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37 爆音アイドル研究会

 新年度も始まる。

 昨年度末に三回目のワンマンライブを締めくくりとし無事にレイジは2年生になった。年度末最後のライブには牧が率いる男たちも大勢来て歓声を送ってくれた。

 牧がレイジに頭を下げて買っていったチケットは100枚以上。海藤から渡されたチケットは二階席だった。

 レイジが「なぜピットにこないのか』と聞いても牧は『そういう人たちだから』とはぐらかした。海藤も『今回だけは特別なんだ』と言うだけだった。

 何となく分かっていた。きっと牧たちは『素人衆には迷惑を掛けてはいけない』と思って気を使ったのだと。



 しばらくインターバルがあるので、久々にアイドル研究会に顔を出すレイジとそれについてくる由美たち3人。

 

「私たちの事は気にしないで」


 由美がそう言いながらお手製のクッキーを差し入れる。


 新たに会長になった大人しそうな学生が今年度の活動方針を決めようと2年生及び1年生に自由に発言してほしいと語り掛ける。各々が新人アイドルのうち、見込みのありそうなグループを挙げてファンクラブ作りから始まりネットのサイト作りまで色々提案していく。

 魅力のあるファンクラブ運営が出来れば非公式ファンクラブから公式に格上げされることもあるのだ。レイジはあまりにもその世界から離れていたのでただみんなの話を聞いている。光陰矢の如しである。それでもファンクラブ作り、勧誘をどうしていくか、サイトの運営方法などを話し合っているのを見ていると楽しかった。


「そういえば私たちの方はどうなっているのかしら」


 由美やミクは作詞作曲作りで忙しいので、そういった方面に気が向かなかったしレイジもドラム練習で忙しい。


「あれ知らなかったんだ、ここ見たことないの」


 遥がスマホで由美たちのバンドの話題をまとめたサイトを見せる。


「なにこれ」


「いろんなファンサイトをまとめたものだよ」


 十数のファンサイトが由美たちのバンドの話題を色々な記事から拾ってきて上げている。もちろんコメント欄があるものが多い。


「掲示板とかこういったコメント欄はたぶん姉さんたちは見ない方がいいと思う・・・。ああ、でも作詞するにはテンション上がっていいかも」


 ついでに海外の掲示板サイトもあると教えてくれた。


「レイジー、あたしらの公式サイトってつまらんと思わん」


「公式だからなーあんなもんじゃないのかな」


「ここの研究会のサイトの方がよっぽどおもろいで」


 その発言に所属する会員が嬉しそうに頷く。ライブ会場では元気な彼らもここでは大人しい。


 少し遅くなった日の入りが始まり暗くなった部屋の電気を誰かが着けた。



 そのころ海藤は電話口で相手の話す内容に戸惑い悩んでいた。もちろん英会話である。


「いや、いくらなんでも多すぎですよ。3か国5ライブって、しかもフェスのステージがメインなんて時間が時間なんですメインはいくらなんでも。え、最後のライブ2000人ですか、最初は800人のとこだったじゃないですか、無理ですってチケット捌けませんよ。責任はそっちで取る・・・でも自信ないですよ。分かりました一応社長に相談させてください。お願いします」


 相手は海外大手イベント興行会社であった。

 フェスのラインナップを発表したところ由美たちのバンドに対して問い合わせが殺到してしまいフェスのステージをセカンドからメインステージに変更したと連絡してきた。

 しかも翌日のワンマンライブの箱も800の箱をキャンセルし2000人規模の箱に変更とのことだった。挙句に箱の規模は小さいながら2か国3ステージだったものが一か国増え全部で5回ライブを行うというのだ。


 初の海外遠征で何とかフェスに呼んでもらったので小さなステージ、小規模ライブで様子見する予定だったのが規模が大きくなりすぎて海藤に不安が募る。こけたらその後に影響が残る。相手側も海藤と同じことを考えていたのだが、あまりに問い合わせが殺到してきたので戸惑いながらも客がさばききれなくなり混乱するよりはと計画を変更したのだ。

 海外ライブは箱にオーディエンスが八割入れば大成功であり、それなりの反応に感触を掴んでいる。それくらいの予想が出来なければ生き残ってこれなかった。

 とはいうものの面白半分な部分がないわけではないというところが本音であった。なぜならこれがこけても、その後の事に彼らは関心がなかったし責任も無かったからである。

 話題が出来ればいいくらいの考えなのである。海外でショーをするのはそれぐらいシビアなのだ。さすがに音楽レーベルとなるとフェスなどのショービジネスを行う会社などに比べれば長い付き合いが出来るのでそうもいかない。海藤に接触してくる会社はいまだにいない。



 由美とミクはアイドル研究会の熱心な会合を見ながら、レイジはいちいち頷きながら、遥はそのレイジに寄り添ってのんびりと時間を過ごした。

 下校時間となりアイドル研究会の会員といっしょに帰る由美たち。行きかう人も誰も由美たちバンドのメンバーに気づかない。


「結構有名になってると思うんですけど、何しろ僕らでも知ってるんですけどね」


「仕方ないわよ、職人姿にお姫様がいないんじゃ誰も気づかないと思うわよ」


「ああ、そうですね」


 会長がポンと手を打つ。


「スケジュール決まったら教えてください。一度ライブを見に行きたいんです」


「ありがとう、ぜひ来て頂戴ね。っていうか絶対来てよ」


「はい!」


 由美の微笑に顔が赤くなるアイドル研究会の会長。


「あ、会長だけずるいですよー」


 その後ろで、レイジに上ろうとするミクとレイジの攻防が行われ、遥がレイジの腕を無理やり組む。


「ええやろ、ちょっとだけやちょっとだけ。ほーんのちょっとや、レイジには迷惑かけんから」


「なんか妙なニュアンスを感じるんだが」


「にいちゃん、気のせーや。な、な、ちょっとだけ」


 ミクの押しに負けて肩車をするレイジ。


「やっぱ、この景色サイコーやでレイジ」


「ほんっとにお前って奴は・・・」



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