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桜の坂 ― 春から始まる、静かな恋  作者: 縁側×野良猫
第二章 冬

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第1部 再会 第一話

冬の空気は、

 音を少しだけ遠くする。



 人の声も、

 足音も、


 どこか、

 薄く聞こえる。



 吐く息が白くなり、

 それがすぐに消えていく。



 本を一冊抱えながら歩いていた。



 いつも通りの道。



 けれど、

 季節が変わるだけで、


 同じ場所でも、

 違って見える。



 道の端には、

 もう花びらはない。



 代わりに、

 乾いた葉が少しだけ残っていた。



 それを踏むと、

 小さな音がする。



 その音を聞きながら、

 歩く。



 目的は、

 すぐ先の書店だった。



 ただ、

 少しだけ時間があった。



 扉を開けると、

 暖かい空気が流れてくる。



 外の冷たさが、

 少しだけ遠くなる。



 店の中は静かで、

 ページをめくる音が、

 かすかに聞こえていた。



 そのまま、

 棚の間をゆっくりと歩く。



 特に探しているものはない。



 ただ、

 目に入った本を見ていく。



 しばらくして、

 一冊の本を手に取る。



 表紙を眺める。



 そのまま、

 手の中にある感触を感じていた。



 そのとき、



 少し離れた場所で、

 本を戻す音がした。



 軽い音。



 それだけのこと。



 ほんのわずかに、

 視線を上げる。



 棚の向こう側に、

 人影が見えた。



 そのまま、

 本に視線を戻す。



 けれど――



 何かが、

 ほんの少しだけ引っかかった。



 もう一度、

 視線を上げる。



 棚の隙間から、

 相手の姿が少しだけ見えた。



 横顔。



 それだけだった。



 それでも、



 どこかで見たような気がした。



 相手は、

 本を棚に戻し、


 ゆっくりと歩き出す。



 その動きを、

 追うことはしなかった。



 ただ、


 視界の端に、

 少しだけ残っていた。


 ――どこかで見たはずなのに、

 まだ、思い出せない。


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