episode -3- [母の] scene -②-
重苦しい空気漂う『母屋』の居間に、おじいちゃん、パパ、私、そして……何故か、お姉ちゃんまで、座卓を囲むようソファへと腰掛けております。
因みに、パパと私が買い出しに出掛けた後、客間で『ガトーマルジョレーヌ』を振る舞われていた、生徒会の皆さんは、早々に帰宅されたみたいです。
その情報については、冴彌ちゃんからのDMチャットにより、パパと私で買い出ししている最中、もたらされました。
とりあえず、パパと私の関係性については、おじいちゃんからの話の後で、どうするか二人で決めることにしてあります。
「それで、今日……こうして集まってもらったのは、未來のことについて……話しておきたいことがあったからだ」
「えっ?!未來のことって……何なの?」
「未夢、黙っていて悪かったな?実は……未來は、未夢の本当の妹ではないんだ」
「はあぁぁぁ!?どういうことなの?!私、未來が……赤ちゃんの頃から、傍で見てきてるんだけど!!」
お姉ちゃんからすれば、私は年子の妹なので、小さい頃はいつも傍にいて、共に成長してきた……近い存在なのでしょう。
それなのに、突然……おじいちゃんから『本当の妹ではない』などと言われて、すぐに納得できる人などいないと思います。
「未來はなぁ……?蒔夢の妹で……僕の自慢の次女、蒔來の娘なんだ……」
「えっ……あのママに妹なんて居たの?!私、初耳なんだけど!!しかも、『自慢の次女』って……何?」
「二人に、今まで秘密にしてきたのはな……?お義父さんが、孫の未夢と未來は……仲の良い姉妹に育ってくれるように……」
「信義が言う通り、蒔夢と蒔來は……お世辞にも仲の良い姉妹ではなくてなぁ?ただ、悪いことに……男の趣味だけは、姉妹で意見が合ってな……」
『男の趣味』という、おじいちゃんの言葉を聞いて……私は、あることにピンときてしまいました。
「ママと私のお母さんは、パパのこと……取り合ったってこと?!」
「おおっ!?流石は……自慢の次女の娘だ!!なぁ、そうだったよなぁ……?信義」
「俺と……伊東蒔夢、蒔來の姉妹は家が近所で……幼馴染でさ?三人でいる時は、よく遊んでたんだ」
「え!?ママと未來のお母さん、仲が悪かったんじゃないの?!」
確か、パパの話では……ママと付き合い始めたのは、高校三年の三学期頃だったとか……昔、聞いた記憶がありました。
その時のママは『パパの元カノ、かなりウザかったんだよねぇ』と言って、パパに突っかかっておりました。
ひょっとすると、あるかもしれないと……私は思いました。
「俺と居る時だけは、ママは別人のように蒔來と仲良くしてたんだ……。まさか……蒔夢が、腹黒女だったなんて……俺、知らなかったからさ?」
「で?パパは……いつ頃から、妹の蒔來さんと……お付き合いし始めたの?」
「ちょうど、今の未來と同じ……中二の一学期だったな」
「あぁ……そうだった、僕の居る前で……信義は、蒔來に告白したんだったよなぁ?」
「はぁ!?パパ、やるじゃん!!」
パパの『中二の一学期』という言葉に、私は……本当の母親である蒔來さんと、重ねて見られているのでは……と、思い始めたら急に憂鬱な気分です。
あくまで、私は……娘の未來であって、蒔來さん本人ではありません。
蒔來さんの身代わりとして……パパが見ているのであれば、それには……私の気持ちが許さないので、絶対に……応えることは出来ません。
「幸せな時間は……そんな長くは続かなくてさ?俺が高校三年の夏休み、蒔來に『別れたい』って一方的に言われてさ?別れることになったんだ……」
「それ、ママが原因だったんじゃないの?」
「結局、蒔來は理由を教えてくれないままでさ?あとは、未夢と未來が知ってる通り……俺は、ママから告白されて、付き合うことになった」
