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31 敗者復活の狼煙

 小さなライブハウスのステージに立つ五人。

 夏休みに入り初めてのライブである。ピットには海藤はじめとする鴻巣プロダクションの男たちが数人いるだけである。

 実戦を想定したシークレットライブ。


「そろそろ始めようか。さっきも言ったけどYouTubeに上げるプロモ動画撮影も兼ねてるから出来るだけ動いてくれよ。時間は3時間あるんだ失敗しても気にしないでくれ、こっちでなんとかする」


 海藤の仕切りで演奏を始める由美たち5人。


 いきなりハイスピードな曲が演奏され、さやかの声がまだ乗り切れていないのか前に出てこないが誰も中断させない。


「生だとやっぱすげえなこいつら」


 カメラを持ったスタッフが三人、飾り気のないステージを撮り続ける。ピットの真ん中に居る海藤が左右後方のスタッフに目配せする。腕を組んだ男たちがじっと演奏を眺める。

 

 二曲目三曲目も間を置かず一気に突っ走る。さやかの声がだんだん本調子になり安定してくる。


「全然走んねえじゃん、スゲエスゲエッて聞かされてたけどこれ高校生レベルじゃねーよ」


 4曲目は少しスローテンポのブルージーなロック。全く乱れない演奏にハスキーなさやかの声が乗っていく。


「これならいけるんじゃねーか、海藤さん」


 海藤の後ろにいる男がぽつりと話す。聞こえていないのを知ってて話しているのだ。海藤は動かない。俗にいう地蔵である。


 1ステージ目の最後の曲は8ビートだが迫力のある重低音で、全盛期のAC/DC風のつい腕を上げてしまいそうになる曲で締めくくった。


 男たちが海藤を中心に集まり何か話している。気になる由美とミク。地蔵を目にして気にならない方がおかしいのだ。それに引き換え相変わらずレイジはどっしりと構えている。

レイジに合わせて何度か音合わせもしている。その時なぜか授業料の範囲を超えて講師が付き合ってくれた。


『ここまでやってステージでダメだったら僕も終わりさ』


 音楽講師の言葉を信じているのだ。


 頷きあう海藤たち。


「よし、もう一回今度は8曲まで一気に行ってみよう。いいよね由美さん」


「はい、お願いします」




 撮影されたライブ動画を編集してYouTubeにアップする海藤。海藤の周りに男たちが集まっている。この小さなノートパソコンの画面に今後がかかっている。最初に由美たちが上げた動画は既に400万再生回数に近づいている。

 祈るように画面を見つめる。

 時間は午前0時。5分10分とたち、ミュージック・ビデオは順調に再生回数を伸ばし、英語を中心としていろいろな言語でコメントがどんどん書き込まれていく様子にほっとする男たち。

 あっという間に20万再生を過ぎたころからリロードしても再生カウンターが動かない。通信状態がおかしくなったのかと思い何度もリロードすると、いきなり再生数が100万を超え急上昇動画に選ばれる。リロードする度に再生回数やサムズアップの数がどんどん増えていく。コメントが100単位で書き込まれ時折何も表示されなくなった。

 

 再生数の勢いにシステムが追い付かなくなっているのだ。


「すげえ、すげえよ海藤さん」


「ハードロックだぜこれ。しかもほとんど日本語なんだぜ、こんなに聞くやついたのかよ」


「いたんだよ!信じられねーがまだいたんだ」


「やはり最初の動画に食いついた連中が仲間に宣伝してくれたんだろうか」


「ああ、リアクション動画の数が半端じゃなかったからな。あれ消さなくて正解だったんだ」


 海藤は全く動かず画面を見つめている。


「海藤さん!どうしちまったんだよ!」


 海藤より少し年下の男が肩を揺する。


「まだ俺たちにも出来ることはあったんだ。どいつもこいつもロックは死んだなんて抜かしやがって!ふざけんじゃねー!死んだのはてめーらの才能だ!」


 海藤は涙をぐっと堪えて肩を震わせながら、そんな言葉を口にする。誰に向かって言っているかみんな分かっている。それは、負け続けてきた男たちの心の叫びだった。


 再生回数は数時間のうちに200万を超えた。


 その日の朝9時ピッタリに、ミュージックファクトリーという音楽レーベルから海藤に電話が入った。

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