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桜の坂 ― 春から始まる、静かな恋  作者: 縁側×野良猫
第二章 冬

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第1部 再会 第二話

 棚の向こうで、

 人の動きが止まったように見えた。



 ほんの一瞬のことだった。



 手に取っていた本をそのまま持ったまま、


 視線を少しだけ上げる。



 相手も、

 同じようにこちらを見ていた。



 目が合う。



 それだけのこと。



 けれど、



 さっきよりも、

 はっきりとした違和感が残った。



 知らない人ではない。



 その感覚だけが、

 先にあった。



 どこで見たのかは、

 すぐには出てこない。



 けれど、

 まったく初めてではない。



 相手の方が、

 ほんのわずかに視線を緩めた。



 考えるような間。



 それから、


「あ……」



 小さな声だった。



 皐月も、

 同じように口を開く。



「あの時の……」



 言葉は、

 自然に出た。



 相手は小さくうなずく。



「坂で」



 短い言葉。



 それで十分だった。



 皐月も、

 小さくうなずく。



「はい」



 それだけのやり取り。



 静かな空気は、

 そのまま続いていた。



 少しだけ間が空く。



 誰も急がない。



 そのままの流れの中で、

 相手がゆっくりと口を開く。



「今日は……本を」



 言いかけて、

 少しだけ間があった。



「見に来ていて」



 持っていた本に、

 視線を落とす。



「私も……」



 それだけ言って、

 言葉を止める。



 相手も、

 そのまま受け取る。



 また、

 少しだけ間ができる。



 店内の静けさが、

 二人の間にあった。



 遠くで、

 ページをめくる音がする。



 その中に、

 二人は立っていた。



 相手は、

 手に持っていた本を棚に戻す。



「では」



 静かな声。



 それだけを残して、

 体の向きを変える。



 そのまま、

 歩き出す。



「はい」



 短く返す。



 足音が、

 ゆっくりと遠ざかっていく。



 やがて、

 その音も聞こえなくなる。



 その場に立ったまま、



 手に持った本の表紙を、

 しばらく見ていた。


 ――思っていたよりも、

 ずっと、近くにいたのかもしれない。


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