episode -2- [姉の] scene -②-
「おっ!?昭和美人さんのお出ましだぞぉ?」
「も、もう!!おじいちゃん……!!」
「悪りぃ悪りぃ!!おはよう、未來。で、朝早くに、どうしたんだい?」
そう、実は我が家の『母屋』では、母方の祖父が一人で暮らしているのです。
『何故、母方の祖父が?』と、お思いになられるかもしれませんが、洋菓子『マルジョレーン』の初代店主こそ、伊東真介こと、おじいちゃんです。
周囲にフランス菓子を扱う、洋菓子店は珍しかったようで、現在でもお店は繁盛しているのですが、女児しか居なかった為、後継ぎ問題がありました。
「おじいちゃん、客間借りてもいいかな?」
「おぉ?誰か、お客さんでも来るのかい?」
「お姉ちゃんが、生徒会の役員の皆さんを、家にお招きしたみたいで……」
そんな折に、祖母が心臓の病気で急逝したこともあり、後継ぎを真剣に考えたおじいちゃんは、長女のママにお婿さんを迎えることに決めたのです。
それから間もなくして、伊東家の近所に住み、ママと幼馴染だったパパが、婿入りしたことで、今の私の家族は形成されました。
「そうかそうかぁ!!未來は、お姉ちゃんのことなのに、代わりに出来て偉いなぁ!!」
「お、おじいちゃん……」
廊下の仕切り扉の向こうにいたおじいちゃんが、突然近づいてきて、私を抱きしめてきたかと思えば、優しく頭を撫でてくれたのです。
「本当に……未來は、かあさんに似て心優しい子だなぁ……?あの、バカ娘に……未來の爪の垢でも、煎じて飲ませたいくらいだ……」
『あの、バカ娘』とは……おじいちゃんの娘で長女にして、私たちのママのことだと思います。
お店の運営にはノータッチな上に、家事もろくにせず……出掛けてはお金を使ってばかりで、パパを婿養子に迎えたおじいちゃんは、頭が痛いのです。
そのため、二代目であるパパに、お店を完全に任せる計画が狂い、現在はおじいちゃんが店舗側のお手伝いをする体制で、運営をしているのでした。
「それじゃあ、私……玄関の方へと周るから、おじいちゃん……開けてもらえるかな?」
「ん?もしかして……皆さん、外でお待ち頂いてる感じなのかい?」
本来のおじいちゃんの想定では、パパがパティシエとしてお菓子作りに専念し、ママが店舗に立っている筈でしたが、それは夢のまた夢の話です。
まぁ、私がバイトの出来る歳になったら、大好きなパパのそばに居たいので、店舗に立って……少しでも役に立てればと思っています。
「う、うん……。皆さんの来る時間覚えてない、お姉ちゃんが悪いんだけどね……」
「本当……悪いところばかり、未夢は似たもんだな……?それに比べて、未來ときたら……どんなもんだい!!僕の自慢の孫だ!!」
「ええええ……。お、おじいちゃん……恥ずかしいから……。じゃ……じゃあ、ご案内してくるね!!」
いつもこんな調子のおじいちゃんですが、ママのことになると一気に表情が険しくなり、褒めたとこなど一度も見たことありません。
ママに似ているお姉ちゃんについては、孫なので可愛がっているように見えますが、問題行動が散見されるたび、おじいちゃんは残念がっております。
─_─_─_─_
『離れ』に戻り始めた私は、『母屋』から繋がる廊下を歩きながら、ジャージのズボンのポケットからスマホを取り出しました。
すると、私のスマホの画面には、インスカからの新着通知が、表示されていたのです。
「どこから入れば良い?」──
それは、冴彌ちゃんからのDMチャットだったのですが、内容から判断するに……お姉ちゃんはまだ、玄関の外には出ていない様子でした。
──「お姉ちゃん、いる?」
「いなーい」──
──「そっかー!!」
「うむ!!」──
──「今、行くから待ってて!!」
「はーい」──
