第14話:10:00 悪魔のカウントダウン(TELハント)
2026年12月25日、10時00分。
開戦から34時間が経過。戦局は、ついに人類が最も恐れていた領域へと踏み込もうとしていた。
アメリカ・コロラド州、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の巨大なスクリーンに、中国東部戦区・福建省の山岳地帯を捉えた赤外線早期警戒衛星の映像が映し出されていた。
「中国ロケット軍の地下サイロから、複数の大型車両が地上へ展開を開始。形状からDF-21、およびDF-26のTEL(輸送起立発射機)と断定。弾頭は……戦術核の可能性が極めて高いです」
ワシントンのホワイトハウスと、東京の首相官邸地下に、同時中継で戦慄の報告がもたらされた。
通常戦力で挽回不可能な打撃を受けた中国指導部が、局面を強制的にリセットするため、戦術核による台湾、あるいは日本の空母機動部隊への攻撃準備に入ったのだ。
「発射態勢に入るまで、どれくらいだ」
「TELの展開からミサイル起立、燃料注入(固体燃料の場合は即時)と発射手順を考慮すると、猶予は長く見積もっても2時間。早ければ40分後には撃ってきます」
東京のNSCで、防衛相がうめき声を上げた。
外交交渉で止める時間はすでにない。発射ボタンが押されれば、イージス艦による迎撃網を抜けた核弾頭が極東を放射能の炎で焼き尽くす。
「総理、ただちに統合作戦司令部へ指示を。敵の核ミサイルが空へ放たれる前に、地上で破壊するしかありません」
首相の決断は早かった。
「あかぎを中心とする空母機動部隊、および航空自衛隊へ特命を下す。いかなる犠牲を払おうとも、敵のTEL(移動式発射台)を狩り尽くせ」
太平洋上の空母あかぎCIC(戦闘指揮所)は、これまでにない緊迫感に包まれた。
標的は空の戦闘機でも海上の艦艇でもない。中国本土の広大な山岳地帯を逃げ回る、わずか数十メートルの車両群である。かつて湾岸戦争で多国籍軍を悩ませた「スカッド・ハント」の悪夢が、核弾頭という最悪のオプションを伴って蘇ったのだ。
「F-35Bは電子戦システムを維持したまま、敵防空網の残存レーダーを完全に押さえ込め。攻撃の主眼は、圧倒的な滞空時間と兵器搭載量を持つF-15Jに託す!」
あかぎ司令官の檄が飛ぶ。
前衛のF-35Bがステルスと電子戦で安全な回廊をこじ開け、その後方からF-15Jの大編隊が中国本土上空へと殺到する。
「こちら天狗リーダー。目標は核弾頭搭載のTEL。絶対に撃たせるな。撃たれれば俺たちの国が消えるぞ」
九州の基地群、および上空の空中給油機から補給を受けたF-15Jの編隊が、アフターバーナーの炎を引いて台湾海峡を横断していく。
彼らの翼下に搭載されているのは、広範囲の装甲車両を一度に制圧するためのクラスター爆弾(CBU)や、精密誘導爆弾群だ。
かつて専守防衛の象徴であったF-15Jが、核の炎から国を守るため、中国大陸の防空識別圏を突破していく。
沿岸部のレーダー網は先ほどの巡航ミサイル攻撃で麻痺しているとはいえ、内陸部にはまだ携帯型地対空ミサイル(MANPADS)や対空砲火が無数に待ち構えている。
「天狗3、敵の対空砲火(AAA)を被弾! 右エンジンから出火!」
「脱出しろ! 残りの機は高度を下げるな、赤外線センサー(IRST)で地上の巨大な熱源を探せ!」
山岳地帯の複雑な地形に身を隠すTELを、上空から目視とセンサーだけで探し出す極限のミッション。
時間が無情に過ぎていく中、天狗リーダーのセンサーが、深い森に偽装された不自然な熱源の列を捉えた。
「ビンゴ! 福建省の山道、移動中のTELを3輌確認! ミサイル起立作業に入っている。間に合え……っ!」
F-15Jが急降下を開始する。
地上からは、TELを護衛する部隊から猛烈な対空ミサイルが放たれた。コックピットに警報が鳴り響く中、天狗リーダーはフレアを撒き散らしながら、一歩も退かずに爆撃の照準を合わせる。
空飛ぶ弾薬庫が、最後の審判を食い止めるために地獄の釜の底へと突入していく。
残された時間は、あと14時間。




