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21 興味無ければ騒音です

 ステージ衣装に着替えて貸しスタジオに入っていく五人。

 遥以外はイケてる職人御用達の猫壱ブランドで統一した、右胸にバンド名の刺繍入りの職人姿でばっちり決めている。

 

「ねえ、何で遥君だけこんななの」

 

 ボーカルのさやかが、いそいそとスタジオに入ってくる遥を見て呆れているが、別に自分もと言うことは口にしない。


「さやかさん、ビジュアル系バンドに必ずいる女形知らんの」


 ミクがギターの位置を腰の下まで下げられないか苦心惨憺しながらも、さやかに話しかける。


「あんまりバンドとか興味無かったから知らないわっていうより私たちハードロックバンドなのよね」


「しゃーない、遥のギターの腕はゼッピンやもん。せやからあたいがサイドギターになったんや。その遥がどーしてもって言うんやったら諦めなしゃーない。さやかさんの気持ちも分からんもんでもないけど、目立つっちゅー意味ならええんとちゃう」


 5台のレンタルカメラのモニター画面で、各自の位置とアングルを確認している由美。


「レイジは上着脱いで、そうランニングシャツ姿でいいのよ。ああ、やっぱりさやかさんはヘルメット脱いだ方がいいかしら。え、脱ぎたくない、どうして・・・。知り合いに知られたくないとか今更言われても・・・。分かりました、そのままでいいです。ミク、ギター下げすぎ、それで弾けるの!いちいちカッコつけない!。遥!いつまでレイジと話してんのさっさと戻りなさい!」


 由美がベースを下げて所定の位置につく。


「ねえ姉さん、これやっぱり盛りすぎてないかなー」


「いいのよそれで!きっとベルサイユ宮殿に来てた貴族はそんな感じなのよ!」


 貸衣装屋でミクと由美と一緒にドレスを選んでいるうちにエスカレートしてしまい遥の衣装はフランス宮廷文化華やかりしころのお姫様姿。ちなみに遥が盛りすぎを心配しているのは、金髪ドリル巻きのかつらの事である。


 映像音源同時収録で時間一杯、納得できるまで演奏する。


 一曲だけなので、レイジは早まった収録でも十分に練習ができているので安定したドラミング。

 もともとギターの腕は確かなミクと遥がリフを刻む。

 由美はこのメンバーが決まった時点でベースに変わったが、リズムを刻むレイジをリードしていくには良いポジションだと思った。さやかのハスキーだがパンチのある歌声が楽器隊の音に負けずに前に出ていく。


 最初の収録が終わり正面のカメラで出来を確認する五人。

 音は悪くないが今一つ動きが固い。


「もっとミクと遥が動いて頂戴、さやかさんは上着を少しはだけた方がワイルドな感じになるかしら。レイジは出来ればヘドバンしてほしいかな」


 二度目の収録。


 遥が可愛らしい仕草で、ミクが大股を開いてギターを振り回し、さやかが上着をずらし右肩を晒す。レイジは由美とともに慣れないヘドバンを必死にする。


 三度目の収録。


 ライトの熱で浮かび上がる汗がほとばしる。

 ただし遥だけはこんなこともあろうかと対策を施したお化粧なので崩れることはないが、かつらがずれないか心配だ。さすがに三度目の収録になると演奏もこなれ、良い感じで乱れた服がさっきまで建築現場で働いてましたという感じになる、遥以外。


 5人はモニターを眺めると、あまりの完成度に自分たちは天才だとお互い褒め称えあった。



「これをさやかさんを紹介した人に見てもらってから、感想を聞いたうえでYouTubeに上げたいのですが」


 牧を通してさやかを紹介してくれた謎の人物にお礼代わりに最初に見てもらいたいと、メンバー全員で話し合った結果である。ちなみにさやかは、八洲平八郎の仕事がどんなものか知っているがとぼけている。


 牧は渡されたSDカードを、鼻がセレブしか使わないティッシュにくるんで胸ポケットに仕舞う。


 牧が平八郎にSDカードを渡し?平八郎がそれを若い衆でもパソコンが何とか使える者に渡す。パソコンにカードを差し込み、平八郎を筆頭に集まった組員全員が固唾をのんで見守る中動画が再生される。


 爆音が事務所に轟く。


 ツインペダルでドラムが激しく叩かれ、ベースがグルーブを生み出す。ミクが小柄な体を大きな仕草でギターを振り回し、遥が可愛くギターソロを奏でる。さやかの不貞腐れた様な歌声がワイルドだ。


 動画が終わり組員全員が押し黙る。


『何で女形がいるんだ、聞いてねーよ。しかも他は職人かよ!。やばいよおやじ固まってるよ』


 牧が心配そうに組員を眺める。このバンドを紹介してしまったのは自分だ。しかも組長直々にボーカルまで紹介してもらっている。


『けじめつけなきゃならんかも・・・』


 冷や汗を掻く牧。


「最高じゃ・・・これは最高のハードロックじゃ!世界最高のバンドじゃあああああああ!」


 平八郎が叫び、牧以外の組員が怒声を上げる。


「おやじー!これこそ俺たちが待ってた音ですぜ!」


「牧の兄貴!ドルヲタだと思ってましたがやっぱりこっち側だったんすねー!」


 弟分が泣いている。


「牧、ここまでイカレタ連中だったとは思わなかったぜ!こいつはビッグになる、世界でビッグになるぜ!」


 若頭の本郷が涙を流しながら、牧にサムズアップ。その後何度も何度も動画が再生される。


 近所のおばさんが訪ねてきたが、牧以外誰もその場を動こうとしない。牧は仕方なく、玄関先で騒音に苦情を入れるおばさんに頭を下げる。神竜組は近所付き合いはまめにしているうえに?ご近所の庭先も掃除する。博打に関係ない世界でそれなりに世渡りをしなければ、どこで足をすくわれるかわからない。つまらないことでトラブルになりたくないのだ。

 

 平身低頭の牧。


「赤ちゃんもいるご家庭もあるんですからね!おわかり!」


「はい、直ぐに言って聞かせますんで。勘弁してください」


「お願いしますよ牧さん!」


 おばさんはぷりぷりして帰っていった。


 牧は切れた。


 自分だって、ヒナギク49を最大ボリュームで聞きたいのを我慢して事務所ではヘッドホンで今まで聞いてきた。しかもいつ敵対する組の出入りがあるかもわからないので、外の音も入ってくるヘッドホンだったのでボリュームは自宅以外は控えめにして聞いている。いや、自宅でさえヘッドホンで聞いている。


 組長たちがこの事務所でロックを聴くたびに、次第に上がる音量を無理やり下げたことは数えきれない。牧はドカドカとみんなが集まる部屋に入りアンプの音量を一気に下げた。


「あ・・・すまんの牧、いつも苦労掛ける」


 牧の怒りを察した組長はじめ組員全員(ショボーンとして牧に頭を下げながら一人一人部屋を出ていった。





 

 


 



 


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