってゆく。

持っている杖を振りかぶると、彼女の背後に幾何学模様の御光が現れた。

そこから生み出されたいくつもの火球はみるみるうちに大きくなり、スライムめがけて一斉に放たれた。

……スライムたちは、あっという間に消し炭となったのだった。


 得意げな眼差しで振り返る彼女を、男は腰を抜かしたまま眺めるばかり。


「大丈夫ですか?」

「……ああ」


 少女の手を借りて、男は再び立ち上がる。


「私はマナ。すぐそこの町の術士です」

「術士?」

「そうです。先ほどのような攻撃魔法を専門としています」


 金目のものを探しているのか、マナは燃え滓の中を漁りながら言った。


「勇者さま、そんな火事場泥棒を見るような目で見ないでください!採集までがお仕事なのですよ?」

「べつになにも言ってないじゃないか」


 赤く輝く珠だけを拾い集め、身につけている鞄の中へとしまってゆく。

よし、とつぶやくと、マナはバックルをしっかりと留めた。


「こうやって特定の魔法で倒すと、かれらは魔力の結晶を落とします。これを集めて日銭を稼ぐのが昇級の近道ですよ」


 マナから手渡された珠をじっと見つめてみる。

先の火球を閉じ込めたかのような燃えさかる赤色だ。


「出来高制のクエストや買取分であればもちろん自分で使っても大丈夫です!」

「使う?これをどう……?」


 男の言葉に、マナは大きな目を丸くした。


「なんと。案内の女神さまなどから説明はなかったのですか?」

「女神?」

「スキップしてこちらにやって来たのですか!もう……サブスクの利用規約やプライバシーポリシーと一緒ではじめが肝心なのですよ?」


 これも詠唱の一種なのだろうか。

矢継ぎ早に浴びせられる数々の言葉は先の詠唱よりもずっと難解だった。


「チートだのサブスクだの、さっきからきみはなにを言っているんだ。それにここはいったい……?」

「さすが勇者さま、鋭いですね。ここは東方の遠国などではありません。あなたは異世界へ転生した勇者さまなのです!」

「東方?転生?」


 男は再び意識を手放したのだった。

Character.

◆転生勇者(?)

 スライムに馬車を襲われた青年。

 記憶を無くしているようだ。

◆マナ

 ある日転生勇者を拾った術士の少女。

 「異世界転生」ものオタクで思い込みが激しい。

 クエストはのらりくらりがモットー。


Monster.

◇スライム

 行商人の馬車を襲った低級モンスター。

 魔法で倒すと属性に応じた魔力結晶をドロップする。


Item.

◆魔力結晶

 魔力の宿った結晶。

 火魔法で倒した時には赤色の珠が手に入った。

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