episode -2- [姉の] scene -①-
斎藤冴彌ちゃんとお友達になって、生徒会室を初めて訪れたあの日から、数日が経った今日は土曜日なので、基本的に市立の中学校はお休みです。
ところが、昨夜のことになりますが、お姉ちゃんは生徒会で遅くなり、部活に寄ってきた私よりも、かなり後に帰ってきました。
そして、私の部屋に入ってくるなり、『明日、生徒会の一部メンバー家に来るから、協力お願い!!』と、お姉ちゃんが頭を下げてきたのです。
現在、私の唯一の友達である、冴彌ちゃんも呼んであるみたいなので、飲み物などを出すお手伝いをしない訳には、いかない状況にされておりました。
なので、いつも通りに部屋着のままで、ベッドの上でゴロゴロしてはいられず、とりあえず中学のジャージに着替えるくらいはしております。
何時ごろ、我が家に来るかまでは、お姉ちゃんから聞いてなかったので、ちょうど冴彌ちゃんにインスカのDMチャットで、質問してみたところです。
インスカとはInstantCalleeという、純国産のSNSの略称で、投稿の他にフォロワー同士で、チャットや各種通話も可能です。
冴彌ちゃんとは、生徒会室を訪ねた帰り道、インスカで友人登録が可能な『友コード』を見せられ、その場で私のスマホから登録した経緯があります。
それからというもの、昼夜問わず冴彌ちゃんから、私宛にDMチャットが来続けております。
同じクラスで、席も隣同士だというのに、DMチャットでやり取りする時間の方が、実際に会話するよりも長いかも知れません。
ただ、今日のことについては、冴彌ちゃんも話題に出してきていなかったので、お姉ちゃんのサプライズかと思って、昨夜私からは聞きませんでした。
「あれ?」──
「未來ちゃん、聞いてない?」──
──「え?」
「そろそろ着くよ?」──
「ええええええええ!?」
朝6:00前に起きるのは、いつものことなのですが、土日は特に予定もないので、部屋着で一日過ごすことが殆どでした。
なので、中学のジャージ姿とはいえ、最低限の身支度を済ませておいて、今日は正解のようです。
『未來ちゃん、聞いてない?』と言うことは、私がお姉ちゃんのサポートするのは、生徒会の皆さんには既定路線だと言うことです。
「未來、どうしたの?!」
急に私の部屋のドアが開いて、慌てた様子のお姉ちゃんが飛び込んできました。
いやいや、お姉ちゃんが……私にちゃんと説明していないのが原因で、この状況なのです。
「な、なんで……!!お姉ちゃん……今日の時間、教えてくれなかったの?!」
「え?もう、そんな時間なの!?」
「え!?」
「え?!」
何でも、完璧に熟しているように見えるお姉ちゃんですが、実は……結構、抜けているのです。
家の中で、お姉ちゃんをフォローしているのは、何を隠そう……この私なのです。
ただ、学校内のことについては……私も、お姉ちゃんの立場というものを配慮して、ノータッチを貫いてきているので、状況がよく分かりません。
今の状況から見ると、恐らく……我が家に訪問する時間を生徒会の皆さんで決め、お姉ちゃんに伝えて了承を得ている筈なのに、覚えてないようです。
「お、お姉ちゃん?」
「な、なによ?」
「冴彌ちゃんが、『そろそろ着くよ?』って……」
「ええええええええ!?」
はぁ……これから来客があるというのに、いつもの休日のお姉ちゃんモード全開です。
これは、私的に言ってしまうと、本当に……先が思いやられる事態です。
考えたくないですが、番町中学では生徒会長というポジション故、まさか……お姉ちゃん、生徒会内で……『はだかの王様』状態の疑惑が急浮上です。
「もう、いいから!!早く!!お姉ちゃん、着替えて!!」
「うん……」
自分への期待の厚いママの前では、何とか……お姉ちゃんも、取り繕って見せておりますが、二人だけの時は、万事こんな様子で私に頼りっきりです。
平日は私の部屋に来た時くらいですが、土日祝日についてはママが家に居ないので、まるでお姉ちゃんが妹のようになって、立場が逆転しています。
──「あとどれくらい?」
「緋夏先輩曰く、もう少しだって」
──「はーい」
まぁ……お察しの通りでして、ママは今朝『代官山に行く』とパパに言うと、朝6:10を過ぎた頃には、慌しく玄関を出て行く音が聞こえました。
誰にアピールしているかは不明ですが、ママは騒がしく支度を始めるので、休日なので皆んなゆっくり寝ていたいのに、起こされてしまうのです。
それもママが出かけるまでの辛抱で、一度玄関を出てしまえば……夜中か、翌朝までは帰ってこないので、パパを独占したい私にとっては好都合です。
「お姉ちゃん!!もう着くって!!」
「うわああああああああ!!」
「お姉ちゃん!!落ち着いて!!」
ただ、土曜限定にはなるのですが、朝8:30頃になると、私の大好きなパパは……食材などの買い出しに出掛けてしまうのです。
言ってはませんでしたが、パパは飲食可能な洋菓子店を営んでいて、お店的には二代目となります。
その洋菓子などに使う卵を、養鶏場さん直営のお店と定期契約しているので、毎週土曜になるとパパ自ら取りに行くのです。
その道すがら、ケーキの材料の納入業者さんでは取り扱いのない、地場の名産の果物などを産直市場へとパパは出向いて、仕入れているのです。
どうしても、パパ一人では限界があるので、私が同行してお手伝いをしているわけです。
「は?」──
──「ん?」
「|marjolainne!!」──
──「そうだよ?」
ですが、私は今日……お姉ちゃんのサポートをしなければならず、パパの買い出しのお手伝いをすることは……こんな状況なので無理そうです。
冴彌ちゃんから、DMチャットが来てしまったので、店名がバレましたが『マルジョレーン』という、フランスの洋菓子名が由来の造語になります。
初代が『ガトーマルジョレーヌ』という、製造工程が非常に面倒なフランス菓子を、得意としていたことが由来だそうです。
「未來ちゃんのパパさんって?」──
──「パティシエみたいな感じかな?」
──「着いたんだ?」
「うん」──
それは、お店の前に……お姉ちゃんに招かれた一部の生徒会の皆さんが、もう……集まっているということを意味していました。
肝心の……今日、主役な筈のお姉ちゃんは、何をしているのでしょうか。
隣の部屋で、ドタバタしている音まだ聞こえてくるので、着替えなどの支度が済んでいないことは、見なくても私には分かります。
「お姉ちゃん!!お店の前に着いたって!!」
「いやああああああああ!!」
「はい!!未夢!!落ち着け!!」
こんなお姉ちゃんが、静岡市立番町中学校の生徒会長が務まっているのが、本当に不思議なくらいです。
しかも、部活の吹奏楽部では副部長な上、フルートの主旋律を、大会などでは悠然と吹いているのです。
パパも私も、お姉ちゃんの抜けている姿を見続けているので、まるで別人のように振る舞えていることが、『奇跡ってあるんだね』との共通認識です。
「お待たせするのも悪いし、『母屋』の方に案内しておくからね?」
「ダメなお姉ちゃんで、本当にごめん……」
「はい、気にしない、気にしない」
我が家には、洋菓子『マルジョレーン』の店舗の他、『母屋』と『離れ』があって、実は……私たちが生活しているのは『離れ』になります。
『離れ』から『母屋』に行く為には、廊下を渡っていくのですが、私だけで入る機会は殆どないので、お姉ちゃんに言っておいて内心ドキドキです。
「お、おはようございます!!」




