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33 栄光のアニオタ

 そろそろ夏休みも終わるころ、由美の率いるバンドメンバー5人が海藤の所属する鴻巣プロダクション事務所の一室で大型液晶テレビの前に座りアニメを見ていた。


「と言うわけで、このアニメの二期のエンディングをオファーされたんだが、やる気はあるかと言うよりやって貰わなきゃ困る。君たちの認知度を上げる重要な仕事だ」


 アニメの内容は魔法少女が、宇宙制覇を企みその野望の一つである地球を侵略してくる魔法を操るゴート星人をチームを組んで迎え撃つ内容である。


 地球には魔法技術で編み出される現象の元である暗黒物質を操る技術がない。地球を侵略してくるゴート星人と敵対しているネコノ星人アナスタシアはこれを見越し、発見されづらい小さな宇宙船に現地民に変形できるアンドロイドを乗せ地球へ旅立たせた。

 地球についたアンドロイドは綺麗なお姉さんとなり、当時の地球人を多くの地域から攫って奴隷にし、無理やり改造したあと教育し、社会を変革し、膨大な資本を蓄え工場を建てなんとか巨大な戦艦型宇宙船を作り上げ、それをバベルの塔と名付けた発射基地から送り出した。

 飛び立つ宇宙船を眺めながら綺麗なお姉さんは『使命を全うした』と呟き動かなくなった。

 その後居残った地球人は綺麗なお姉さんの遺言により、小さな宇宙船にあった量子コンピューターと巨大ロボット二体、横耳ネコ型アンドロイドを隠しす巨大なピラミッドを作った。

 それは何世紀もの後に帰ってくる戦艦型宇宙船の目印であり、帰ってきた者をサポートする役割を担っているものである。

 苦難の旅の果てネコノ星へ着いた地球人は暗黒物質を魔法と言う力に変換する技術を持って地球へ帰還しようとするが、ゴート星人の妨害がどんどん激しくなっていく。

 その度にに人工冬眠から目覚め戦う主人公たち地球人。

 戦闘で主人公の恋人も死んでいく。

 あと1000年すれば地球だというのにゴート星人の巨大な宇宙戦艦が迫る。突然の緊急事態により人口冬眠から目覚めた主人公は、艦長に無理やり唯一残っていた脱出艇に乗せられる。

『あとは任せろ山野、貴様だけは必ず地球に帰るんだ!』

 別れを告げた艦長以下クルーの面々が敬礼する凛々しい姿。

『必ずみんなの期待に・・・』

 人工冬眠装置が主人公の意識を失わせる。

 1000年後、無事に目覚めた主人公が青い地球を眺める。

 主人公は近づく地球に向けた情報収集ドローンが集めたデータを目にすると頭を抱えた。

 世界はすっかり様変わりしていたのだ。だがまだそれは予想された範囲であった。問題は僅かばかりではあるがゴート星の先遣隊が地球侵略に動いていたのである。主人公は帰投先のピラミッドに向かい船を隠すと中へ入っていった。一刻も早くゴート星人の侵略を阻止しなければならない。


 主人公は量子コンピューターに指示を出す。


『暗黒物質適応能力を持つ地球人を探せ』と。


 夢に現れた主人公の言葉を信じて迎えの人型巨大ロボット、翼竜型巨大ロボット、横耳ネコ型アンドロイドと共にピラミッドに向かう3人の少女たち。


 魔法少女に改造される少女達。敵は魔王と名乗るゴート星人ジュッカラに率いられるエリンギ頭の戦闘員。

 ヒマラヤの奥地で魔王と相対する3人の魔法少女。

『今こそ君たちの力を発揮する時だ!』魔法少女の頭の中に浮かび上がる山野の声。俗にいうテレパシー、魔法で言うと何だろう・・・。そんな疑問を振り払い各々呪文を唱える。

