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29 正直に話しました

 レイジを先頭にバンドメンバー全員がいつもの喫茶店に向かう。

 職人服が4人にドレス姿が一人の集団。

 遥がいかに美人に見えようと職人とともに歩く遥に声をかけるホストの呼び込みもいないし、レイジ以外全員女性だと気づいて、つい声を掛けてしまうナンパ野郎もレイジが『何か御用ですか』と振り返ればすごすごと引き返す。


 目立ってはいるがどこか異常性のある集団である。

 そんな男女が喫茶店に入れば気づいた者からどよめきが沸き起こり、更にYouTube動画を見た事がある者は気づかない仲間に声を掛けスマホを取り出す。


「レイジ、目立っとるやんけ。大成功や!」


 ミクが小さな声で笑いながら話しかける。


 レイジが頷き周りを見渡すと、思った通り噴水の近くに牧とその連れらしき人が待っていた。


「早いですね牧さん。僕らの方が先に着て待っているつもりだったんですが」


 牧はメンバーを席に勧めながら牧の傍らに座っている男を紹介する。


「ああ、俺もそのつもりだったんだがどうしてもこの人が席が足りなくなったらって先に来たがってな。紹介する、鴻巣プロダクションの海藤さん。俺の世話になってる人の仲間だ」


 海藤はひょろっとした体を椅子から離すとレイジに名刺を差し出した。


「えっと、僕はバンドリーダーじゃないんです。リーダーはこちらの僕の高校の先輩で五十嵐由美さんです」


 由美が立ち上がり頭を下げながら名刺を受け取る。


「申し訳ない。てっきりレイジ君だったか、彼がリーダーかと勘違いしてしまった。あらためて自己紹介させてください」


 その後、由美が海藤にメンバー紹介をし終わると海藤がメニューを広げて好きなものを注文するように勧める。


「では、君たちは八洲さんを知らないんだ」


 海藤と話す由美が頷く。


「はい、牧さんを通してしか」


「そうか、君ら若いもんなー。八洲さんは結構ロック業界じゃ名が知れててね。別に業界人じゃないんだけど、いつもこれはってバンドを見つけてはライブに通ってて、いつの間にかファンクラブみたいなもののまとめ役になっててさ。30年前までは八洲さんの見つけたバンドは必ず売れるっていうか、八洲さんが来ないバンドは売れないってみんな気になってた存在だったのさ。まあ、僕も八洲さんの仲間みたいなもんだったんだけどさ、段々こんな状況になっちゃって八洲さんもライブに顔を時々しか見せなくなっちゃた。まあ、ライブ自体の演目が八洲さん好みじゃなくなってきてたっていうのもあるんだと思うんだけどね」


「もしかして牧さんのお知り合いの八洲さんが海藤さんに推薦してくれたんですか」


「そう、いきなり電話かかってきて『こいつらを何とかしてくれ』って言われて、YouTubeで君らを見た時はさすが親父さんだと思ったよ」


「ところで八洲さんは今日はどうされたのですか」


 牧が飲んでいたコーヒーカップを置いて由美に答える。


「八洲さんはこのところ具合が悪くて俺にお鉢が回ってきたってわけさ」


「ここまでしてもらったんです、お礼に伺わせていただけませんか」


「人と会うのも中々難しい人なんでな。すまない、気持ちは伝えておくよ」


「お願いします」


 一通り挨拶が済みとりあえず海藤の差し出した用紙にメンバー全員の名前と住所、電話番号を記入した。


「さて、後で君たちには事務所に来てもらうわけだけど、ここで簡単に僕が考えているプランを伝えたいんだがいいだろうか」


 頷くメンバー。


「では2か月後の○○ロックフェスティバルに出る。大丈夫、地方の始めたばっかりのフェスだからねじ込むことなんて簡単だ。主催する運営会社に後輩もいるからね」


 えっと驚く牧と由美たち。


「おいおい、いくらなんでもそんな急はないんじゃないか海藤さん」


「大丈夫です牧さん。生で聞いたことはないけど、あれ一発同時収録だよね由美さん」


「よくわかりましたね」


「そりゃあこういう仕事してるんだ、まだ耳は確かさ」


「しかし、おやっさ・・・八洲さんもそれで納得されるんですかね。へたすりゃ俺が怒られちまう」


「大丈夫ですよ。彼らの腕は僕が保証しますから、八洲さんにもそう伝えてください」


「あ、あのー」


「なにかなレイジ君」


「僕、あの一曲しか叩けないんですけど・・・」


「え・・・」


 固まる海藤。


「デモ用の音源のリズムセクションの部分がシンセだったというのは」


「そういうことです」


 少し間が開いたが気を取り直した海藤はあらためてみんなを見回す。


「わかった、じゃあドラムは僕が探しとくよ」


 すかさず由美が答える。


「それではこの仕事は受けません。レイジははずせません!」


「しかしそれではフェスまでには間に合わないよ。実はそのあとのフェスもスケジュールに入れておこうと思ってるんだ」


「何を言われてもレイジは外しません。私たちがここまでこれたのもレイジがいたからなんです!」


 何にもした気がしないレイジは由美の言葉に驚いていた。

 実際途中でドラマーが見つかれば抜けるつもりだったのだ。ただそれまで憧れの先輩や可愛いミクとやたら寄ってくる遥と楽しく過ごせればいいくらいの考えで、プロデビューしてアイドルとお近づきに本気でなろうとは思っていなかった。


