32 もう、お前ら来るんじゃねーヨ(T T)
夏休みも8月に入りとうとう最初のフェスに参加する由美たち五人。歴史の浅いフェスでも仕切るのは大手運営会社であるのである程度出演者は決まっている。由美たちは無理やりこのフェスに参加させてもらっている上に主体が高校生なのでしょっぱなの出演になった。
「おいおい、あれがいきなりYouTubeで話題になったバンドらしいぜ」
「ガキじゃんかよ、ビビッて小便もらしたりしてな」
はっきり言ってあまりよく思われていない。現場では全く無名のバンドなのだから仕方がないと思っている。そんなところに、遥がどこかのバンドメンバーに絡まれた。
「おい!ここはビジュアル系バンドが出るとこじゃねーんだ。なんだその成りはロック舐めてんのか」
「いきなりなんですか、僕は別に舐めてませんけど。忙しいのであっちいっててよ!」
「このおかま野郎が!大手の事務所の力で出られるくせに俺らの前をウロチョロすんな!」
レイジが騒ぎに気付き、遥の元へ走りこむ。
「すいません、なにかありましたか」
レイジの顔とガタイにビビる男であったが、フェスという非日常と言う事もあって興奮している。
「なんだよしゃしゃり出てくんじゃねーよ、職人風情が!とっとと仕事に戻れ!」
「なんだと・・・職人風情とか言ったかあんた」
バイトで職人に混ざって働いていたレイジにとっては聞き捨てならない言葉である。
「な、なんだよ。やるってのか」
「ちょっと川島君そんなの放っておいてあっちに行こう」
川島と呼ばれた男は同じバンドの女に袖を引っ張られるように去っていく。
「大丈夫か」
「うん、ありがと」
レイジと遥が由美たちが待っている舞台のそでへ向かう。
「なんかあったの」
「大したことないよ姉さん」
「そう、顔が青いわよ」
「ちょっと緊張してるだけだから、レイジが居るからもう大丈夫」
「そっか、じゃあそろそろステージに上がって。サウンドチェックするって海藤さんが」
だだっ広いステージに上がる5人、ピットを見渡す余裕もない。海藤のスタッフの指示に従って楽器を軽くチューニングしたあと音量を確かめる。さやかがマイクを握って声を出すが震えている。
「そろそろ時間でーす」
運営スタッフの声がスピーカーから流れる。
ギターを抱えて目を前に向けると人の波があった。次に出演するバンドを待っている人の割には多すぎる。まだ始まってもいないステージ前は普通30人くらいしかいないものなのだ。予想を超える人数が由美たちを見ている。テレビにも出ていないラジオにも曲がかかったこともない、ライブさえしていないがYouTubeで限界突破する勢いで再生回数を稼いだバンドということで話題になっていたのだ。
ライブの実戦もなしにいきなりこう言った場所に放り込む海藤は鬼だと思う由美たち。足がガタガタ震え指が動こうとしない。もう逃げ出したくなってきている。
静まった会場にレイジのドラムのバスがドスンと響く。その後にクラッシュシンバルでカウントを取るレイジ。
我に返った由美とミク、遥が一斉に弦を弾く。凶悪なイントロが流れ、さやかがちょっと引きつった声で歌う。ツインリードのギターが雄たけびを上げスラップ奏法のベースがグルーブを刻む。超高速のペダルがバスを叩きブラストビートを刻み衝撃が鼓膜を破らんがごとく放たれる。
生で由美たちのバンドを初めて聞く観客が唖然とする。
曲が進むたびに拳が振り上げられ拍手が鳴り響く。YouTubeでバンドを知り、ファンになった40歳半ば以上のオヤジ連中が前列に陣取り雄たけびを上げる。最後の曲が終わるとピットに土煙が上がっていた。観客が暴れて蹴り上げられた砂だ。
その後のバンドは由美たちのバンドに煽られぐずぐずになってしまいブーイングまで浴びせられる。ロキノン系のバンドなどは由美たちの大分後に演奏することに胸を撫でおろす、その中に遥に絡んできた川島率いるバンドもあった。
「やっぱりメタルっぽい曲入れといてよかったやないのー、由美」
「そうね、こういうガツンとした曲を最初に持ってきて良かったわ。ミクのお陰よ」
ニコニコしながら話す由美とミク。レイジは緊張で倒れそうなさやかを背負って遥とともにその後を追う。
「レイジ」
「どうした、まだ連中が気になるか」
「もう、そんなの気になんないよ。レイジのおかげで指が動いた、ありがと」
「なら良かった。それにしても遥かに絡んできたやつ最低だよ、あんな大人にはなりたくないよなー」
「レイジがなるわけないじゃん、中学生じゃないんだから」
「まあな、高校生だもんな」
夏休みも終わり土日のフェス巡りもひと段落すると都内で対バンライブに突入する。何とか無事にこなしていく由美たち。やはりフェスで度胸が鍛えられ、どんな状況でも対応できるようになっていたようである。
ちなみに『さわやかなフェスに地獄の様なサウンドを響かせる由美たちが出るなら俺たち(私たち)はもう出ない』とささやかれるようになってしまったのはご愛敬である。
学校に帰っても特に騒がれることはなかった。フェスで盛り上げてもYouTubeで話題になっても情報の断絶は激しい。さすがに軽音楽部の連中だけは由美たちが何をしていたか知ってはいたが敢えて声を掛けることもなかった。
それが気に食わない由美。どうにかして自分たちが悪かったと頭を下げさせたいのだ。
「いや、もうそこに拘らなくてもいいじゃないの由美」
「何言ってるのミク。この私を!この私を退部に追い込んだのよ!あいつらが頭を下げるまで復讐は終わらないのよ!」
レイジに付きまとい、とうとうアイドル研究会にまで来るようになってしまった由美たち。お昼のお弁当を食べながらそこで息巻く由美。女の子が来るようになって嬉しい反面、蓋を開けば爆音同好会のような連中に戸惑う勅使河原達。
レイジの安息の場所が無くなった。
ついでに由美の復讐の手段であるサマーショックにも出られなくなった。とうとう、海外の大手興行会社からその時期にイギリスで開催されるフェス及び各国を渡り歩くライブツアーのオファーが海藤の元に来てしまったからだ。
のんきに昼ご飯を食べていた由美たちは、そのことを知る由もなかった。




