第2部 余韻 第一話
数日が過ぎていた。
桜はまだ残っているが、
満開のときの勢いは、
もう感じられなかった。
花びらは、
風に乗って散るというより、
静かに、
地面に落ちていくことの方が多くなっていた。
いつも通りの時間に家を出る。
同じ道を歩き、
同じ景色を見る。
特別なことは、
何もなかった。
朝の空気は、
少しだけやわらかい。
ただ、
歩いていた。
道の途中で、
前を歩く人の背中が目に入る。
知らない人。
すぐに視線を外す。
それだけのことだった。
坂のことを、
思い出すことはなかった。
ただ、
歩いているだけで、
時間は自然に過ぎていく。
足元を見る。
靴紐は、
きちんと結ばれていた。
そのまま視線を上げて、
また前を見る。
人が行き交う。
声が聞こえる。
すぐに、
その中に紛れていく。
昼になり、
夕方になり、
その日も、
特に何もなく終わった。
夜は、
少しだけ静かだった。
窓の外から、
風の音が聞こえる。
その音を、
ぼんやりと聞いていた。
やがて、
目を閉じる。
そのまま、
眠りに落ちていく。
――ふと、
何かが落ちるような、
そんな感覚だけが、
一瞬、
過ぎた気がした。
――あの坂で感じたものに、
少しだけ、似ていた。




