057 高まる期待
金髪幼女だっ!
そうっ! 金! 髪! 幼! 女!
身体が自然と動いてしまう。くるくると、まるで踊り子。そんな知識はないのだが。
「楽しそうだね、グリムちゃん」
「ふははっ、当然だ。お前もそうだろう、アイソス」
「うんっ。会うの楽しみだよ」
うむ。そうだろうそうだろう。
儂らは山を下り、遮るもののない平原へ来ていた。約束の履行を求めてだ。
グリフォンの峡谷で儂とアイソスが戯れている間、地竜は未練がましくその場に残っていた。その隙にトレンは洞窟に侵入し、ちゃっかりと目的の【御影草】を手に入れていたのだ。
したがって、トレンと交わした約束である金髪幼女との邂逅が決定された、というわけだ。
「ねえ、遅いねトレンちゃん。まだかなぁ」
「全くだ。この儂をこれほど待たせるなど」
草原に伏せながら、アイソスは遠くに視線を向けた。ここは街から幾分離れている。竜の接近で街の人々を驚かせないよう、儂らはここに残ったのだ。トレンだけで街に戻り、金髪幼女を連れて戻ってくる手筈になっていた。
「ん〜、どんな子かな。可愛いのかな。わたし、お友達になれるかなぁ」
「そうだな。身分の高い家柄のようだから、利発で物静かな令嬢といったところか」
もちろん、どんな幼女であろうと儂は受け入れるが。
「えらい人なの? こわいかな?」
「怖いことなどないだろう。いつものお前でいいのだぞ、アイソス」
「う〜んとね」
小さく喉を鳴らすと、アイソスは体をよじって寝転んだ。地面に背中をこすりつける猫のようだ。ん、痒いのか? 儂が掻いてやろうか?
「わたし、あんまりお話ししたことないから」
「そうか、緊張しているのだな。大丈夫、儂が一緒だからな」
「うん。そうだよね。大丈夫だよね」
わずかに不安を含んだ言葉を押し出して、喉元が震えた。そこに手を添えて落ち着かせてやる。ああ、そうだ。先程、あれだけ儂を癒してくれたのだ。儂の方もお返しをしてやらないとな。無論、舌で。
「ぅんっ? グリムちゃん?」
大丈夫だ。任せろ。お前だけではない。儂もなのだ。こうしていることが、儂の癒しでもあるのだからっ。
「グリムちゃん、あのね。あのね」
いい。こうしていると、お前を感じられる。姿形などどうでもいい——いや、幼女の方が良いのはもちろんだが。
アイソス、という存在の核がここにはあるのだ。『幼女』が滲み出ているのだ。それが、そう、たまらなく愛おしいのだっ。
「グリムちゃん! あれ!」
んぬおっ!
急に起き上がらないでくれ、アイソスっ。摩擦で舌先が少しヒリヒリしたぞっ。
「みて、グリムちゃん。何かくるよ」
「お……おお。あれは、馬車か」
アイソスに跳ねのけられて尻餅をついてしまったが、その姿勢でも見ることができた。背の低い草葉の先に、大きな馬車の屋根が現れた。
「うわ〜、おっきいね〜」
「ああ。見事なものだ。これほどとはな」
道無き道を十頭の馬が歩を揃えて進む。それらが引くは馬車、というには立派すぎるものだった。
据え付けられているのは、単に移動のための空間ではない。生活ができるほどの大きさを持つそれは、そのまま旅することのできる住居といっても差し支えないだろう。
これほどのものを所有できる奴ということか。幼女に貴賎なし。とはいえ期待してしまうではないか。
「ねえ、トレンちゃんがいるよ。お〜い、トレンちゃ〜ん!」
御者の隣に座っていたトレンがアイソスに手を振り返す。そうして儂らからまだ離れた所で馬車が止まると、トレンは独り儂らに駆け寄ってきた。
「はっ、はあっ、はあっ、あ、グリム様。お待たせしました」
「全くだ。遅いぞ」
「すっ、すみませんっ。それでは早速——」
息を切らしながら頭を下げたトレンは、その勢いのまま儂の手を握り半ば強引に引き寄せてきた。
「あの……アイソス——様は、ここでお待ちください」
「え? どうして?」
「その、少し……いえ、まずはグリム様に。それからで」
儂を捕まえているトレンの手に力が込められた。
「ああ、そうか。突然では驚かせてしまうからな。儂がエスコートする、ということだな。待っていろアイソス。儂が金髪幼女に説明して連れてくるからな」
「うん。ありがとう、グリムちゃん」
「まかせろ。そら、行くぞトレン。アイソスを待たせるなっ」
トレンの奴に引かれるまでもない。幼女が待っているのだ。草原を渡る風にもなろう。弾む呼吸は走り続けているからだけではない。
どんな幼女だろうか。
アイソスと会い、儂は改めて思い知らされたのだ。儂にはやはり幼女が必要なのだと。『幼女断ち』など、なんと無駄な時間を過ごしたことか。
さあ、姿を現すのだ。この儂に捧げられた金髪幼女よっ!
儂の到着に合わせて馬車の扉が開く。ゆっくりと、焦ったく感じるその動きをただ目で追う。
飛び込んできたのは光だ。いや、そう感じただけなのだろうが、馬車の中からはそんな神々しい力の流れを感じた。
そして、彼女が姿を見せた。
衣服を畳むように扉を閉め、音もなくステップを一歩二歩下り。最後は、一転小鳥のように跳躍する。翼と化した聖衣が広がり、煌めく水面のような銀髪が——
銀髪だとぅ!?
「きっ、金髪幼女ではないではないかーーーーっ!!」




