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16 揺れる少年

 夏もそろそろ始まろうかという午後6時半。

 建築現場で働く男たちがぞろぞろと現場を後にして出てくる。


「いやあ、熱くなったなーあんちゃん。これからみんなで一杯引っかけに行くんだけど一緒にどうだい」


 高校1年のレイジにとってはお酒は厳禁である。


「すいません、俺これから用事があるんで」


「そうかい、そういえばなんとなく未成年っぽいもんなー。成人式終わったらみんなで飲みに行こうぜ」


 なんだかすっかり社員というか、職人仲間になってしまったレイジ。

 そのレイジに向かって手を振る少女が見えた。


「おいおい、用事って。こいつは隅に置けない野郎だぜ、こん畜生!」


 仕事仲間にバンバンと背中を叩かれるレイジ。見ればなんとなく由美にも見えるが、レイジのこそ緊張は隠せない。とことこ走ってくる姿の微妙な違いにまで気づくレイジは、既に達人の域に達しているが職人仲間は全く気付かない。


「おお!すげえ可愛いじゃん。びっくりだぜ!」


「なになに、あの娘レイジの彼女なの」


「いいなー、俺も彼女欲しいよー」


 レイジの前でハアハア息を切らせながら腰を曲げる姿に可愛い!とか誰の彼女なんだよ!とかワイワイ騒ぎ始める。レイジはポコッと遥の頭を軽くたたくと、職人仲間に頭を下げた。


『ほんっと、すみませんでしたー!』





 レイジと遥が並んで電車を待つ。職人姿のレイジの隣で、由美の服を着こなす遥。


「なんでわざわざ迎えに来たんだ」


「えっとねー、僕もここで働いてるんだ」


「何のバイトしてるんだ」


「姉さんのとこでメイドやってる」


「はあ・・・」


「だってさ、みんなバイトしてるのに僕だけ何にもしてないって寂しいし」


『いや、君はそこそこお坊ちゃんだよね。働く必要ないでしょ、由美先輩の場合はお小遣い以上の出費があったから仕方ないとは思うけど、君の場合はバイトする意味ないよね。貸しスタジオ代は割り勘なんだし。あれ、そういえばミクだってもうバイトしなくてもいいんじゃないか。よくよく考えれば、由美先輩だって今はお小遣い節約すればバイトしなくてもいいじゃん。なんでみんな働いてんの。何考えてんのみんな、特に遥。何でメイド喫茶、しかも先輩と同じとこなの。

 大体が今普通に女装してるよね、冗談だったんじゃないの』 


 色々突っ込みたいことを考えていると、電車が入ってくる時なぜが遥が腕にしがみ付いてくる。


「暑いんだけど」


「ちょっとよろけちゃった」


 駅を出るとマンションまで10分。


「ねえ、レイジ」


「なに」


「バイト頑張ってるけど勉強大丈夫なの」


「ああ、俺は進級できる程度で今は良いから」


「大学どこいくか決めてないの」


「まだやりたいことは特にないからなー。それよかお前のほうがいいのかよ、成績さがっちゃうんじゃないのか」


「別にもう大検合格するくらいは自信あるから。でも○○大学くらいになると、ちょっと頑張らないといけないかも」


「遥は将来なんになるか考えてんのか」


「お医者さんかなー」


 さすがだと思うレイジ。


 高校一年のレイジは何となく流されているだけだと自分では感じている。東京で暮らしてアイドルのライブに気軽にいけることを目標にしてきたレイジは、その先を一切考えたことはなかった。


 あっと気づくレイジ。


『そういえばアイドル研究会行く予定、すっかり忘れてたよ!』


 そのあとに由美の顔が浮かぶ。


『彼らは敵です!』


 そう言い切った由美とともに今バンド活動をするためにバイトをし、そのお金を音楽教室に費やしているのである。そんな由美にアイドル研究会の事は口に出すわけにはいかないし、それになんだかんだ言っても由美たちと過ごす日々が楽しい。『いやいや、おばさんを頼って東京の学校に来たのもアイドルのライブにちょくちょく行きたかっただけ』だったことを思い出すレイジ。


『俺、何してんだろう』


 本当に流されまくっている自分が情けなくなってしまう。


 遥のスマホが鳴る。


「うん分かった。今、今レイジといるけど。うん、じゃあ誘ってみる」


「由美先輩から」


「そう、姉さんがご飯作ってるからレイジも一緒にどうかって」


 何度か夕食に誘われた記憶を思い出す。美味しかった記憶しかない。


「じゃあいただきにいかせてもらうよ」


『余計なことを考えても仕方がない』と気持ちを切り替えるレイジであった。


 






 

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