episode -2- [姉の] scene -③-
シンと静まり返った『母屋』の客間の座敷には、緊張した面持ちで、座椅子へと姿勢良く腰掛けている、生徒会役員の皆さんの姿があります。
番町中学の生徒会役員は、会長、副会長が一名ずつで、書記、会計、庶務がそれぞれ三年生一名、二年生一名の二名ずつで、計八名の体勢のようです。
今日はその中から、副会長、三年生の書記一名、二年生の庶務一名が、会長であるお姉ちゃんの家へと訪ねてきたようです。
「ま、まさか……冴彌ちゃんが、庶務だったなんて……」
「あれぇ、アタシ言わなかったっけぇ?」
「き、聞いてない……」
そもそも生徒会役員というものが、そんな少数精鋭とは思っていなかったので、委員会のように大勢いるとばかり、大きな勘違いをしておりました。
「あ、あのお……!!こ、こちらは……?」
「は……はい、私の……おじいちゃんのお家です」
「お、お祖父様は……な、何をされていた方なのでしょうか?!」
普段であれば、お姉ちゃんとは対照的に、凛としている副会長の緋夏先輩の表情が、見たこともないくらい恐れ慄いていて、顔も青白くなっています。
生徒会室などで、お話しされていた際の言葉遣いから、私は緋夏先輩に対し……お嬢様のような印象を抱いていたのですが、違うのかもしれません。
「え、えっと……洋菓子『マルジョレーン』の初代店主が、わ……私たちのおじいちゃんでして……」
「未來ちゃんのお祖父様って、滅茶苦茶凄い人ってことじゃんっ!!」
「ま……『マルジョレーン』のケーキ、ぼ……僕の家族、皆んな大好きなんです!!」
折り入って聞かれない限り、自分からわざわざ教える必要もないですし、それで昔……色々面倒だったので、家のことは言わないようにしてきました。
でも、おじいちゃんやパパの作る洋菓子の事を、熱量を持って『大好き』と言って頂けることは、凄く嬉しいですし……本当にありがたいことです。
「あ、ありがとうございます……。おじいちゃんも、パパも、聞いたら喜ぶと思います……」
まぁ、それはそうと……なのですが、未だ……お姉ちゃんは『母屋』の客間へと、やって来る気配はなく、そろそろ……私の対応にも限界がきてます。
こんな事なら、既に出かけてしまったであろう……パパの買い出しへと、私も……お姉ちゃんを見捨てて、同行してしまえばよかったです。
「未來?いるかな?少し失礼してもいいかい?」
「お、おじいちゃん?!ちょ……ちょっと待っててね?」
「ああ、分かった」
私のおじいちゃんは……昔から、その場の空気が分かるといいますか……勘が鋭いので、きっと……私への助け舟を出しに来たのかもしれません。
とりあえず、私は生徒会の役員でもないですし、ただの陰キャな中二の女子生徒なので……この集まりの中にいるのは、場違いにも程があります。
なので、これは……そんな私が、この場から離れられる絶好のチャンス到来なのです。
「す……すみません。わ……私、おじいちゃんが呼んでますので……?し、失礼します……」
「はぁいっ!!未來ちゃん、いってらぁ!!ってさぁ……そんなお伺いたてなくても良くなぁい?未來ちゃん、役員じゃないしぃ?」
「そ……そうだよね!!さ……冴彌ちゃん、ありがとう……」
─_─_─_─_
おじいちゃんのおかげで、生徒会の一部役員が集う客間から、お姉ちゃんのせいで巻き込まれた部外者の私は、ようやく部屋の外に出られたのです。
客間の外へと出た私を待っていたのは、大量の『ガトーマルジョレーヌ』を、大きな銀製トレイの上に載せた、おじいちゃんの姿だったのです。
その後ろには、コーヒーカップとソーサー、コーヒースプーンを、長方形のステンレス製トレイへ載せたパパも立っていて、私はビックリしました。
