30 使う筋肉が違います
レイジがひたすらドラム練習に励む。
由美とミクの作曲した曲はBPM300に届くパートがあったりする。完全にメタルの領域に入っているが講師に言わせれば間違いなくハードロックだという。
暗くなりかけた夜の7時、由美が部屋を出ていこうとすると遥もついてくる。
「一人じゃ危ないから。レイジを迎えに行くんでしょ」
「ええ、せめてそれくらいしないとレイジに申し訳ないわ」
新宿駅で乗り換えて渋谷の初台駅で降り、大きな交差点の近くにある貸しスタジオに向かう。
「何であんなこと言ったの姉さん」
ぽつりと呟く遥。
「さあ、ふつうに考えれば海藤さんの方が理にかなってると思うんだけど、なんかレイジが居てくれると安心するっていうか何でもできちゃう気になる感じかしら、というかレイジが居ないとだめっぽいのよ」
せっかくのチャンスを潰しかけた由美であったが後悔はない。
「由美姉、レイジは何にも考えてないようだけど結構気は使ってるよね」
「ええ、そうね。でも流されやすいのが彼の欠点かしら」
「知ってるかな、レイジってアイドル好きなんだよ」
「まあ、何となくね。アイドル研究会の勅使河原先輩が来てあんまりレイジを追い詰めないでって言ってきたことがあったから」
何とか暇を見つけてはアイドル研究会に顔を出していたレイジ。
短い時間でも各々の学生が持ち寄ったアイドルの話題や活動方針を楽しく語り合っていたが、レイジが急に顔を見せなくなって勅使河原は心配になり、レイジに頻繁に接触している由美や遥、ミクに聞きまわって由美に問いただしたのであった。
「ずっと黙って助けてくれてたのね」
「彼ってあんまり自分の考えを口にしないからね」
「ほんとに申し訳ないと思う」
「大丈夫だよ、レイジは僕らと居て楽しいからって言ってくれた」
「ほんとに」
「うん、大体が姉さんに憧れてんだもん。羨ましいよ」
少し寂しそうな遥の声をかき消すような車の走行音。
「じゃあ、私たちももっと頑張らないとね」
「そういう事!」
レイジがスタジオから時間通りに出てくる。
かなり足が辛そうだ。明日になれば背中の筋肉も悲鳴を上げると講師に忠告されたレイジ。
「食事作ったから、夕飯これからなんでしょ」
レイジは頷き二人に抱えられながら駅に向かった。
夏休み前のテストも終わり一息つく。
「どやった、テスト」
ミクがレイジの背中に抱き着く。
「おかげさまで何とかなった。これもみんなが助けてくれたお陰だ」
「分かりやすかったやろ、あたいの教え方」
「ああ、さすが○○学園にいただけあって凄い分かりやすかった」
「今日はこれからどないすんの。あたいは練習もないオフ日や!」
「じゃあ、一緒に帰るか。俺もさすがに今日はオフなんだ」
「なんやあ、芸能人みたいやぞレイジ」
「お前が先に言ったんだろーが」
「しらーん」
校庭で由美と遥に合流し話し合った結果、レイジの部屋に行き最初のライブのセットリストを考えることになった。
「シークレットライブだから失敗してもどーっちゅーことあらへん」
「何曲だっけ姉さん」
「リクエストは5曲、出来れば8曲くらいやってほしいって」
「レイジ、いけるかー」
「夏休み前半7月いっぱい使えば大丈夫だと思う」
「さすがレイジやー、男前やのー」
レイジの体に上ろうとするミク。うっとうしそうにそれを防ぐレイジ。
「またやってーや、ええやろ。あたいにあの景色みせてーや。勉強おしえてあげたやろー」
「わかったわかった」
レイジはひょいとミクを肩車する。
「最高やでー、この見下す感じは最高や!」
「ずるーい!ミクだけ!僕もお願い、レイジー」
ミクが遥かに向かってサムズアップする。
「勘弁してくれよ、ねえ由美先輩」
「あら、わたしもお願いしちゃおうかしら」
遥を揶揄いながらレイジに話しかけるミク。
「あんたの彼女になったるわー、感謝しーや!」
「はいはい、有り難うございます」
夕日で作られた長く伸びる影を挟んで二つの影が絡まって見えた。




