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40 海外で怖そうなお友達ができました

 牧は歌舞伎町の事務所に帰ると早速本郷と面会した。


「組長、お願いがあります」


 本郷が席から立つと牧の横に立つ。


「牧、そういう言い方はここでは止めようや」


「しかしケジメってもんが」


「良いから座れ若頭」


 うわっとむず痒いものを感じた牧の顔を見て笑う本郷。


「どうした牧、何があった」


 牧は電話で話せなかったこれまでの経緯を分かりやすく詳細に話し、休みを取らせてくれといった。


「ポスターには最後の方に他のバンドと一緒に小さく名前が出てただけだぜ」


「へい、急遽変更になったみたいでさあ」


「あのフェスはヤバいぞ。ウォール•オブ•デス(死の壁)で死人が出たこともある。生半可な気持ちで参戦したら怪我しちまうぜ」


「ということは、ステージもやはり」


「ああ、ションベン入りのペットボトルが投げ込まれるならまだましだ。ビール瓶で怪我したミュージシャンもいる」


 さすがメタラーである。

 海外情報は常に頭に入っているようである。


「しかもそのフェスの後翌日2000人規模のワンマンライブ、フェスでこけたら目も当てられねえ」


 牧が大きく息を吐く。


「オジキ!俺」


「言うな牧、分かってる。レイジが心配なんだろう、甥っ子みてえに可愛がってたからな。この話八洲の親父に話すがいいか」


「へい」


 本郷が引退した八洲に電話をかけ牧から聞いた話を伝えた。

 

「牧、親父の面倒を見てやってくれ」


「何の面倒ですかい」


「イギリス行きの付き添いだ、親父の仲間も行くらしい。ツアーを組むそうだ」


「いや、しかし自分は」


「そんときゃそんときだ、親父とお前二人で連中とは別に旅行代理店に頼んどきゃなんかあっても迷惑にならんだろう」


 そういって本郷は金庫から封筒を取り出し牧に渡す。


「これは何ですかオジキ」


「レイジ君から帰ってきた金だ。きっちり○○〇万円ある。親父と一緒に好きに使え、向こうに行けたら何としてでも盛り上げてやってくれ。それが連中を守ることになる。俺も組のみんなも本当は行きたいが金もかかるし暇もとれん、常連さんに迷惑かけられんからな」


「だってこれはみんなの金じゃねーですかい」


「お前だって受け取っておらんだろーが」



 フェスの前々日、牧は八洲を迎えに行き空港でチェックインを待っていると職人姿の集団に声を掛けられる。牧がレイジに紹介した○○建築の親方や舎弟たちや八洲がライブハウスで知り合ったおやじさんたちが立っていた。飛行機のエコノミークラスは職人姿の男たちで溢れかえっていた。中には初めての海外旅行の者もいて周りが助けていたりもする。もちろん職人姿の中には流星〇長とその上司もいたりする。


 飛行機がイギリスのロンドン・ヒースロー空港に到着する。


「自分たちは・・・」


「先に言ってます」


 頭を下げたあとただそういってゲートに向かう男たち。


「ありがとよ」


 無事にイギリスの地を踏みしめる牧たちは男たちと再度合流し同じホテルに向かう。ロンドンの街を日本人の職人姿の男たちがぞろぞろと歩く姿は奇異にみられるが時折写真をねだられたりもする。背中には大きく由美たちのバンドの名前がプリントされているのでバンドを知っている若者や中年のオヤジさんが話しかけてくる。牧たちの多くが英語が話せないので流星〇長に頼りっきりである。そんな短い付き合いでも同じバンドを愛する男たちの仲は深まる。

 しかも非公式ながらファンクラブのまとめ役を八洲がしていたので交流もスムーズであり、牧がレイジと懇意にしているのも○○建築社長から漏れると大騒ぎとなり、さらに流星〇長の部下がさやかだと知っている者がいて羨ましがられ満更でもない顔を部長たちはしている。もちろん八洲や牧たちとさやかの関係は誰も知らないし話さない。

 ちなみにとても品のいい二組の夫婦はファーストクラスに乗っていたので彼らと接することはなかった。


 

 フェスが始まる午後零時少し前にメインステージに緊張した職人姿の集団が巨大なピットを横切って向かっていく。たとえここにいる200人のファンしかいなくても精いっぱい応援する気構えである。気が付くと職人姿の集団が大きくなっているような気がする牧。ガタイの大きな白人や筋肉質の黒人、誰もかれも安全靴にニッカボッカを履きバンドの名前が入ったジャケットを着ている。


 なにやら流星〇長が楽しそうに英語で話していると大きな笑い声が溢れた。


「牧さん!」


「何ですか流星〇長!」


「みんな仲間です!」


「嬉しいぜ、こんちくしょー!みんなにイカしてるって伝えてくれ!」


「分かりました!」


 八洲を背負う牧の泥だらけの足に力が入る。


 やっとのことでステージ前に来てみれば右も左も職人姿の男たちばかりが居た。日本人の職人集団を目にするとニコニコしながら話しかけてくる。イェーイェーしか言えないが身振り手振りで必死に応対する。

 みんな仲間であるので曲を通して笑いが盛れる。

 時折小ばかにするような若者もいたがガタイのいい入れ墨まみれのいかにもアウトローなおじさんたちが睨みつけるとすごすごと去っていった。


 どうみてもアウトロー集団全員がニッカボッカである。暑いのかバンドTシャツを脱いだ男たちの盛り上がった筋肉は現場労働者。眼鏡を掛けたひょろっとした職人姿の若者も見えたが圧倒的に中年のオヤジが多数である。


 何となく牧はファン層の若年化を図らなければならないと義務感に駆られたが、余計な考えでファンが離れるより年を取ったものがファンになってくれる方がいいと結論づけた。

 今ファンの連中はもう他に気持ちが向くことはないと思ったからだ。さすが売れないアイドルのファンの動向を見続けてきた男である。


 次第にライブ演奏の時間が近づく。


 舞台袖を見れば公演関係者が山のようにいるのが見える。

 牧は後ろから聞こえるざわめきが気になり振り向いた。


 見渡す限り人の波であった。冗談かと思い八洲を肩車して確認してもらう。


「牧!外人さんが一杯おるぞ!えらいこっちゃー!」


『ここはイギリスです』と口にするのは止めた牧であった。







 

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