そして、パパとママが高校卒業を控えたある日、おじいちゃんと夫婦二人三脚で、お店を支えてきた祖母……伊東蒔未が、急逝したのです。
この辺りからは、お姉ちゃんも私も知っている……幼い頃、パパやママから聞かされていた内容でした。
「その陰で……信義と別れた蒔來は、急に家から出て行ってしまってなぁ……。かあさんは……毎日のように、蒔來を探しに出てな……。恐らく、その心労が……たたってしまったんだな……」
「元はといえば……俺が……!!」
「いや!!楽しみにされてるお客さんの為、例え休みの日でも……仕込みを欠かせなかった僕も同罪だ!!かあさんを見殺しにしたようなものだ……」
まさか、パパと別れた私の母親が、家出して……行方不明になっていたことも驚きでしたが、当時のおじいちゃんの精神的ダメージは計り知れません。
パパも、私の母親が行方不明になったことに対して、少なからず負い目を感じているのは、おじいちゃんとのやり取りから分かりました。
「それでさ……?どうして、未來が……パパとママの養子になる事になったの?未來のお母さん……行方不明だったんじゃないの?!」
「そ……そうだよね?!」
「あれは……未夢が生まれて、半年くらい経った頃だったか……お腹を大きくした蒔來が、何の前触れもなく……家に帰ってきたんだ」
「えっ!?」
その際、おじいちゃんが、何年もどこに居たのか……お腹の子の父親は誰なのかと、私の母親に聞いたようですが、結局……答えなかったそうです。
そして、お姉ちゃんが一歳の誕生日を迎えた年、近所にある産婦人科で……私は生を受けたのです。
「蒔來は……未來を産んだ二日後、入院中だった産婦人科で容体が急変してね……。先生たちの、必死の手当もむなしく……息を引き取ってしまった」
「そ……そんな……」
「悲しすぎるよ……」
「でも、不幸中の幸いか……未夢の物心つく前だったから、未來を……信義と蒔夢の次女として迎えて貰えるよう、僕から……二人に頭を下げたんだ」
私が産まれてきてから、母親が亡くなるまで……たったの二日の間で……どれだけ、二人が……肌を触れ合うことが出来たのでしょうか。
下手をすると、赤ちゃんが産まれた際……その場で、母親に抱かせるというカンガルーケアがあるのですが、その時くらいかもしれないのです。
「蒔夢からすれば……大嫌いな妹である蒔來の娘だからな?『この子の養育費は、僕が払う』くらいまで言わなければ、首を縦には振らなかったよ」
「はああああ!?パパ!!おじいちゃんに、未來の養育費払って貰ってるの?!ママが贅沢放題してるの……本来、未來の為に使うお金なんでしょ?」
いくら繁盛店だからとは言え、洋菓子『マルジョレーン』からの収入しかない、パパのお財布事情では、毎週のように百貨店に行ける程ではないです。
ただし、初代店主であるおじいちゃんに関しては、数多く所有する不動産などの不労所得があるはずで、その為に左うちわの生活を送っております。
まさか、私の養育費をおじいちゃんが……未だに、パパたちに支払っていただなんて……全く知りませんでした。
「ああ……だから、俺は……ママと離婚する。もう、お義父さんには相談済みだ……」
「それで、未夢は……どうするんだ?既に、あのバカ娘については、証拠は押さえてあるからな?」
まさか、お姉ちゃんの居る前で……パパが離婚するという話を切り出すとは、夢にも思いもしませんでした。
しかも、おじいちゃんはお姉ちゃんに対して、パパかママ……どっちにつくかの話まで、する始末です。
「わ、私?!私は……そうだな、未來と……一緒に暮らしたいかな?」
「お……お姉ちゃん!?わ、私……お姉ちゃんの、本当の……」
「ううん?私たち……この年まで、一緒に……姉妹として育ったんだよ?ならもう……親が違ったって、別に……姉妹でよくない?」




