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054 幼女竜の望むもの

 このレンピロードと名付けられたグリフォンの仔、なかなか聡明そうだ。意欲もある。そしてこの腰つき。いずれは立派なぴーちゃん九世を産むだろう。


「な、な、な、何を言い出すのですか、グリムワルドっ」

「ん? 素晴らしき仔だぞ。よくやったな、ぴーちゃん七世。この儂にふさわしき幼女だ。貰うぞ。」

「幼女……? その子はあなたの望むような子ではありません。そうだとしても、手放すわけないでしょうが」


 何を冷静に言うか。先程までアイソスの手に溺れていた奴が。それに、だ。


「儂の望む仔ではないだと? ごまかすでない、ぴーちゃん七世。儂にはすでにお見通しだ」

「な……なにをですか……?」


 ぴーちゃん八世の頭を撫でながら、アイソスに目を向ける。


「なあアイソス、いい機会だ。お前にも教えてやろう。グリフォンの雌の見分け方を」

「んぴっっ!?」

「見分け方? わかるの、グリムちゃん?」

「無論だ。いいか、まずはこの頭だ。グリフォンの雌はな、雄に比べると頭の形がやや平らなのだ。そしてこの耳羽」


 ぴゅいぃっ!


 目の上にピンと立った飾り羽に指を当てる。ついでに目のやや後方にある耳の辺りを掻いてやった。ぴーちゃん八世から抑えきれない声が漏れる。


「これは雌の方が小さい。せいぜい目の大きさよりも少し大きいくらいだ。雄ならばその倍は大きい」

「へ〜」


「そして、この腰と後脚。雌は幅広だ。後ろから見るとやや広がっているのがわかる」

「え〜っと、よくわからないよ」

「ああ、後で雄と比べてみないとな」

「うんっ!」


 困り顔だったが、アイソスはぴーちゃん(親)を見ながら感心した声を上げた。七世のお尻の辺りを撫でている。そうだな、まずは確認が大事だぞ。


「と、いうわけでだ、ぴーちゃん七世。八世は立派な幼女だ。もっとも、肝心な場所はすでにこの手で直接確認済みだがな」


 ぴーちゃん七世に向かって、確実な証拠に触れた手を突き出してやった。くくっ。くふふっ。もはや言い逃れできまい。


「なっ、なにをしてくれたのですか、あなたはっ! それに、そのゴブリンのような笑顔はやめなさいっ」

「あ? 誰がゴブリンだ、失礼な。愛おしき笑顔だろうが」

「自分で言うひとがいますかっ」


 ぴーちゃん七世はアイソスの手を振り切って近づいてきた。儂の体に頭を押し当てて八世から引き離そうとしてくる。だが、譲らん。儂のものだ。


「いいだろうが、儂がもらっても。お前だってそうだっただろう?」

「だからといって! だからといって————んぴ?」


 儂を押し除けるのを止めて、ぴーちゃん七世は首を傾げた。オレンジ色の瞳の中心にある瞳孔が繰り返し収縮・拡大しているな。


「グリムワルド。ひとつ確認したいのですが」

「ん? どうした? 八世のことなら心配無用だ。かつてのお前と同じように愛でてやるからな」

「そのことなのですが。あなた、先ほどから私のことを七世、と呼んでいますね。それはいったい……」

「七世? 七代目のことに決まっておろうが。そしてお前のこの仔は、当然八代目になる」

「あ、ああ……」


 ぴーちゃん七世がよろめいた。そのまま一歩二歩後退する。その隙に七世と八世の間に体を滑り込ませ、八世の首元に腕を回してやった。


「よかったな、新たなぴーちゃんよ。ふふっ、これでお前も晴れて儂のものだ。いいか、儂のことはとりあえず、グリムちゃんと呼べばいいぞ。グリムちゃん、だ」

「ぎゅりむぎゅぅぅうっ?」

「そう、グリムちゃん、だ」

「ぎゅぎむぅぴーじゃぐぅ」

「おお、いいぞ。もう少しだ。あとは帰ってから——」


「いい加減にしろーーーーっっ!!」


 な、なんだっ!? 頭に衝撃がぁぁっ!?


