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062 幼女の光と敗走幼女竜

『勇者』は草原に腰を下ろし、くつろいでいた。光に包まれていた銀槍からも手を離している。そしてその膝の上には、膝の上にわぁぁっ! 幼女がっ! 幼女を乗せてっ! 二人も同時にっ!

 しかもっ、残りの幼女を抱き抱え、幼女の方も競って『勇者』に体を押しつけて、しかもっ、あれはまさかっ!


 頬にキスだとぅ!?


 かわるがわるキスだとっ!


 さゆうからきすだとぅぅっっ!!


「ぬううううううっ! 貴様『勇者』っ! この儂の眼前で、なんたる行為をっ!」

「ほら、みんな見てごらん。あれが竜に囚われた、かわいそうな幼女だ。助けてあげないとね」

「なんだとぉぉぉぉっ!」


 不覚にもアイソスの体で叫んでしまったではないかっ。

 幼女に優しく語りかけているようだが、そこからは優越感しか感じんわっ。


「きっ、きちゃま戦いはどうしたっ。なぜ、なぜっそんなことをっ。そそそそもそも幼女を戦場に駆り出すなどっ、なにを考えておるっ!」


「まるであの竜みたいだね、グリム。やっぱり君は『堕落の竜』に囚われているみたいだ。大丈夫だよ。君も俺と一緒にいられるようになる。それに、俺は『勇者』だ。この子たちは安心だよ」


 キスされながら話すなっ! その幼女を撫でる手も止めろっ!


「グリム、そして『堕落の竜』よ。『勇者』とは、人を守り魔を打ち砕く者。その力を与えられた者だ。なぜ『勇者』と呼ばれるかわかるか?」


 だから手を止めろっ! 幼女たちもそんな奴から離れるのだっ! コイツ、わざとか? 見せつけているのか? そうなんだなっ!


「『勇者』とは『勇気を力に変える者』のことだ。人は誰しも困難に立ち向かう心を持っているものなんだ。ほんの僅かだったとしても、たとえ恐怖に心折られそうになったとしても、勇気を持っているんだ」


「ん〜、はいっ、ゆ〜しゃさまっ」

「わたしも〜。んっ」「ずるいっ、わたしもする〜」「わたしも〜」「わたしもするっ」


 ぬうぅぅっ。やめろっ。止めるんだみんなっ。目を覚ませっ。


「ありがとうみんな。——けど、世界にはそれだけではどうにもならない敵が多い。想いだけではダメなんだ。その想いを、勇気を汲み上げるのが『勇者』だ。汲み上げて、力にするのが俺なんだ」


「くそっ、幼女の想いを……だと。そうか、だから貴様は幼女を、力なき幼女を集めているというわけか。ならば、力なき老婆でも集めておけっ。貴様にはそれで十分だっ」


 コイツの力、理解したぞ。その魂胆もな。


「はぁ……。残念な奴だ。なあ『堕落の竜』よ。俺はお前が憎いが、幼女を手元に置きたい、という想いだけは理解できるんだけどな」


「ああ? 貴様は『勇者』の力を得るために幼女を集めているのだろうが。則ち、貴様はただ幼女を利用しているだけだ」


「もちろん違う」


 ん?


「かわいいから、さ」


 あ……。


「ゆーしゃさま、わたし、かわいい?」

「わたしは? わたしもだよね」「わたしも」「私も」

「もちろんだよ。みんな可愛くて、愛しくて、俺の大切な彼女だ」


「ほんとっ」「わ〜い、ゆ〜しゃさま、だいすき〜」

「俺もだよ」


 偽りなき笑顔。これがコイツの本心。わかってしまった。コイツは儂と同じだ。

 いや、だからこそ、儂への誤解を解かねばならん。


「ちょっと、ヒューロっ」


『聖女』フランウィーヌが駆け寄ってきた。トレンが抑えていたはずだが、奴め、結局役に立たんか。


「早くあの竜を! あなたの趣味なんてどうでもいいからっ」


「どうでもよくないっ!」

「素晴らしい趣味だろうがっ!」


 う。


 儂とヒューロの叫びが重なった。ヒューロと一瞬視線が合った。並び立つフランウィーヌがなぜか引いている。『聖女』のくせにわからんようだ。未熟者めが。


「まあいいか。十分満たされたよ」


『勇者』が膝から幼女を下ろして立ち上がった。その手は幼女と繋がれたままだ。身体を淡い光に包み、儂に穏やかな視線を向けてくる。


「これが彼女たちの力だ。俺はこの技を『幼女連珠(リンケージ)』と名づけた。幼女と俺との繋がりが力を生むんだ」


 まさか、コイツは——コネクトと同じような原理で……?


