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058 詰め合わせ

 ふうっふうっふうぅぅぅぅっ。


 どういうことだどういうことだ。なんなのだコイツは。


 馬車から下りた少女はそっと着衣を整え、柔和な笑顔を浮かべた。だが、歩き始める直前に一瞬眉をひそめたな。小さく首を振ったな。どういう意図だっ。


「はじめまして、グリムちゃん。私はフランウィーヌ。よろしくね」


 差し出された手を無言で見つめる。綺麗な手だ。穢れを知らぬ幼女のような手。それでもコイツは違う。


「おい、トレン! 貴様どういうつもりだっ!」


 その手を取ることなく、振り向く。


「コイツは金髪でもなければ幼女でもない。端々に幼女性を残してはいるが、せいぜい甘く見積もっても後期幼女。堕ちてしまったただの少女ではないかぁぁっ!」

「あの、グリム様。そのかたは」

「貴様、この儂を騙したなっ! 金髪幼女でなければ、儂がここに来た意味などないわっ!」


「ま、待ってください。そのかたは、フランウィーヌ様はわが主の病を癒してくれた、旅の『聖女』様なのです。グリム様の話をしたら、是非会いたいと」


『聖女』だと? コイツが?


 伸ばした手をそのままに、コイツは辛抱強く儂を待っているようだ。ふん、無駄なことを。


「そうか。病を癒す力があるのであれば、本物の力を持った『聖女』なのだろう。そして、病気が治ってしまえばこの儂は用済み、ということなのだな」


「ち、違いますっ。ただ、お嬢様はまだお母様のそばにいるのです。すぐにお連れするわけにはいかなかったのです」


「儂との約束は『薬草を手に入れる手伝いをする』ことだったはず。病が治ろうが、薬が効かなかろうが、儂には関係のない話だ。それを以って儂を(たばか)るなど、いい度胸ではないか。ましてや! この儂にっ! 金髪幼女を提示しておきながらっ! 貴様の数々の無礼、もはやんぴゃっ!?」


 言葉が堰き止められた。体が少女に包まれている。腰を落として背後から抱きつかれ——ているのはともかくだ。なぜコイツは儂の耳を咥えている?


「心配しないで。大丈夫、私があなたを救ってあげるからね」


 穏やかにそう言うと、頬をすり寄せてきた。


「……なんのつもりだ」

「私にはその力があるから。その力を与えられたから。だから、あの魔獣に穢されてしまった子たちを救ってきたの。ねえ、グリムちゃん。あなたも辛い思いをしてきたのでしょう。でも安心して。他の子たちのように、あなたを救ってあげるから」


 ね、と短く温かな息を吐いた。花の蜜のような香りが儂をくすぐる。


「この儂を救うだと? 放せ! そんな(いわ)れはないわっ」


 なんとも腹立たしい奴だ。儂が腕を振るうと、意外にも素直に少女は引いた。


「あなたはまだ無事なのね。よかった。でもこのままではダメ。呪いがあなたを覆い尽くしてしまう前に、私が浄化します」


 知らんっ。何を言っている? こんな少女などどうでもいい。


 儂は見たのだ。コイツが馬車を降りてくるときに、扉の隙間から見えた。

 あの馬車の中には幼女がいる! 幼女がいるのだっ!


 コイツを無視して駆け出し、馬車のタラップに飛び乗って扉を開く。するとそこには——


「お……ふあぁぁ……」


 やはりっ! いた! それも、それもぉぉっ。


「幼女が、ようじょが…………ようじょたくさん……」


 なんだこれわこれわなんだなんなのだ。


 幼女がつまっておるっ!?

 この馬車の中は、まさに住居ではないかっ。

 ソファでくつろぐ幼女。笑い合う幼女。絵本を読みふける幼女。甘そうな菓子をほおばる幼女。カーペットで抱き合いながら寝息を立てている幼女。その隣では猫のようにじゃれあっている幼女——。


 こっ、ここはっ。ここは幼女の楽園、幼女園か……。


 歓喜に震える体が抑えられん。眩しい。素晴らしき輝きの奔流。幼女という熱と光が束になって儂を貫く。儂には、ああ……『幼女断ち』をしていた儂には刺激が強すぎる。だが、望むところだ。

 一体何人いるんだ? どうやって集めた? しかも人間だけではない。エルフと思わしき亜人種や獣人、黒き翼ある幼女まで。選り取り見取りではないかっ。


……ふ、ふはっ、素晴らしい。いいぞっ。こんなものを用意しているとは。なんという理想郷。儂も、この儂もこの中へ——。


「君も交ざりたいのかい?」


 不意に体が持ち上げられた。扉を開けたまま立ち尽くしていた儂を、その男は片腕で抱えて語りかけてきた。


「あっ、あちゃりまえ——んぷぅぅ」


 言葉半ばで男に口元を拭われた。


「ほら、これで大丈夫だ」

「おっ、お前は、お前が園長かっ?」


 何が大丈夫だかわからん。この若い男は儂の問いかけに答えず、ただ笑みを返した。自信に満ちた、頼もしさを振りまくような笑顔だ。


「俺はヒューロ。『勇者』ヒューロだ。グリム、君のことはトレンから聞いた。だから俺は、俺たちは君を歓迎する」

「ふぇっ?!」


 なに? コイツが『勇者』? なぜ『勇者』が幼女を集める? 儂でもない者が?


『勇者』は半身になって片手を幼女たちに向けた。人間を導く『勇者』という存在。その役割通りに儂を幼女へと導く。幼女たちも興味深そうに儂を見つめてくる。その期待のこもった視線に思考がとろけてしまう。


「だが、グリム。その前に君はフランの浄化を受けないとな。俺にはわからないが、フランが言うには、君はまだ囚われているんだそうだ」

「じょう、か……?」

「そうだ。なにも辛いことはない。本当の君を取り戻せる。ほら」


 幼女が遠ざかる。抱き抱えられたまま儂は馬車の外に連れ出された。そして『聖女』フランウィーヌの前で下される。


「彼女に任せておけば安心だから。そうやって、俺たちはたくさんの幼女たちを救ってきたんだ」

「たくさんの……ようじょ……?」

「そうさ。だから君も」


 頭を撫でられた。真っ直ぐな瞳で『勇者』は頷くと、背を向ける。


「あとは頼んだよ、フラン。俺は元凶を断つ」

「ええ、よろしくお願いします」


 儂の肩を抱きながら彼女もまた頷き、アイソスへと視線を向けた。

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