 吹雪が強くなっていく。

『ふはははは!貴様らがこの私を倒せると思っているのか!』

 少女たちの姿を覆うように魔王の巨大な姿が描かれた演出の後に熱いヘヴィメタルソングが流れ、物語の第一期終了がアナウンスされた。


『いや、知ってたけど。忙しかったんで一話で切ったんだよなー、こんな話だったんだー』


 レイジはダイジェスト版のアニメを見て時代は変わったと思った。


 海藤が再度みんなを見渡し話し始める。これからが本題だ。くどくて長い話になるんだろーなーとみんな思った。


「いいか、聞いてくれ。日本でアニメに曲が採用されると言うのは名前が知られる大きな意味がある。また、ハードロック・ヘヴィメタルを違和感なく受け止めてくれる層はこういうアニメを見てくれるアニメが大好きな人たちだ。もう、そういった人たちしか聴いてくれない時代なんだ。ギャラもいいんだ。こういう物が好きな人たちは必ずCDを買ってくれるので枚数も結構捌けることが確約されている。視聴率も良いのでこうやって二期も作られることになった。おもちゃも売れているらしいんでな。しかも監督はヘヴィメタルとかハードロックとかは知らないらしいが、こういう音楽が好きらしく彼の作品はオープニング・エンディングどちらか必ずこういう曲を採用している。我々も二期が製作される情報を掴んで早めに動いた」


 眼鏡を掛けなおす仕草が自慢げな男がにやりと笑う。 海藤が眼鏡の男の肩を叩いた後に話を続ける。


「今回はラッキーだった。監督が君たちを知ってたんだ。頼む引き受けてくれ」


 なぜこのアニメの監督が由美のバンドを知っていたかと言うと単にミクのサムネに興味を持ってクリックしただけである。ちなみにいきなり職人姿のメンバーが出てきた事には驚いたが、自分の好みの音楽であったためチェックしておいた事が今回に繋がった。ついでに言うと、遥が男だとは気が付いていない。


「海藤さん」


「何かな由美君」


「これで私たちがアニソン歌手と思われるのは困るんですけど」


 眼鏡の男の視線が由美に刺さり口を開きそうになるのを制する海藤。ミクがハラハラした様子で由美を見ている。


「気になるのも分かる。だからそう思われない様にその前にアルバムを出す。ライブ動画DVD付きCDを出し、動画も数曲YouTubeに上げるつもりだ」


「この前の対バン映像ですか」


 にやりと笑う海藤。


「いいや、単独ライブをやる。9月後半に恵比寿リキッドハウスを取った。しかもライブは金曜夕方6時から八時半、客入れは6時、スタートは6時半で8時までステージに上がって貰う。その映像を使う」


「リキッドハウスで、しかもワンマンですか」


「それ以外ないだろう。セットリストに上げる曲数は18曲」


 レイジに緊張が走る。やっと10曲叩けるようになったばかりだ。

 

「いきなりリキッドハウスってかなわんなー」


「海藤さん、私たちそんなにお客さん集められるとは・・・」


 リキッドハウスの収容人数は1500人、今まで対バン形式で鶯谷、高田馬場、代官山などでライブをして来たが多くて800人収容のライブハウスだった。しかもワンマンである、心配にならない方がおかしい。


「任せてくれ、それくらいの見込みがないなら初めから箱なんか押さえない。これでも俺たちの仲間は多いんだよ。今までだってこっちから声かけなくてもレーベルとプロダクションが君らを抱えた事を知った連中から山ほど連絡がきてたんだ。Tシャツの売り上げも君らは知っているはず。入場口のアンケートもほとんど君ら目当てだったんだ。心配せずに君らは君らでTwitterとかで宣伝してくれるだけでいいから」


 留まることなく一気に畳み込んでいくつもりの海藤。この先に海外ロックフェス、ライブを見越して考えた結果である。


「あらかじめ実績を作っておけばアニソンジャンルに押し込められることもない。別にアニソンを馬鹿にしているわけじゃない。だが世界を相手にするにはそういうジャンルのバンドだと舐められるし客も限定されてしまうからね」


 海藤よりも少し若い男が、前のめりになった眼鏡の男を制止しながら話す。


「やってくれるか由美君」


 セットリストに上げる18曲くらいはミクと二人で作ってきた曲数を考えれば十分にストックできている。問題はレイジにまた負担を掛けてしまうと思い表情を伺うと、レイジにニッコリ笑顔を返された。


「やるしかないやろ!な、レイジ」


「うん。由美先輩、俺やりますから」


 由美が頷く姿をみてホッとする海藤。アニソン作曲依頼は由美とミクが作った曲の背景を思えば賭けだった。


「レイジ君、頼んだよ。それとこれでギャラも結構払えるようになると思うから」


 ポンポンとレイジの肩を叩く海藤。

 レイジはギャラが入ったらその都度、牧に出してもらったお金を返していたのだ。その為に領収書はキチンと整理してある。そういう細かい少年なのだ。そうでなければ少ない小遣いを貯めて東京までアイドルを見にこれない。


「とうとう○○〇魔法少女○○の曲あたしらが手掛けるんや!最高や!」


 ミクはアニヲタを隠すことをしなくなった。





 


 


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