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COLONY  作者: 歌語
3/5

第三話【記憶】


西暦2053年6月15日


東京第三区画


雨が瓦礫の街を濡らしていた。


目の前にいる存在。


巨大化したMARS感染体。


その中に、父の声がある。


「レン……」


聞こえるはずのない声。


六年前に失ったはずの声。


俺の手は止まっていた。


「父さん……本当にいるのか?」


怪物の身体が震える。


黒い粒子が全身を覆い、巨大な腕がゆっくり動く。


次の瞬間。


鋭い爪が俺へ向かって振り下ろされた。


俺は反射的に後ろへ飛ぶ。


地面が砕ける。


「違う……」


俺は構え直す。


「父さんじゃない」


目の前の存在は、父の記憶を利用しているだけかもしれない。


MARSは宿主の細胞だけではなく、神経情報まで読み取る。


ならば。


父の記憶を使って、俺を動揺させることも可能だ。


「……卑怯な真似をするな」


俺の右腕をGAIAが覆う。


白銀の装甲。


しかし。


攻撃の直前。


怪物の動きが止まった。


「……逃げろ」


小さな声。


「レン……」


俺は目を見開く。


今の声は。


MARSではない。


父だった。


---


西暦2053年6月15日


対MARS特殊研究施設


「レン、聞こえる?」


通信から千尋の声が響く。


「母さん」


「その個体から特殊な神経反応を確認した」


「普通の感染体とは違う」


俺は怪物を見る。


「父さんが残っている可能性は?」


通信の向こうで沈黙。


研究者としてなら、否定するべきだった。


しかし。


千尋は答えた。


「……可能性はゼロではない」


「MARSは宿主を完全に消すわけではない」


「取り込む」


「つまり、意識が閉じ込められている場合がある」


俺は拳を握る。


なら。


まだ助けられるかもしれない。


---


西暦2048年5月10日


六年前・対MARS研究施設


神崎千尋は、最初の感染者となったレオンを研究していた。


しかし、目的は殺すことではなかった。


夫を救うため。


そして、人類が同じ運命を辿らないため。


その研究の中で、千尋は一つの発見をする。


MARSの細胞を抑制する未知の生命反応。


地球由来のナノ生命体。


後にGAIAと名付けられる存在。


「この生命は……MARSとは違う」


千尋は研究記録に残した。


「宿主との共存を選択している」


しかし。


問題があった。


GAIAは誰とも融合できなかった。


人体が拒絶する。


生命活動を停止する。


唯一の例外。


レン・ハワード。


---


西暦2053年6月15日


東京第三区画


俺は怪物を見る。


父の姿。


父の声。


そして、MARSの身体。


「父さん」


俺は呟く。


「苦しいか?」


怪物の動きが止まる。


「……レン」


「すまない」


その言葉を聞いた瞬間。


俺の中のGAIAが反応した。


敵意ではない。


共鳴。


GAIAが、目の前のMARS内部に存在する何かを感じ取っている。


「父さんは……まだいる」


---


だが。


次の瞬間。


黒い粒子が爆発的に広がった。


怪物の身体が変化する。


父の声が途切れる。


代わりに、別の声が響いた。


複数の声が重なったような、不気味な音。


『適合者』


『GAIA』


『同種生命』


MARSは俺を見た。


「お前を取り込めば」


「完全な進化が可能になる」


俺は理解した。


こいつらの目的は、ただ人間を増やすことではない。


GAIAを求めている。


---


「レン!」


千尋の声。


「今すぐ離れて!」


分かっている。


目の前の存在は危険だ。


でも。


父を救う可能性もある。


俺は刃を構える。


「父さんを返してもらう」


白銀のGAIAが輝く。


「そのためなら――」


「俺は、お前たちと戦う」


---


西暦2053年6月15日


東京第三区画


初めて確認された。


MARS進化個体。


コードネーム。


COLONY TYPE-01


人類と異星生命。


その戦争は、新たな段階へ進んだ。


---


─COLONY─

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