 頭を抱える海藤。


「海藤さん、フェスじゃあ何曲やればいいんだ」


 牧が頭を抱える海藤に問う。


「最低3曲、出来れば5曲はやってもらいたい。その後のワンマンライブは無理だから対バン形式でやったとしても10曲は演奏出来ないと話にならない」


「とりあえず5曲演奏出来ればいいんだな」


「あ、ああ。しかし」


「リーダーがああいってる。あんたはチャンスを逃したくないそうだろ」


「は、はい牧さん」


「じゃあ、やるしかねーだろ。レイジ、バイトは辞めろ、俺が○○建築のおやっさんに話しとくから心配すんな。足りない生活費は俺が持つ。明日からドラムだけに専念するんだ」


 牧の体が急に大きく見えるレイジ。

 最後に会った時バンドとこれからの生活があるからバイトをさがすんでなかなか会えなくなるといった時本気で心配してくれた牧。短時間でかつ時間的に融通が利く仕事が建設現場しかないとすまなそうに電話をくれた。『勉強だけはしっかりやれ』とだけ言ってくれた牧の声は優しかった。


「海藤さん、あんたの知ってる奴で教えるのが上手な音楽講師はいるか」


「いるにはいるが学生が払える額じゃないよ牧さん。それに僕のチームもこの仕事がうまくいかなきゃ解散なんだ。今の予算でさえ上司を説得して無理やり出してもらった。機材、スタッフ、交通費なんかでぎりぎりなんだ」


「心配すんな、そんなこと八洲さんも知ってる。俺だってこの業界がどういうもんかくらい知ってる。レイジの世話は俺が責任を持つ、だから講師を紹介してくれ、こいつらの曲だと結構身に着けるのが大変だから教え方がうまい奴が必要なんだ、頼む!」


「分かりました牧さん。講師は探しましょう、ただしそれ以外は私に任せてください。それとこの話は一応八洲さんに話させていただきます、それが筋だと思いますので」


「ああ、そうしてくれ。頼んだぜ海藤さん」


「お願いします牧さん」


 少し波風が立ったが、なんとか話はまとまったところで解散となった。


「牧さん、申し訳ありません」


 由美が牧に頭を下げると他のメンバーも頭を下げる。


「気にすんな。それとレイジ、練習頑張んだぜ。もちろん勉強もだが」


「はい!牧さん俺頑張ります」


「少し男らしくなってきたなレイジ・・・」


 牧はレイジの肩を叩くと歌舞伎町の方に歩き始める。


「何であなたがそこまでするんですか」


 すべての人間関係を知っているさやかが、牧に近づき問う。


 牧はさやかの目をじっと見ながら口を開く。


「こいつらに夢をみちまった馬鹿な親父の為さ」



 えらい啖呵を切っちまったと少し反省しながら事務所に帰る牧。海藤や由美たちの話を直接組長である八洲平八郎に報告するために社長室のドアをノックする。


「牧です」


「入れ」


 牧が平八郎に頭を下げるとソファーに座れと指示される。

 

「話は海藤からもう電話で聞いた。大変だったな牧」


「へい、こんなことになるとは思いませんでした。自分が責任をもって面倒を見ます」


 平八郎が向かいの椅子に座り、頭を下げる牧の前に少々厚い封筒を置いた。


「小遣いだ、領収書も証文もなんもいらん、好きに使え」


「しかしこんな金返せませんぜ。それにレイジの事は自分が勝手に」


「わしに夢をみせてくれるんじゃなかったんか、牧。さやかがそういっとったのは間違いだったのかのー」


 さやかが平八郎の電話番号を知っていたことに驚く牧。


「確かに言いましたが自分は」


「ライブ1回、今年のサーキットの最後のライブ1回分、組員全員のチケット代だとリーダーに伝えてくれ」


 博徒とはいっても世間一般からは暴力団に一括りにされ法律に縛られ凌ぎも厳しい。牧も例外ではない。貯金を崩し時計を質に入れ生活費を削るしかないと腹をくくっていた。それほどの金を海藤は口にしたのだ。


 目に涙をジワリと浮かべながら封筒を受け取る牧。


 ドアがノックされる。


「本郷です」


「入れ」


 本郷は牧の前に封筒を置く。


「おやじよりは大分少ないがみんなの気持ちだ。頼むぜ牧」


 牧は平八郎と本郷に頭を下げると、急いで事務所で夜の仕事の準備をする組員の元に向かった。





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