プレゼント
しばらく暖炉の火を眺めていた私は、ふと、暖炉のそばに積まれた包みへ目を向けた。両親宛のものと、私宛のもの。冬の祝祭に合わせて届いた贈り物が、いくつも重ねられている。その中に、ひとつだけ、私がこっそり隠しておいた小さな箱がある。
私は一度マグカップを置き、立ち上がった。
「どうかなさいましたか、お嬢様」
「ちょっと待っていて」
私は包みの山へ近づくと、その隙間へ手を差し込んだ。見つからないように奥へ押し込んでいた小さな箱を取り出す。上品な包み紙にベルベッドのリボンのかかった、細長い箱だ。それを持ってアルヴィンのところへ戻ると、私は彼の前に立った。
「はい」
「……?」
アルヴィンが不思議そうに私を見上げる。私は箱を差し出した。
「あなたに」
一瞬、アルヴィンの目が箱へ落ちた。
「……私に、ですか?」
「そうよ。祝宴の日おめでとう。それから、お誕生日も」
アルヴィンは箱を受け取ろうとはしなかった。
「お嬢様。これは……」
「誕生日のプレゼントよ」
「いえ。そういう意味ではなく」
アルヴィンは困ったように眉を下げた。
「私は使用人ですから。このようなものをいただくわけには――」
「え?」
思わず声が出た。私は差し出した箱を見下ろし、それからアルヴィンを見る。
「去年までは受け取ったじゃない」
「ええ。ですが――」
「一昨年だって、その前だって」
私は指を折りながら数えていく。
「毎年ちゃんと渡してきたでしょう?」
「存じております」
「じゃあ、どうして今年は駄目なの?」
アルヴィンは少しだけ困ったように笑った。
「もうお嬢様はデビュタントも終え、社交界に出るようになって久しいです。いつまでも以前と同じようにはできませんよ」
「……そんなの」
私は口を尖らせた。
「誰にもバレないじゃない」
「そういう問題ではありません」
「ずっと同じ家に住んでいるのに、今更そんなことを気にするの?」
「今までとは事情が違います」
「でも――」
私は箱を見た。去年の万年筆も、その前に贈ったものも、アルヴィンはちゃんと受け取ってくれたのに、今年になって突然「駄目だ」と言われるなんて、納得できるわけがない。
「……じゃあ、いらないの?」
「お嬢様。そういう言い方をされますと――」
「なら、受け取って」
「それは……」
アルヴィンはまだ手を伸ばさない。私はしばらく彼を見つめた。それから、ふと思いついたように暖炉へ目を向ける。
「……わかったわ」
「はい?」
私は箱を胸元へ引き寄せた。
「じゃあ、捨てる」
「……お嬢様?」
「受け取ってくれないなら、持っていても仕方ないもの」
私は暖炉へ一歩近づいた。
「ここに入れればいいでしょう?」
「いや、それは――」
アルヴィンが慌てて立ち上がる。その反応を見て、私は少しだけ得意になる。
「だって、誰にもバレないんでしょう?」
「そういう意味で申し上げたわけではありません」
「じゃあ、受け取って」
「……」
「それとも、本当に燃やしてしまおうかしら」
アルヴィンはしばらく黙っていた。やがて、諦めたように小さく息を吐く。
「……お嬢様には敵いませんね」
そう言って、ようやく手を伸ばした。私はすぐに箱をその手のひらへ乗せる。
「ふふ。素直でよろしい」
「どちらが素直なのか、私にはわかりませんが」
アルヴィンは困ったように笑った。けれど今度は、その細い指でリボンを解き、包み紙を破った。中に収められていたのは、懐中時計用のチェーンだった。
華美な装飾はない。けれど細身の金属には細かな彫りが施されていて、角度を変えるたび、暖炉の光がその模様を静かに浮かび上がらせる。控えめなのに、近くで見るほど丁寧な造りがわかる、美しい品だった。アルヴィンはしばらく黙ってそれを眺めていた。
「……懐中時計のチェーンですね」
「ええ」
私は少し得意げに頷いた。
「あなた、いつも懐中時計を使っているでしょう? だから、これなら使えると思って」
アルヴィンはチェーンを指先で持ち上げた。細かな彫りが暖炉の明かりを受けて、淡くきらめく。
「去年は万年筆だったから、今年は何にしようかと思っていたの」
「……そうでしたね」
アルヴィンが小さく笑う。
「去年の万年筆、まだ使っているでしょう?」
「ええ。大切に使わせていただいています」
その言葉に、私は嬉しくなった。
「同じように、これも使って」
アルヴィンは手の中のチェーンを見つめ、それから私へ視線を戻した。
「……ありがとうございます、お嬢様」
今度の言葉には、さっきまでのような遠慮がなかった。私は満足して、暖炉の火へ視線を戻す。
雪はまだ静かに降り続いている。その隣で、アルヴィンの手には、私が選んだ小さな贈り物が収まっていた。それを見ていると、胸の奥がまた少しだけ温かくなった。




