34 類はやっぱり友を呼んでしまうわけですね
机を挟んで八洲平八郎の前に本郷が立っている。
「牧から渡された金です。お納めください」
本郷が机の上に封筒を差し出す。
「返さんでいいと言っとるのに。義理堅い子だ」
「全くでさあ、今どきこんな義理堅い男は珍しいです親分。牧が可愛がるのもわかりまさー」
八洲は牧にもレイジに金は返さなくてもいいと伝えるように言ったのだが、ギャラが入るたびに牧を通して金を返して来る。
「わしの分はいらん。みんなで分けろ」
「そういうわけには、この前もそう言って・・・」
「いらんといったらいらん!」
「へ、へい」
八洲のどすの利いた声が部屋に轟く。大きな体の本郷がちじこまって頭を下げる。
「ところで本郷、遂にワンマンライブをやるそうじゃ、さやかから連絡があった」
驚く本郷。
そのあまりにも速い展開は想像以上だった。
「早すぎじゃあねーんですかい」
「お前はバンドがメジャーになっていく瞬間を見たことがあるか。ないじゃろう、わしは見たことがある。あっという間じゃった。地道に苦労しながら階段を上っていくもんもいたが、中には一夜でメジャーになったもんもいた。こんな世の中じゃ、お前が物心つく頃にはハードロックもヘヴィメタルも衰退しておったから無理もないがな。わしは連中がメジャーになる瞬間が見たい。そういう場面をもう一回見たい」
頷く本郷。
「それと今度アニメのエンディングも手掛けるそうじゃ。○○〇魔法少女○○だと聞いた。わしも孫と一緒に見ておる。主題歌があれじゃがエンディングがハードロックだっちゅうのには驚いた。子供がハードロックに馴染んでもらうのに良いと思っとったんじゃがアニソン以外のハードロックはダメじゃったな。孫に言わせるとジャンルが違うらしい。まだまだ難しいもんじゃ。じゃが連中がアニメを見た子供のうち何人かをこっち側に引っ張ってくると信じたい」
いつもより口数の多い平八郎。
「本郷」
「へい」
「わしは引退する、後は任せた。牧と一緒にこの組を盛り上げてくれ」
驚く本郷。
「今週中に全てを終わらす。心しておいてくれ」
「何でまた急に!」
「老い先短いんじゃ、連中を見届けたい!。わしが苦しいころイアン・ギランの歌声が、リッチー・ブラックモアのギターがわしに勇気を与えてくれた。兄弟が死んだとき腹を差されて死にかけた時もロックが頭に響きわたっとった。そんなわしの最後に残ったハードロックの希望の星が連中なんじゃ。ゴミみたいに捨てられた旗を見捨てずに拾い上げてくれた漢気ある連中じゃ。売れる可能性は1パーセントもない、じゃが馬鹿みたいに川の流れに逆らって自ら転がっていく。そんなもんを応援していくにもヤクザもんのままじゃー迷惑になる!」
「ライブに行きたいんですね」
「ああそうじゃ!さやかにチケットは確保してもらっとる。そのために電話番号まで教えたんじゃ」
本郷の目に涙が溢れる。
「親分。いや、おやじ!堂々と見に行ってきてください。わしがあとをきっちり務めますから!」
「すまんの、本郷。本当にすまん」
「何言ってやがるんでさー!おやじーーーーーーー!!」
八洲は背中を丸めて泣く本郷の肩に手を置き頭を下げた。
ライブ会場に年老いた男が由美たちのバンドのTシャツを着てピットの隅に現れるようになったのはそのあとすぐだった。皴しわの顔に筋張った体、鋭い目がバンドを見つめる。もうピット中央でモッシュする体力もない。曲が進めばほんの少し体を揺らし顔も次第に笑顔となっていく。
ライブが終わり一目散にグッズ売り場に向かい大人買いをする老人。
街中で、安全靴にニッカボッカを履きこなしバンドTシャツを誇らしく纏う姿の老人の周りに次第に人の輪ができるようになっていく。
「おやじさん!今日も来てたんだ」
職人姿のおじさんが老人に声を掛ける。
由美たちのファンはこれが正装だ。
「あたぼうよ!」
「元気だなー、俺なんかまだ50になるかならねえってのにへとへとですわ」
「若いもんが何いっとんじゃ!お前らが盛り上げなくて誰が盛り上げるんじゃ!」
「うははは、まだまだ若い連中が少ないから俺らが頑張んねーと」
「その意気じゃ!」
ライブが終わり、ワイワイ言いながら十数人のオヤジたちが老人を囲み居酒屋へ入っていく。酒を飲みながら音楽談議に花を咲かせる男たち。武道館と言う目標が口に出るが全員遠い目をしてしまう。アイドルにとっては武道館はもはや通過点でもハードロック・ヘヴィメタルバンドにとっては今では遠い目標である。客数を限定し武道館ライブを行った拍付けをするバンドもあるが由美たちのバンドは新人も新人、ひよっこであるのでそんな余裕もないと全員分かっている。
「大丈夫じゃ!連中には武道館なんぞあっという間じゃ!そのためにわしらがこうして盛り上げ取るんじゃ!幕張、埼玉、横浜、東京ドームが待っとる!」
おお!という声が一斉に上がる。
まさかそれを通り越してとんでもないものを見るとは夢にも思わなかった男たちであった。