「なにをするぅぅっ!!」


 振り返るとぴーちゃん七世が——ではない。


「きっ、貴様トレンっ! この儂の頭を殴ったなっ! 幼女でもない貴様が、この儂をぉぉっ! その行為、万死に——んぐっ」

「全く、あなたというひとは」


 くっ、言葉がっ。儂の体が持ち上げられている。不届き者の犯人はぴーちゃん七世か。儂の襟首をつまんでぶら下げるとはなんたる無礼。


「あ、ああっ、すみません、グリム様っ。あまりにもアレで、ついっ!」

「なにが『つい』だっ。貴様、自分の立場をわかっているのかあぁっ!」


 くそっ。手足を振り回しているのに、全く届かん。ぴーちゃんめ、儂を麻袋にようにぶら下げおって。

 あ? 待て、ぴーちゃん。儂を八世から遠ざけるなっ。儂らは相思相愛なのだぞ。いかに母親といえども、止められんものなのだっ。


「おいぴーちゃん——んぎゃっ」


 くっ、優しさのかけらもないような下ろし方をしおって。足元に葉が敷き詰められていなかったら尻を腫らすところだったぞ。


「ああ、助かりました人間の少女よ」

「あ、いえ。見ていられなくなってしまい。あの、グリム様、大丈夫?」

「大丈夫ではないわぁっ!」


 差し伸べてきた手を打ち払って立ち上がり、トレンを睨みつける。


「貴様っ、貴様の役目は儂に金髪幼女を紹介することだけなのだぞっ! そこのところを理解しているのかぁっ!」

「す、すみません。あの、ですが……ですよね、アイソス様?」


「ん〜、グリムちゃん楽しそうだよ。みんなで遊ぼうね」


 やはりアイソスはわかっているな。その通りだ。儂の楽しみを邪魔するなど言語道断。


「だが、アイソス。ずっとその状態では疲れないか?」


 アイソスは最初の頃から羽ばたきを続けていた。岩壁から迫り出した巣に手をかけてはいるが、気を遣っているのか、そこに体重をのせていないように見える。素晴らしいぞ。


「わたしは大丈夫だよ。だって飛ぶ練習だもん」

「ああ、そうだな。偉いぞアイソス」

「えへへ。わたし、がんばるね」


 ふふっ。やはりアイソスだ。彼女が儂の一番だ。本来幼女に優劣などつけ難いものだが、彼女は特別だ。


「はぁ……グリムワルド」

「なんだ、ぴーちゃん七世」

「とりあえず、ここにいる間だけは許しましょう。レンピロードと遊んであげてください」


 許可が下りたな。言質をとったぞ。『ここにいる間』とは、儂のそば(ここ)にいる間、ということだな。ならば問題ない。


「よし。では楽しもうではないか。だが、その前にぴーちゃん。腹が減らないか?」


 ポシェットには昼飯用のパンがある。芋虫型のパンには切れ込みがあり、そこに具材が挟まっている。アルビオーネがよく作るもので、中身がボロボロ溢れるからイマイチ好かんのだが、まあいい。ただ——。

 これは、むぅ、このパンの状態は。


「ぺっちゃんこになっちゃった?」

「うむ……」


 アイソスが悲しそうに呟く。これは当然、か。転んだり、アイソスの背中から転げ落ちたりしたからな。ま、味は変わりあるまい。半分に千切ってぴーちゃん八世の嘴に近づけてやった。


「アイソスは——、すまない。取りに行く最中だったな」

「ううん。わたし、お腹減ってないよ。ぴーちゃんと食べてね」

「あっ、アイソス様。こんなものでよろしければっ」


 代わりにトレンがなにやら取り出してアイソスに与えた。干し肉の類か? 足しにもならんが、その献身は買ってやろう。


「ありがと、トレンちゃん。じゃあ、みんなでね」

「ああ。『いただきます』だな」

「ぴゅいっ!」




 儂らはほんの少しだけ腹を満たし、ぴーちゃんたちとじゃれあっていた。ぴーちゃんと戯れる儂に、時折七世からの横槍が入ったりもしたが。七世は七世で、アイソスに溺れているのだ。お互い様ではないか。


 周囲からは他のグリフォンたちの声も聞こえはじめている。儂らを警戒していた奴らが、それを解いたのだろう。

 いいぞ。ぴーちゃんだけで手一杯になるほど、儂の器は小さくない。他にも幼獣がいるというのならば、皆も参加するがよい。


 そうして時間を忘れ儂らはぴーちゃんの巣で戯れていた。


 そんな折だった。


「ふえっ!?」


 気の抜けたような声とともに、アイソスの体が巣から後退した。


「えっ、えっ? なにっ?」

「ん、アイソス?」


 グリフォンの巣に乗り上げるような体勢だったアイソスが、後方に沈み込む。咄嗟に掴んだ巣の縁が崩れる。まるで引っ張られているかのように下方へ消えてゆく。


「アイソスっ!」

「アイソス様っ!」


 遠ざかる竜の頭を追って、儂とトレンが走った。だがそれよりも早く、アイソスの体は完全に巣から離れた。アイソスの悲鳴が立ち上ってくる。 


「あ、あれはっ!」

「地竜、か」


 覗き込んだ足下に、アイソスを引き込んだ相手の姿があった。

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