第7話:15:00 孤立無援の先島(サキシマ)
「敵、ヘリボーン部隊接近! 敵機はZ-20、およびZ-8十数機! 高度を下げて西海岸へ向かっています!」
与那国島の陸上自衛隊駐屯地監視所。怒号とアラートが飛び交う中、隊員は光学観測機器に映る無数の影を凝視していた。
開戦から15時間。ついに中国軍の矛先は、日本の領土である先島諸島へと向けられた。沖縄本土の米軍基地が沈黙した今、台湾海峡のすぐ隣に位置する与那国島や石垣島は、完全に孤立無援の戦場と化していた。
ドォン! ドォン!
島へ接近する中国軍の防空駆逐艦から放たれた艦砲射撃が、島の緑を容赦なく削り取り、赤土の煙を巻き上げる。
この艦砲射撃の火幕に守られるようにして、中国軍の特殊部隊を乗せたヘリ部隊が、島の港湾施設や空港へ向かって一挙に降下を開始した。
「自衛隊員は島民の避難誘導を最優先にしろ! 残り部隊は市街地に展開、近接戦闘(CQB)の用意!」
普通科連隊の指揮官が無線に向かって絶叫する。
数の上では圧倒的に不利。重火器の補充も見込めない。それでも隊員たちは、島民を救うために小銃を握り直し、迫り来る中国軍の精鋭部隊を迎え撃つべく、島の隘路や建物に身を潜めた。
その与那国島の上空。
弾薬を撃ち尽くし、燃料インジケーターが赤く明滅するF-35Bの編隊が、無念の思いで洋上の空母「あかぎ」へと機首を転じていた。ステルス性の代償として、機内ウェポンベイへの搭載量に限界があるF-35Bは、J-20との空戦の過程で瞬く間にすべての「矢」を消費してしまったのだ。さらにアフターバーナーの過用により、その短い航続距離は限界に達していた。
「あかぎCIC、こちらウィザード03。これより戦域を離脱する。これ以上は島の上空を支えきれない」
「了解、ウィザード03。ただちに着艦せよ。――天狗リーダー、聞こえるか。上空の防空網が完全に切れるぞ!」
あかぎの悲痛な要請に応えたのは、遥か上空で空中給油機からの給油を終えたばかりの、航空自衛隊F-15Jの編隊だった。
「こちら天狗リーダー。問題ない、ここからは俺たちの時間だ。ウィザード、後ろは任せろ」
F-15Jの複眼とも言える大型の双発エンジンが、再び強烈な咆哮を上げる。
F-35Bのようなステルス性はない。レーダー画面上では巨大な光の点として敵に探知されるだろう。しかし、F-15Jには他の追随を許さない圧倒的な滞空時間と、左右の翼下にこれでもかと吊り下げられたミサイルがある。
「天狗各機、これより高度を下げて与那国上空へ突入する。敵のJ-20が待ち構えているはずだ。データリンクを頼りに、一撃離脱を徹底せよ!」
J-20は確かに恐るべきステルス機だ。しかし、これまでの戦闘で彼らもまた弾薬を消費し、ネットワークの乱れが生じ始めている。
F-15Jの編隊は、ステルス機の牙が狂い咲く地獄の空へと、その巨大な翼を傾けて突入していった。
地上で血を流す隊員たちと島民を守るため、「空飛ぶ弾薬庫」が再びその真価を発揮しようとしていた。
残された時間は、あと33時間。