全く……お姉ちゃんは、どこで何をしているのやら……私が、おじいちゃんと話をつけてる時間だって、少なくとも数分以上あった筈です。
流石の私でも、今日のお姉ちゃんの立ち回りについては、かなり幻滅しました。
『母屋』の客間を使うのであれば、『離れ』については何も手をつける必要がないので、お姉ちゃんは身支度だけすれば済む話なのです。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません!!」
『離れ』のお勝手口から出て、店舗の入口などがある表へ回り込んだ私は、お姉ちゃん待ち状態の生徒会の皆さんに向かって、深々と頭を下げました。
「あ、あの……会長は、いらっしゃられないのでしょうか……?」
「わ……私は、伊東未夢の妹で、番町中二年の伊東未來と申します……」
私の精一杯の誠意に対しての第一声は、副会長などではなくて、明らかに……私と同じ匂いのする、陰キャそうな男子の口から発せられたのです。
ただ、副会長がいる状況で、真っ先に発言出来たという事は、生徒会内でもある程度のポジションでないと難しいと思います。
「ああ!!会長から、み……未來さんのお話は予々、伺っております!!」
「あ……姉より、皆さまをご案内するように、申しつかっておりまして……」
どういう事なのか、私がお姉ちゃんの妹であると、名乗ったところ……掌を返したように、陰キャそうな男子の態度が、コロっと軟化したのです。
「ぼ、僕は……生徒会では書記の三年、川崎麗零と言います!!」
「あ……えっと……」
急に、川崎先輩が自己紹介してきた事で、陰キャな私は……どう返事して良いのか判断に困ってしまい、言葉が詰まったのです。
それに、一般的に生徒会で書記といえば、会長を筆頭に、副会長の次あたりの地位にいる役職の筈なのに、陰キャが務めていて更に動揺も隠せません。
「こらぁ!!麗零先輩っ!!なぁに自分だけぇ、未來ちゃんに自己紹介しちゃってんですかぁ!!」
「だ、だって……会長とは、全然違うし……ぼ、僕も『黄金の風』好きだから……!!」
「!?」
『黄金の風』は、初回放送から結構経っており、更にジョースター家因縁の相手、『DIO』の息子が主人公の為、賛否両論あるのです。
でも、まさか同世代で好きな生徒が……お姉ちゃんの身近に居たなんて、私にとっては運命的な出会いとしか、思えませんでした。
「僕は……『アバッキオ』推しなんだ。た……確か、未來さんは……」
「『スティッキィ・フィンガーズ!!』」
川崎先輩の言葉に頷いた私は、半分開いていたジャージの上のファスナーを掴み、我が愛しの推し『ブチャラティ』様のスタンドの名を叫んだのです。
朝の住宅街に、私の声とファスナーが一番上まで上がる音が、地味に響きました。
それにしても、お姉ちゃんは一体どの辺りまで……私の個人情報を、生徒会の役員の皆さまに流出させているのか、怖くて堪らなくなりました。
「ちょっと、ちょっとぉ!!麗零先輩っ!!未來ちゃんにぃ、何やらせてるんですかぁ!!」
「い……いや、ぼ……僕は『ブチャラティ』って、み……未來さんに、確認しようとしただけで……」
「『スティッキィ・フィンガーズ!!』」
別に、川崎先輩は悪くないので、私はもう一度スタンドの名を叫ぶと、ファスナーを先程の半分開けていた位置の辺りまで、勢いよく下ろしました。
推しに関する事であれば、例え人前であろうとも、私は恥ずかしげもなくやってしまう為、それがクラス内で浮く原因であるとは、自覚してます。
でも、それが私なので……無理に、自分を殺してまで……他人の目を気にして生きるのも嫌なので、理解してくれる人が一人でも居れば、良いのです。
「『ムーディー・ブルース!!』」




