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43 最終話

 とうとうステージに上がる時間となった。

 輪になって気合いを入れる。

 現地のイギリス人30人、聞かされた日本から来たファン200人くらいがステージ前に来てくれるだろうなと思っていた。聴衆がどんなに少なくても来てくれた人たちのために精いっぱい演奏するとみんなで誓った。時折他の出演者から笑顔で挨拶されたが、緊張で返す言葉も震えた。


 ステージに上がっていく五人。


 ステージから見渡せば地平線の彼方まで人影が見える。

 予想外の事態にさすがのレイジも震えた。

 さやかはすでに涙目である。

 ミクと遥は俯いてひたすらチューニングしはじめる。

 レイジは楽譜が映し出されているパッドを見ながらドラムを軽くたたく。

 スタッフが緊張を隠すように笑いながら各自に指示を出しサウンドチェックをしている。

 由美だけがじっとピットを見つめている。


 群衆の中で日の丸が掲げられる。

 日本人ファンが来ているのを知ってはいたが、やはり現場でそれを掲げる人たちの姿を見れたのは心強い。由美たちのバンドの名前が野太い声で叫ばれる。なぜか時折笑いが起きる。


 ここで勝たねばならない。拍手の数が勝敗の判定だ。自分の書いた曲には自信があるが指が震えている由美。


 いつものようにダンプのエンジン音が掛かる音から始まり工事現場の様々な音が流される。


 ステージ袖で固唾をのむ海藤。


「いくよ!」


 由美がレイジに向かって声を掛けたあと、ダイナマイトの爆発音とともに爆音が奏でられると同時にピット前方の男たちの腕が掲げられ怒声が響く。いきなりトップスピードの曲がステージ左右にぶら下げられた巨大なスピーカーから流れる。声を失って聞き入る男がいる。次第に熱を帯びる聴衆。

二曲三曲と演奏が進めば前方は激しいモッシュでもみくちゃとなり真ん中から後方で腕をリズムに合わせて突き上げる男たちも増えてくる。長い髪をぐるぐる回す男。入れ墨だらけの腕で拳を掲げる男。職人姿に混じってライダーズジャケットの男がはしゃぐ。

 いまだにペットボトルが投げられた様子はない。

 あと二曲だと祈るように舞台の袖から聴衆を見る海藤とスタッフ。

 四曲目、最も知られた曲のイントロが始まるとついにサークルができた。それも大きいものから小さいものまでいくつもできている。一番大きいサークルの中心に日の丸を掲げた男がいる。その男は最初からずっと旗を掲げていた。日本語で大声を上げながら叫ぶ老人の脇でみんなに囲まれて腕を大きく広げ旗を掲げていた。新品の綺麗な旗だ。


 大人しいイントロが終わりドラムを合図に爆音が奏でられるとサークルの中心で旗を持った男目掛けて一斉に男たちが駆け寄る。何人も倒れるが誰かが手を差し伸べ立ち上がらせる。鬼の様な形相の男たちが嬉しそうに走り回っている。その中にいたホーク•オブ•シルバーウィングの男たちもいた。

 あまりに多い人数だったが必死に遠くから観察している大佐の無線から流れるオーダーに応え自らが動き配下を指示していたが二曲目が終わるころ『もう大丈夫だ』という通信の後大佐の指示は聞こえなくなった。気が付けば多くの男たちを立ち上がらせ、ケガをしたものに声を掛け安否を問う。『大丈夫だ心配すんな』という知らない男を立ち上がらせ肩を組みながら叫ぶ。


「俺たちの歌だ!」


 日本語は分からなかったが、古いようで新しい男心を鼓舞する音に何故か涙が溢れてきていた。


 牧はもみくちゃになりながらも旗を高く掲げる。とうとうみんなに持ち上げられてピット前方まで運ばれていく。八洲はそれを少し離れたところから日本人のファンに囲まれて涙を流して見送る。


 最後の五曲目、レイジのカウントで重々しい凶悪なサウンドが響き渡る。遥の速弾きを合図に二つに分かれていた人の波がお互いを目ざして突っ込んでいく。多くの男たちの雄たけびが上がり拳が高く掲げられる。高揚した顔に流れる涙。ぐるぐる回る聴衆。最高潮に達したピットを見る海藤は思わず膝を舞台につけて呆ける。


「勝ったのか、俺たちは。いや彼らは勝ったのか。これは夢じゃないよな」


 声が震えている。


「ああ、海藤さん。これは夢じゃないよ」


 海藤より少し年下の、ステージで指示していた男が泣きながらピットを見て呟く。


 演奏が終わり聴衆から拍手が鳴りやまない。

 もう一曲、いやもっと聴かせろという声が無数に聞こえる。海藤は由美たちの背中の向こうに見える青い空が目に染みた。


 五人でステージの際に立ち聴衆に頭を下げる。

 気が付けば演奏を全てこなしていた。

 ピットを見る余裕などない。

 途中でさやかが振り返って、メンバーにサムズアップをしたのを覚えているくらいである。


 人の波が延々と続く広大なピットを眺める五人。

 ギターを外したミクがレイジの体を上ろうとしている。

 レイジはミクをひょいと肩車した。


「最高や!最高の景色や!レイジ」


 東京に一人で来て負けた少女が叫ぶ。


「ああ!最高だ」


 綺麗なお姉さんに流されるように付いてきてしまった。日本以外の国で言葉も通じない不安の中演奏し今は拍手が鳴りやまない景色を見つめるレイジ。遥がレイジの背中を軽く叩く。頷いてミクを降ろすと再度頭を下げ舞台のそでに足を向ける。その先に綺麗な顔を涙でぐしゃぐしゃにした由美とさやかが見えた。



おわり。



貴重な読者様へ


 勢いで書き上げてしまったこともあり音楽に詳しい方やバンド活動に詳しいかたから見ればおかしいと思われる描写もあるかと思いますがご勘弁いただければ幸いです。

 ちなみに作品のモデルはBABYMETALとBANDーMAIDだったりします。

 最初の構想からかけ離れてしまいましたが何とか書き上げられたことは嬉しいです。貴重な読者様にはここまでお付き合いいただき大変感謝しています。

 青春ものはこれでもう書けないですし恋愛ものも無理かなーと思っています。ワイルドでハードで笑える作品も書いてますのでそういう物が好きな方は是非読んでいただければと思っています(こっちにかかりきりで更新できていませんが)。


 ありがとうございました。


 


 

 

 

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