そんなこんなで、おじいちゃんとパパから『母屋』へと、先に戻っているよう言われた私は、買い出しに行く為、身支度をし終えたところでした。
何故かというと、お姉ちゃんからのお手伝いの件は、『例え姉妹だろうと、失礼極まりない』とパパがお怒りで、手伝わなくて良くなったからです。
「未來ちゃん、どこ消えちゃった?」──
──「おじいちゃんとパパ、ブチ切れ案件」
「まさか、未夢先輩?」──
──「うん」
お姉ちゃんについては、おじいちゃんかパパに呼び出されたようで、『母屋』と『離れ』を繋ぐ廊下で、私の横を血相変えて駆け抜けて行きました。
きっと今頃は、おじいちゃんご自慢の『ガトーマルジョレーヌ』を、客間にいる生徒会の役員三名に対して、振る舞っているのだと思います。
そんな状況でもなければ、三年の先輩が居る上にあの客間に雰囲気で、冴彌ちゃんからのDMチャットが、私のスマホに届くことはまずないでしょう。
多分、おじいちゃんが『ガトーマルジョレーヌ』を一人ずつサーブしている間に、パパがその場でコーヒーを淹れている……そんな感じでしょうか。
「未來ちゃんの愛しのパパさん」──
「お仕事はバリスタ?」──
──「△」
「え?」──
パパのことについては、冴彌ちゃんには『結ばれたいくらい大好き』とは……教えてありましたが、お仕事までは言えていませんでした。
それに、目の前でコーヒーを淹れるパパの姿を見たら、お仕事はバリスタと思うのが普通です。
──「パティシエが本職!!」
「ええええ」──
──「パパはマルジョレーンの二代目!!」
「愛しのパパさん、伊達じゃないね!!」──
──「当然です!!」
「あれ?」──
──「なに?」
「お祖父様と似てないよね?」──
パパが洋菓子『マルジョレーン』の二代目だと、あまり教えたくなかったのは……おじいちゃんとは義親子の関係なので、似ていなくて当然です。
それを説明するには、パパが婿養子であるのだと……冴彌ちゃんに、教えなければなりません。
あまり他人の家族の内情など、冴彌ちゃんも知りたくないでしょうし、教えたことで下手に恐縮させてしまうのも、私は嫌だったのです。
──「冴彌ちゃんのご想像にお任せします」
「おお」──
「家庭の事情ってやつね」──
──「それそれ」
「ガトーマルジョレーヌ」──
「美味しすぎ!!」──
「ヤバくない?」──
──「当店の自慢の逸品ですから」
──「それより」
──「余韻があるうちにコーヒー飲んでみて?」
ちなみに、私のオススメは『ガトーマルジョレーヌ』が口の中に残っている時に、ブラックのコーヒーを飲むのが最高なのですが、強制はしないです。
なので、冴彌ちゃんへのDMチャットには、『余韻があるうちに』と、とどめておきました。
─_─_─_─_
「なぁ……未來?」
「なぁに?パパ」
「川崎くんって、未來は……知り合いなのか?」
「えっ?お姉ちゃんの知り合い……と言うか、生徒会の役員の三年生だよ?」
9時をまわってしまいましたが、パパの運転する車で、私たちは材料の買い出しに出かけております。
ママが居ない時だけは、私も助手席に座れるので……勿論、今日はパパの隣を独占中なので、凄く幸せです。
それなのに、パパは……今日顔を合わせたばかりの、三年生で生徒会書記の川崎麗央先輩との関係を、ちょっと怖い顔で……私に聞いてきたのです。
「そうか……。未來のこと、詳しそうな口ぶりだったからな?」
「お姉ちゃんが、友達がいない私のこと気遣って、生徒会の役員の皆さんに、私のこと紹介してるみたいなんだよね……」
「あぁ、それでか……。全く……未夢のやつ、余計なことしかしてくれないな……」
「私は……ね?パパさえいれば、何もいらないんだけど……ね?」
「未來、あの……さ?」




