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13 好きなものは好き

 敵、enemy。


 生きるか死ぬか、殺るか殺やられるかの相手。


 その言葉を強い口調で吐く由美。


 由美は教師の勧めで地元の進学校に入った。音楽にのめり込んではいたが、それだからと言って自分の能力に相応しくない音楽活動が盛んな高校に入る気もなかった。自分がやりたいことはどこでもできるし、それが可能であると考えていた。

 頭のいい自分は教師の言う通り、偏差値の高い高校に入るほうが将来の可能性を広げることに役に立つことを十分理解していた。逆に勉強さえ出来れば、結構放任される今の高校は都合がいいと思った。

 ギターの腕も音楽教室に通って磨きに磨いた。

 高校の軽音楽部に入ればいつでもバンドが組めるとワクワクしていた。


 高校に入り早速軽音楽部に顔を出せば、先輩たちが美人の自分をニコニコして迎い入れてくれた。だが世の中、全て自分の思い通りになると考えていた由美はそこで挫折した。

 一時でも早くハードロックがやりたかった由美は、同級生や先輩たちにバンドを組んでくれとすぐに動いたが反応は芳しくない。無理やりヘッドフォンを押さえつけ、レインボーでもポップ寄りの曲を聴かせたこともあったが、みんな顔をしかめるばかりであった。


 世の中はハードロックとは無縁であった。音楽教室のギターの先生の言っていた事とは全然話が違った。


 由美の事は誰も相手にしてくれなくなっていった。そういえば中学でも友達と音楽の話をしたことがなかったことに気づく由美。部室で演奏されるさわやかな曲、静かに流れるアコギにみんな耳を傾け出会いの歌や希望の歌に賞賛を惜しまない中で由美は孤立していった。


 うらぶれた街角で、将来の希望や夢を打ち砕かれ恋人に見捨てられやけ酒を煽る男、モーターサイクルに身を委ね、深夜の街を仲間の追悼代わりに爆音をなびかせる野郎ども、世界が終わるとイカレタことを呟く女が本当はまともで、自分たちこそがイカレテいたんだと気づいた男、裏社会でつかんだ大金を女につぎ込み、最後は仲間だった連中に殺されるギャングなどの曲を歌いたかった由美。


 なぜ、このカッコよさが理解されないのかと悩む。


 もしかしたら今持っている安物のギターの音色がいけないのかもしれないと、どこぞのゴルフ好きのオヤジのような境地に迷い込む。また自分が間違っているかもしれない、自分の好きなものがおかしいのかもしれないと自分を責める。


 由美はきっとギターさえ変えれば何かが変わると思った。


 おしゃれなミュージシャンはアイバニーズを持っていることを知った由美は、それさえ手に入れば何かが変わると思った。だが30万円近くするギターを手にするには女子高生には大変である。


 由美はバイト料の良い仕事を調べた。


 高校生であるので長期バイトは出来ない。かといって違法な事をはなからするつもりもない。


 行きついたところはメイド喫茶であった。時給1500円はかなり魅力的であり、出勤も比較的自由であった。また、自分の容姿にも自信があったので採用されない訳がないと思い応募すれば、あっという間に採用された。しかも時折オリジナルのアイドルソングを店員が歌い踊ることがあったので、自分の感性を広げる事にも役立つだろうと思った。


 だが店内に流れる曲もステージで歌う曲もどうしても馴染めない。次第次第に由美の態度はメイドにあるまじき冷たさを纏っていった。

 世の中というものは色々な趣味の持ち主が居る。由美の冷たい態度に胸をときめかせる男たち。クールビューティーのそっけない接客は次第次第に噂になり、どんどんファンを増やしていく。

 ファンが増えればチェキなどの依頼もひっきりなしとなり、オプションを追加してくれる客も多い。バイト料もうなぎ上りとなり、あっという間にギターを手にすることができるお金が出来た。由美は胸を弾ませて楽器店に向かい、そこで前から買おうと思っていたギターの隣にあったギターに目を奪われた。


「ああ、それね。メタルギタリストやハードロックギタリスト御用達ですよ。高いからお客さんにはこっちのほうがいいかなー」


 商売っ気のかけらもない店員の声を無視して、PRSを手にする由美。


 ポンとお金を出す女子高生に驚く店員。


 店内で軽くギターを弾かせてもらえた。


 その音色に『自分にはこれしかないと、やっぱりこれしかない』と泣く由美。


 ギターテクニックに驚く店員であったが、由美の涙を見て孤高の天才ギタリストであるイングヴェイ・マルムスティーンを重ねる。いくらギターの才能があっても他のミュージシャンからは嫌われ、固定のメンバーを組むことのない北欧出身のギタリスト。そんな姿を重ね合わせる店員は少女の身の上を想像して、楽器の陰に隠れて泣いた。


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