41 ブルジョワとお姉さん
日本から出発する十日前にワンマンライブとフェスで演奏する曲のセットリストを渡される。
「ライブは日本のライブより曲数は少ない。初の海外だ、無理させない様にした」
海藤はそこだけは相手側に対して押し切った。
「フェスは5曲。君たちの生演奏を聴いた事のないオーディエンスだ、演奏技術を見せつける為にこの曲を最初にやってもらう」
フェスのセットリストを見ればレイジが練習でヘトヘトになったBPM300に届きそうなほぼヘヴィメタルだが間違いなくハードロック曲と言われた曲だ。今ではライブのオープニング曲みたいになってしまったので不安は無いがほとんどインストである。バンドを少しでも知っていれば違和感は無いが初めて聴く人は大概呆気に取られる。何しろ録音したダンプのエンジン音から始まり工事現場の音、そしてダイナマイトの爆発音が曲のスタートの合図なのだ。
一気に5曲、今では定番となっている最初にブレイクした曲を挟んで最後にAC/DC風の男らしい曲で締める。初めて聴く者にとっては地獄の様な、聞き馴染んだ者にとっては狂気乱舞するセットリストである。
「これで決まりや、そうやろ由美」
「これしか無いわね」
セットリストが書かれた紙を見つめる五人。
それから出発までは授業や仕事が終われば貸スタジオに籠る。全15曲をあらためてじっくり丁寧に、目を塞いでも演奏出来るんじゃないかと思うほど練習に明け暮れた。
ふと気づくレイジ。
「そう言えば外国行くんですよね」
「何言ってるのレイジ、イギリスって外国よ」
「パスポート持ってるんですか」
「ええ、5年のパスポート持ってるわ。多分まだ有効期限は切れてないと思う」
頷くミクと遥。
「私は一応10年のを持ってるわ。友達と一昨年イスタンブールに行くときに作ったの」
さやかが不思議そうにレイジを見る。
「みんなで取りに行くもんだと思ってたから、いつ行くんだろうと・・・」
あっという顔の由美。
「レイジ、僕が付き合ってあげるから明日都庁に行こうよ」
「あたしもついとったる、安心せーや」
「私も行くわ」
「ごめん、さすがに昼間日本橋からだと無理。ごめんねレイジ君」
異様に心配されるレイジ。
ここで気遣いの出来ない人だと『普通持ってるよね』『海外旅行行った事ないんだー』『とっとと取ってこいよー』とかいうものだが音楽の嗜好はあれだが基本的に優しい女性たちなのでそういうことは口にしない。
すっかり忘れていたが、あらためてブルジョワな人達だと思ったレイジ。
「一応聞いておくけどお金とか旅行に必要な物とか準備してあるかなレイジ君」
さやかが上目使いでレイジを見る。とても美人だと『お姉さん好き』なレイジは思う。
「大丈夫です。12日分12万円も用意してありますし着替えとかもうディバックに入れてあります!」
胸を張るレイジと対照的に固まる一同。
だがさすが接客業もこなす大人のさやかである。ニコッと笑いレイジを抱きしめ『大丈夫、お姉さんがついてる』と言って泣いた。
「あ、さやかさんズルいでー。レイジの体はあたしのもんやー!」
どこのオヤジかと言うセリフを叫ぶミクであった。