「覚悟しろ『堕落の竜』よ。幼女の力が、お前を壊す」


 輝く光がゆっくりと立ち上ってゆく。儂の追う視線の先で形を成す。これは……この姿は。


「神の如き力にひれ伏せ。————『降臨幼女』」


 お……おお……っ。


 なにこれぇぇ?

 

 巨大な幼女が上空で輝いて……慈愛の笑みを浮かべながら……儂を見下ろして……。


 ふあぁぁ——。飛び込みたい。広げられた両腕の中へ。その姿に釘付けにされる。


 だが……。


 だが、この力は。儂を、アイソスを滅ぼすためのもの。輝く幼女の前面に、力の集積を感じる。光が撃ち出され——。


「アイソスっ、飛べっ! 離れるのだっ!」


 叫びながら魔力で翼を動かす。地面を蹴り上げ、離陸を促す。アイソスがすぐに反応してくれるとは期待できない。

 光線が草原を薙いだ。一瞬前に、儂が立っていた場所。そこに破壊の痕跡は見られない。この光も魔物のみに効くということか。


「アイソスっ!」

「う、うん」


 翼の動きに力強さが混じる。アイソスの意思と儂の魔力が羽ばたきを強める。ようやく儂とアイソスの意思が一致した。


「全力だ、アイソスっ! 振り返るなっ!」

「うんっ」


「逃すな、降臨幼女(モリーナ)!」


 ヒューロの叫びに幼女が姿を変える。背中に翼を形成し、むくれたような表情で儂らを追ってくる。伸ばした指先に光が膨れあがり、幼女はそれを振りかざした。

 だが、もはや無駄だっ。アイソスは飛行に集中している。今なら我が詠唱も通る。いかに幼女が追いすがろうと、この結界は突破できまい。


「 【断界】

 絶対幼女領域」


 結界は放たれた光弾を容易に弾いた。次弾も、その次も。その次も。幼女との距離が広がる。泣き出しそうなくるくる巻き毛の幼女の顔が遠ざかる。代わりに、山脈が近づいていた。


 光の幼女の動きが止まった。諦めたか、あるいは『勇者』と離れすぎたためか。自律的に動くゴーレムの類ではない、ということだな。これで逃げ切りだ。


 だが……。


 ああ、惜しい。遠ざかってしまう。幼女が。






 半ば墜落するかのようにアイソスは着地した。その衝撃で儂の掌を貫くアイソスの爪が抜けそうになる。痛みが思い起こされた。


 アイソスもまた恐怖を思い出しているようだった。コネクトを続ける儂に、その感情が流れ込んでくる。荒く息を吐きながらアイソスは震えていた。次第に呼吸が整うと、その喉からはすすり泣くような低い響きがもれる。


 グリフォンの峡谷では日没が早い。すでに周囲は薄暗く、グリフォンたちの姿も見えない。儂らの帰還に巣から顔を覗けたが、それだけだ。


「グリムワルド! どうしたのですか、その傷は!」

「ぴーちゃんか。休ませてもらうぞ」

「なにがあったのですか」


 独り現れたぴーちゃん七世が不安げに覗き込んできた。

 アイソスの体には多くの傷が刻まれている。いずれも深刻なものではないが、このような痛みにアイソスが慣れているはずもない。

 それに、儂にはわかる。より重症なのは、痛みよりも恐怖だ。訳もわからずに敵意を向けられ、傷つけられたのだ。このような悪意に耐えられるはずもない。


「『勇者』だ。『勇者』を名乗る奴にアイソスが襲われた。だが、今はいい。構わんでくれ」

「いいのですか、グリムワルド」

「ああ」


 今、アイソスに寄り添えるのは儂だけだ。儂だけが、アイソスと共感してやれる。


「アイソス。儂が一緒にいるからな。ずっと一緒にいるからな」


 アイソスは答えなかった。それでも語り続ける。言葉で。魔力で。そうしてアイソスに、独りでなはいということを感じてもらう。


 大丈夫だ、アイソス。このコネクトは解かん。魔力尽きるまで、儂はお前と繋がっているからな。魔力尽きても、お前と繋がっているからな。


 お前が安心するまで。


 ずっと。


 ずっとだ。






お読みいただきありがとうございます。

これにて一区切り、お出かけエピソード終了です。

次回は繋ぎのようなお話になります。

ブックマーク、評価を頂けると嬉しいです!

とっても喜びますっ!!


【次 回 予 告】

勇者から逃れ、ぴーちゃんたちの所へ戻ったグリムちゃん。

納得できない思いを抱えながらも、自分の山へ帰ります。

そして、今度こそ魔王城へ向けて出発です。


でもその前に準備しないといけません。

そして、グリムちゃんはまたしても心と体にダメージを受けてしまうのです。



次回、


再出発


全五話です。

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