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42 欲望に駆られた少女と伯爵様

 ライブが始まる数日前、超高級ホテルの会議場に五十人を超える背が高く筋肉質の顔付きが軍人の様な男たちが姿勢良く椅子に座っている。


 右眼にアイパッチを掛けている初老の男が男たちを起立させると、部屋の中に中肉中背の仕立ての良いスーツを着た金髪碧眼の中年も過ぎたはずだが美男としか言いようのない男と可憐な美少女っぽいお姉さんが入ってくる。


 一斉に敬礼する男たち。


 敬礼に答える男の名はマクシミリアン・コーデル。その傍にいるメイド姿の美少女っぽいお姉さんはその右腕であるレナ・ネコースキー。


「準備は万端整っております、マクシミリアン様」


 見渡せば全ての男たちの姿は日本の職人姿だ。もちろんジャケットに由美たちのバンドの名前がプリントされている。だが足元は日頃履き慣れているゴツい軍靴に、よく見れば服の下にプロテクターを着込んでいる。


 アイパッチの男に促され壇上に上がるマクシミリアンとレナ。


「ホーク•オブ•シルバーウィングの諸君、忙しい中これだけの者に集まって貰った事にまずは感謝する。スモーキー大佐ありがとう」


「ハッ!」


「では諸君もう聞いていると思うが数日後我の右腕であるレナの大切な者どもが、かの悪名高きゴッドセーブ・ザ・ロックフェスティバルに出演する。そこで行われるであろう彼らに対する攻撃を阻止してもらいたい。相手を亡き者に出来ない非常に難しい作戦だ。怪我を負う可能性がある。無理と思うならば正直に言ってくれ」


 誰も口を開かない。

 レナが頭を下げる。


「礼を述べさせて貰う。それから君たち一人当たり二十人のコーデル武装警備株式会社の者が付けられる。優秀な警備員だが君たちとは職種が違う、そこは配慮してくれたまえ。以上だ」


 全員が一糸乱れず敬礼をする中をマクシミリアンとレナが部屋を出て行くとスモーキー大佐が代わって壇上に上がる。


「よく聞け諸君!これは今まで経験した事のない作戦である。敵は少なくとも三十人、事前調査によれば二千人の民間人が相手だ。ステージから最低80メートル以内でペットボトルもしくは酒瓶を投げようとする者の行動を阻止するのが仕事だ。無論ステージに向かって突撃して行く者もだが。問題はここからだ心して聞け、決して一人も殺してはならない。再度言う何をされようと決して一人も殺すな!コーデル武装警備の警備員にも必ずそう指示しておく事。殴るのは認めよう、だが跡が残らない箇所で頼む。では諸君ブリーフィングを開始する、席に座ってくれたまえ」


「サー・イエス・サー!」


 ホーク•オブ•シルバーウィング。マクシミリアン・コーデルの私兵である。世界中を駆け巡るマクシミリアンの行くところ先回りし安全を確保する世界最強の私設軍事会社。最新鋭の武器を装備し電子戦などはコーデル本社のバックアップを受ける無敵の軍隊。アメリカ軍の電子機器の新規発注を半数以上引き受ける軍産複合体の一翼を担う会社のオーナーがマクシミリアン・コーデルその人である。


「これでいいのだなレナ」


 ホテルの部屋でレナにお茶を入れてもらうマクシミリアン。


「はい、伯爵様。ご好意に報いられるよう新たなシステム構築は成功させて見せます」


「うむ無重力自動金属錬成システム、これが出来れば金を生み出す様なものだ。医薬品開発にも応用出来る。我が社の宇宙開発は君たちに掛かっている」

 

 ロンドンの街を眺めるマクシミリアン。

 貧乏伯爵だった北欧のある国から自分の才能を信じ借金をし家出同然にアメリカに留学し学生時代に友人と小さなコンピューター会社を始めた。勢いに乗った時期もあったが所詮独立系の小さな会社は巨大コンピューター会社に押されて潰れる寸前だったのが2000年少し前。

 コンピューターネットワークの中で知り合うレナと名乗る者と交流を交わすうちにとんでもない天才だとわかるがただそれだけだった。

 ある日レナからもっとおしゃれなパソコンがないのかと聞かれたマクシミリアンは自分の机を見渡した。即座に会社に帰ってレナの言うおしゃれなパソコンをコンピューター上で作り上げレナにデータを送った。何度もやり取りしとうとうパソコンに興味のない人全ての人がオシャレだというパソコンを作り上げた。

 大ヒットした。

 レナを会社に招待したとき余りにも幼い少女の姿に誰もが驚いた。その後レナが作りたがった高画質高機能の画像作成、動画作成ソフトは映画にも使われた。広すぎるアメリカいや世界から欲しいものを手にしたがるレナの為にネットワークを利用した通販会社を作った。レナがコンピューターで音楽を聴くのは大げさだと日本の携帯を手に持って、『こんなのが欲しいけど容量が少ないしパソコンにもリンク出来ない』と言えばハードディスクを押し込めた、パソコンから音楽を取り込める小さな音楽再生機器を作った。レナはそれにパソコン用のソフトを入れたいしネットにも繋げたいと言えば願いを叶え更に電話機能も欲しがり作った。その間レナはマンガ・コミック用作画ソフトや動画配信サービスシステム、強力な検索システムを開発して行った。

 気がつけば世界最大最先端の会社を複数所有していた。

 どれもこれもレナが日本の特殊なお姉さま方が描いたマンガを日本の漫画が好きな年上のお友達が興味本位で取り寄せたものを見てしまったことが発端である。さらに多くの怪しい漫画やそれに付随するアニメが見たい、それもいち早くと言う願いから全てが始まったものだと知ってしまったマクシミリアンにとってレナの遥を守りたいと言う願いを叶えない訳にはいかないものなのだ。

 メイド設定も遠回しにやめて欲しいと言ったがニッコリ笑って、もう伯爵でもない自分に未だに伯爵様と言い続け付き従っている。


 確かにとてつもない天才である。

 自分はそんな少女に出会えて幸運だと思っているが、未だ階級社会の残るこのヨーロッパやイギリスで既に廃爵したとマクシミリアンが何度否定しても、たまたま興味本位で日本支社の社員に連れられて行ったメイド喫茶とネット小説にはまったレナが『伯爵』と言ってくるのは正直複雑な思いであるが、爵位は無くても自力でその地位以上の力を持った事に誇りがないわけではない。

 本人も楽しんでいる、更にあの堅苦しいウンザリする貴族社会に憧れてもいる。

 自由の国に生まれ育った者を見るマクシミリアンには理解できないことが多々あった。マクシミリアンの妻も娘も同じようなもので未だに祖国にいたころの話を聞きたがったが、時代が変わり貴族の地位にいても重い税金や堅苦しい生活を知っても目を輝かせていた。成功し呼び寄せた父や母、祖父や祖母も今ではアメリカでのんきに暮らしている。


 レナがお茶を入れた後頭を下げて下がる。

 マクシミリアンはお茶を飲みながらレナを見る。

 アメリカにはこういう変わった天才が居るとあらためて思ったマクシミリアンであった。

 



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