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025 何を確認?

 目が覚めると柔らかなベッドの中にいた。教会の中だろうか。簡素な石造りの部屋からは(うかが)い知れない。だが、上質な布団であることはわかる。なんとも温かく、肌触りの良い毛の感触が伝わってくる。


 いや、布団ではないな。獣の毛皮の感触だ。儂の隣で、全身を布団の中に潜り込ませている者がいた。


「ん? よーじょ起きた?」


 土の中を這い進むようにして、白い毛並みの鼠が頭を出してきた。アルビオーネの眷属たる鼠獣人だ。


「ん、ふあぁ〜〜〜〜。ん、じゃあ、アルビオーネさま呼んできて」

「うん。行ってくるね」

「大変、大変だよぅ……。早く行かないと……」


 部屋の隅に控えていた白黒ブチと全身真っ黒の二人の鼠が駆けてゆく。その慌ただしい背中を見つめながら上半身を起こす。全身ですり寄ってくる鼠を人形のように抱きしめ、ぼんやりと窓に目を向ける。

 まだ頭がはっきりしないな……。透明度の低い窓からは外を眺めることもできない。温かな鼠の体温は、再び儂を眠りに誘ってくる。


「まあ……いいか……」


 そうしてベッドに背をつける。鼠を抱きしめたまましばらく目蓋を閉じていると、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「グリムちゃんっっ! やっと起きたんですねっ!」

「ん、ああ。そうだな」


 目を擦りながら、鷹揚に応えてやった。


「では早速、チェックさせていただきますっ!」


 現れたアルビオーネは、妙な勢いのままに近づき布団の中に頭を突っ込んできた。


「あ? お前、何をしている?」


 アルビオーネが儂の足に触れる。生暖かい息がかかる。毛布越しに、くぐもった声が聞こえた。


「ああっ、これは、これはぁぁっ…………ちっ、ただの寝汗か。今日は問題ないようですね。ですがっ!」


 その声とともに、毛布がはねあげられた。控えていた二人の鼠が懸命にそれを受け止めている。姿があらわになったアルビオーネは——はぁっ? なぜ儂の下着に手をかけているのだ?


「貴様、何をしているっ」


「もちろん、お着替えですっ。濡れたままで風邪でも引いたらどうするんですかっ。かぶれでもしたら——ああ、大丈夫っ、大丈夫です! その時は私がたっぷりねっとりとお薬を塗って差し上げますからっ! ではこのままで——ああでもっ! この下着を見過ごすわけにはっ!」


「だまりぇーーーーーーっ!」


 足元にあった下卑た顔を思い切り蹴り飛ばしてやった。儂の攻撃は相変わらず効いていないようだが、どうやら少しは落ち着いたようだ。彼女はきょとんとした表情を儂に向けている。


「着替えなら自分でやるわっ」

「えっ、グリムちゃんが? 独りで?」


 コイツは儂をなんだと思っているのだ。今は幼女の姿でも、中身は竜なのだぞ。アイソスに話したことが本気だとでも思ってるのか。


「貸せっ」


 アルビオーネが手にしていた下着を奪い取った。すぐに穿き替えようとしたのだが、その手を制止させられてしまう。


「ああまたっ。そんな恥じらいもなく脱いではダメですっ。わかりました。仕方ないですねっ。これを渡しておきますから、あとで着替えておいてくださいっ」


 そう言うと、胸元の布の中から取り出した複数枚の下着をベッドの上に並べた。

 無駄に種類が多い。色柄が派手なものや、リボンがついたもの、猫や熊、竜の刺繍が施されたもの。腰回りの倍はあろうかという膨らみを持つものから、はては、何やら紐?まで。いったい、どこからかき集めてきたというのだか。


「では、そちらの件はグリムちゃんにお任せしますけど。あとは——お前たちっ!」


 一転怒気を孕んだ声に、鼠たちが身体を震わせる。


「私、言いましたよねぇ。グリムちゃんが()()()()()()()()()呼びなさい、と。グリムちゃん、もう目が覚めているじゃないのっ。これじゃあグリムちゃんの寝起きどっきりができないじゃないのよっ」


「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……アルビオーネさまぁ……」

「ごめんなさい。わたしたち、よくわからなかったの……」


「観察が足りないっ。グリムちゃんの呼吸からっ、脈拍からっ、肌の具合からっ、髪艶からっ、お口の中の状態からっ、全身全霊を以て推察するのですっ」


 毛布にしがみつきながら叱責に耐えていた鼠たちは、その言葉に勢いよく返事すると、ベッドに上がってきた。元から儂に身体を寄せていた白と同じように迫る。鼻をひくつかせて儂の全身をかぎまわり、肌を撫で回し、顔を見つめてきた。


「お、おい。お前たち……。アリュ、もういいだろう。やめさせろ」


「はっ……そう、そうですねっ。お前たち、離れなさいっ! 私のグリムちゃんをそんないやらしく扱うなど、この私が許しませんっ!」


 いや、それは酷いのでは……。混乱しながらも離れていくコイツらの姿は、あまりにも哀れだ。


 そんなことを考えていると、儂のお腹がくぅと鳴った。

 下着だけで眠っていたようで、目を向けるとあの忌々しい呪印を認識させられてしまう。福々しき幼女のお腹一帯を穢す紋様に、内から怒りが湧き上がってくる。


「あらあら。そうですね。食事をお持ちしますね、グリムちゃん」


 アルビオーネの言葉が儂の気をそらしてくれた。呪印を見続けていると、際限なく怒りがこみ上げてくる。そして、呪印そのものに吸いよせられるかのように、目が離せなくなるのだ。


「軽いスープを用意させますから。ゆっくりと飲んでくださいね〜。なんせ、グリムちゃん、三日も眠っていたんですから」


「あ? 三日だと?」


 鼠たちに指示を飛ばしながら発したアルビオーネの言葉は、耳を疑うものだった。


「ええ。余程疲れていたのでしょうね。あの日は、まあ、大変でしたから」


 それはその通りだな。精神的な疲労の大半は、お前とゼナロリスが原因だと思うが。


「アイソスはどうしているのだ?」

「アイソスちゃんですか? 大丈夫ですよ。元気に働いていますから」


「働く?」

「ええ。瓦礫の片付けですが。随分慣れたようで、新たに壊すこともなく、街の人間とも楽しそうにやっていますよ」

「ん? 街の人間と、とはどういうことだ」


「ああ、そうですね。説明しますね」


 そう言うと、アルビオーネは部屋の窓を開けた。

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