22 いつでも帰れる場所
収録も済み一息つけると、レイジは考えもともと行きたかったアイドル研究会の部屋の前にいた。
由美やミクにロックという音楽を時系列で教育され、ビートルズ、ジミー・ヘンドリックス、ディープパープル、レッドツェッペリン、ブラックサバス、べへモスと、とにかく色々なロックを知るようになった。ヲタクがその知識量をひけらかしマウントを取るようなこともされなかったので素直に受け入れられたが、レイジにとっては長年馴染んだアイドルソングも、アイドルという存在も捨てることは出来ない。
『由美さんにバレない様に、いやバレても友達の付き合いでとかいって誤魔化せば大丈夫だ』
ちなみにレイジにはアイドルを語り合うクラスメイトはいない。
というかクラスに友人はいない。
男子は勉強中心でバラバラ、強面のレイジに話しかける女子などいるわけがない。別にクラスで孤立しているわけではない、そもそもそういう学校なのだ。時折、趣味の話をしている者もいるがレイジの趣味とは違っていた。アイドルの話をしているのもいるが横で話を聞いていると、嫌われるヲタクの特徴をまんま映した知識のマウントの取り合いで仲間に入る気にもなれなかった。
息を一息ついてドアをノックするレイジ。レイジはここが苦手なヲタクの巣窟だったのなら、軽く話をして帰る予定にしている。
「どうぞ」
少し暗い感じの返事だったので、恐る恐る引き戸を開ける。
「こんにちは、1年の神ヶ谷レイジと言います。ここはアイドル研究会でいいんですよね」
同好会ゆえに、看板も特に無く会員募集のポスターを見ただけだったので、部屋に間違いがないか少し心配なレイジ。
「ああ、そうだよ。僕は3年のここで一応会長をやってる勅使河原だ。入ってくれたまえ」
レイジは勅使河原を始めとする数人の男子学生に頭を下げる。
「あのーまだ同好会のメンバー募集してるでしょうか」
「おっと、君入会希望者か。もう夏休みも近いんで入会してくる人もいないと思ってた」
「ダメでしょうか」
「何言ってるんだ大歓迎だよ。なあ、みんな!」
勅使河原が歓迎の意向を示すと他の男子も頷く。大人しそうな2年生のバッジを付けた男子が、引き出しから入会手続きの為の用紙を取り出しレイジの前に置く。
「じゃあ、学年とクラス名前と連絡用の電話番号とメアドをここに記入して」
そろそろ夕日が差し込む時間なので、少し暗くなった部屋で必要事項を記入するレイジ。レイジから渡された入会申込用紙を見る勅使河原。
「君、神ヶ谷礼仁君と言ったよね」
「はい」
「もしかして今シーサイド38のファンクラブ入ってるんじゃないか」
「何で知ってるんですか」
「やはりそうか・・・。諸君!どうやら彼が伝説のアイドル博士、神ヶ谷君のようだ」
「おお!君が・・・まさかこの学校にいたとは」
どよめきが起きるなか、勅使河原がレイジの前に進み出る。
「その体格、その顔どこかで見たことがあると思ったんだが、そうか君が神ヶ谷君だったのか!改めて歓迎するよ。ところで牧さんとはどういう関係なのかな」
「まさか・・・」
「ああ、僕はヒナギク49の親衛隊長をさせてもらってるんだ。牧さんには色々お世話になっててね」
運命とはこういうものだと、感慨にふけるレイジ。
それからの時間はレイジにとって、肩の力が抜けたリラックスした会話が続いた。単なるアイドル同好会ではなく、売れないアイドルや売り出し中のアイドル、地下アイドルを過去の資料や経験者の意見を聞いて「自分たちの力で売れるアイドルにするんだ』という志の高い活動をしているという。
レイジがしてきたことは、まさにそれだった。
色々忙しい身なので時々しかこれないことを正直に話したが、みんなニコニコしながらいつでも待っていると言ってくれた。
「僕はここにいて、いいんですね」
最後は目に涙を浮かべるレイジ。
「ああ、何があったか知らないが辛いこと悲しい事があったらいつでも来てくれ。なあみんな!」
同好会会員の優しい笑顔に囲まれるレイジ。
その頃、由美率いるバンドの動画がYouTube上で視聴者数が急上昇を始めた・・・世界中で。




