これが異世界転生なのです!
俺の名前は荒山湊。誰とでも替えが利くひどくつまらない非リア社畜だ。
それなりの大学を出てそれなりの会社に就職して、細々と趣味を楽しみながらそれなりの人生を終える……
なんとなく、そうなるだろうと思っていたはずなのに。
それなのに。
人生がうまくいかなくなったのはいつからだろう。
アラフォーになった途端子ども部屋おじさんを強制終了させられたところ?
バイトもせずにFラン大学をぬるぬる通い続けたところ?
高校の部活で陰キャからもハブられて秒で辞めたところ?
中学のマラソン大会を胃腸風邪で休んだら先生にまでサボり認定されたところ?
……35年という中途半端な俺の人生のどこにリスポーン地点があるというのだろうか。
別に、こんなつまらないゲームの中じゃなくたっていいのだけれども。
そんなことをふと考えながら、生産性のない残業を終えて帰路に就いた矢先のこと。
大きな音、揺れる世界、軋む身体と俺史上最大級にやばい悪寒。
そして、えも言われぬこの高揚感……。
赤いひかりは、救急車?それとも、おれの血?
声がこもって、なんていってるかももうきこえない。
こんなゲームもういいから、ちがうせかいにつれだしてくれよ……。
冷たい身体に、熱が逆流する。
ひっくり返った内臓がもとの位置へと帰ってゆく。
残業帰りだったはずの目の前にはやさしい木漏れ日。
そして、見ず知らずの女の子。
「ゆうしゃさま、ゆうしゃさま」
“勇者”だなんて、ゲームの世界じゃあるまいし。
……脇見運転のトラックにはねられたはずの俺の前には、たしかにその光景が映し出されていた。
「回復魔法はあまり得意ではないのですが」
これまたゲームの世界に出てきそうな魔女っ娘だ。
ロリにしては大きいし、大人にしてはあどけない。
俺を呼ぶ声もアニメ声優さながらの萌えボイスだ。
「ご気分はいかがですか?勇者さま!」
「……ここは……?」
「――ってやつですよね、勇者さま!」
「ゆう、しゃ……?」
「はい!馬車から落っこちて記憶を無くしているなんて、あなたは転生勇者さまに決まっています!」
信じられない。なにがどうなったら人様の大惨事に眼を爛々とさせていられるというのだ。
おまけに酔狂なモノローグまで耳元で囁かれ、ただでさえ痛い頭がもっと痛くなりそうだ。
思うように動かない身体を起こし、少女に問う。
「そもそも……異世界転生ってなんだ?」
「ふぇ?」
――遡ること数時間。
「あーあ、なにか面白いことが起こったりしないかな」
術士マナは冒険者ギルドの酒場にて無聊を託っていた。
「おねえさん、ここ数日で面白そうな冒険者さんの登録はありませんでしたか?もしくは中上級向けのクエストを受注しそうな勇者さま一行で、たまたま術士が追放されたばっかりのパーティとか……」
クエストボードの空いた画鋲を抜いては刺しを延々繰り返しているマナに受付嬢は業務の手を止め微笑みかけるが、誰がどう見ても辟易の表情である。
「またそんなことを言って。仲間を募りたいのならマナさんも依頼を受けてみたらどうですか?」
「いやですよー。低級クエストでは初心者のお守りをさせられ、上級クエストには余っている冒険者も欠員もいない。なので依頼を受けるときは採集のついでって決めてるんですよっ」
マナの指摘は的を射ていた。
この町のクエストはひとえにギルドマスターの采配のおかげか、実力に見合わない依頼に挑む無茶な、あるいは怠惰な冒険者が激減していたのであった。
「では、行商人がよく通る旧街道のモンスター討伐なんてどうかしら。新人さんがぞろぞろ行くのはちょっと憚られるエリアなの。単騎で挑めるマナさんにはもってこいだと思いますよ」
乗り気でなさそうなマナは丸く並べられた画鋲を眺めながら、ぼそりと呟いた。
「あーあ、なにか面白いことが起こったりしないかな。異世界から転生してきたとんでもなく便利なスキルを操る無敵の勇者さまが、どこかその辺りに落っこちていたらなー」
「――で、現在に至るというわけです。」
ふんぞり返るマナを見て、男はあんぐりと口を開けた。
転生した覚えはありませんが異世界転生オタクの仲間に『転生者』認定されて困っています ~【伏線】は自在に操れない~




