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桜の坂 ― 春から始まる、静かな恋  作者: 縁側×野良猫
第二章 冬

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第1部 再会 第三話

店を出ると、

 冷たい空気が戻ってきた。



 さっきまでの暖かさが、

 少しだけ遠くなる。



 コートの袖に手を入れながら、

 歩き出す。



 特に急ぐ理由はない。



 ただ、

 帰るだけだった。



 空は、

 冬らしく澄んでいた。



 雲は少なく、

 光はまっすぐに落ちてくる。



 それを、

 ただ目に入れながら歩く。



 足元で、

 乾いた葉が小さく鳴る。



 その音に、

 少しだけ意識が向く。



 すぐに、

 また離れる。



 通りを抜けて、

 人の流れに混ざる。



 誰かの声や、

 遠くの車の音が重なっていく。



 その中で、

 自然に歩いていた。



 特別なことは、

 何もない。



 それでも、



 ほんのわずかにだけ、



 歩く速度が、

 少しだけ揃っている気がした。



 誰かと並んでいたときの、

 あの感覚。



 それが、

 身体に残っているようだった。



 しばらく歩いて、

 家の近くまで来る。



 見慣れた景色。



 そのまま歩き続ける。



 玄関の前で、

 少しだけ立ち止まる。



 それから、

 静かに扉を開ける。



 中に入ると、

 外の冷たさが遠ざかる。



 暖かい空気に、

 自然と馴染んでいく。



 そのまま、

 いつも通りに過ごす。



 夜になり、

 部屋の灯りが落ちる。



 目を閉じる。



 そのとき、



 ほんの一瞬だけ、



 棚越しに見えた横顔が、


 かすかに浮かんで、


 消えきらずに残った。


 ――それは、思っていたよりも、

 静かに、深く残っていた。


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