episode -1- [私の] scene -③-
「ほらぁ、未來ちゃん行くよぉ?」
「え……う、うん……」
「いざ、参らんっ!!」
二年生になり、出席番号順の席並び故、本当に数えられる程度……言葉を交わしただけの、隣の席の齋藤冴彌ちゃんが、私の相手をしてくれています。
どこからどう見ても、陽キャなギャル風な冴彌ちゃんは、背は絶対にお姉ちゃん以上あって高くて、可愛い系ではない格好いい系の美人さんです。
私への距離間について、冴彌ちゃんの幼馴染の山本さんですらビックリしていて、こんな急激に詰めてきたケースは、なかなかないとのことでした。
「と言うか……ですね?ど……どちらまで?」
「そんなの、生徒会室に決まってるだろぉ?」
「わ、私……や、役員じゃないですから!!」
生徒会なんていうものは、私には無縁すぎているので、ましてや生徒会室なんて場所など、入ったこともなければ、どこにあるのかも知りません。
まぁ、一年の時に校内の案内を受けた筈なので、厳密にいえば場所は聞いたと思うので、それは大袈裟すぎかもしれませんが、私の記憶にはないです。
基本、お姉ちゃんとは……中学校内では個人的な用事ですら、私の方が気を遣ってしまい……こちらから顔を合わせに行くことは、ほぼありません。
それは、妹なのにも関わらず、性格ですらも似ていない私が、お姉ちゃんの周りをウロチョロしても、迷惑をかけるだけだと思っているからです。
「いっつもさぁ?未夢先輩、アタシらに未來ちゃんのこと、話してくれてんだよぉ?」
「ええええ?!もう!!お姉ちゃん!!」
「で、よく未夢先輩が語ってくれる、未來ちゃんのイメージとさ、クラスに居る実物があまりにも違いすぎててねぇ?」
「あはは……お姉ちゃん、皆さんに何を吹き込んでくれてるの……」
「だからさぁ?アタシ、今日まで……面と向かって、未來ちゃんに声掛けるの躊躇ってたんだよぉ」
どうして、お姉ちゃんは……生徒会の役員の皆さんに、妹である私のことを話しているのか、不思議で仕方なかったです。
まぁ、私的には家も中に居る時と変わらず、クラスの中でも普段通り振る舞っているので、お姉ちゃんの語っている内容も、間違ってはいない筈です。
ただ、美人なママ似で陽キャなお姉ちゃんが語るので、その基準で先入観をもって私のことを見ると、話の内容とのギャップが生じるのでしょう。
「お姉ちゃんのせいで……期待させてしまったなら、ごめんなさい……」
「ううんっ?アタシは、だけどさぁ?逆にぃ……これで良かったかなぁって、思ってるんだよねぇ!!」
「へ……?」
「未來ちゃんは、未來ちゃんらしくで良いってこと!!」
クラスから冴彌ちゃんに手を握られ、生徒会室のある一階までやってきたのですが、私は他のクラスメイトとは違う、彼女の言葉に胸を打たれました。
一年の頃からそうでしたが、大体のクラスメイトたちは、私をお姉ちゃんと比較することで、個性を異端と捉えて、浮いた存在として追いやりました。
ただ、私は……『ブチャラティ』様推しのアニオタで、パパのことが大好きで……情報技術部に所属しているだけの、物静かな……中二女子なのです。
それを理解してもらおうなんて、私は思ってはいないので、それも悪いのかもしれませんが、自分を信条を曲げてまで、生きてたくはありません。
だから、冴彌ちゃんから掛けられた言葉は、私にとって凄く嬉しかったのです。
「あ、ありがとう!!そんなこと……言われた事なかったから……嬉しいです!!」
「マジでかぁ?!アタシならさぁ?何遍だって、未來ちゃんに言ってあげるぜぃ!!」
そう言いながら、私の手をギュッと握ってきた冴彌ちゃんは、更にウインクまでしてきました。
よくパパは、私に向かってウインクしてきたりしますが、同性からされたことはなかったので、何だか青春アニメの一コマみたいで、新鮮でした。
普段、家の中で私の話し相手と言うと、お姉ちゃんかパパなので、こんなにも学校内で家族以外と話したことは、直近では覚えがないくらいです。
小学校時代、私と仲の良かった友達は、静岡茉莉花女学院という、地元では有名な中高一貫のお嬢様学校へと、行ってしまいました。
出来ることなら、私も行きたかったのですが、『未來は、茉女には行かせないから』とママに言われてしまい、その夢を絶たれたのです。
でも、ママはお姉ちゃんについては、自らの母校である茉莉花女学院へと、進学させたかったみたいでしたが、本人はそれを望まずに現在に至ります。
そんなわけで、ただでさえ友達の少なかった私は、市立番町中学校へと進学したことで、孤立を強める結果となって、今日までこの状態できました。
─_─_─_─_
「こちらがぁ、未夢先輩の妹さんのぉ……」
「い、伊東未來です……!!」
生徒会室の中で、他の役員の方たちに、冴彌ちゃんが紹介してくれようとしていたのに、完全にテンパってしまった私は、自ら名乗ってしまいました。
そもそも、生徒会室の前まで来た際、私が日和って『やっぱり今日はやめておきます』と言って、冴彌ちゃんと押し問答となった結果が……これです。
「初めまして!!生徒会の役員室へようこそ!!」
「は、初めまして……!!き、今日は……お姉ちゃんは……?」
「あれ?会長なら『用事がある』って言って、お帰りになられましたよ?」
同じ学校に通う姉妹が、お互いの情報を共有出来ていないことは、別に珍しいことではないと私は思ってたのですが、一般的にはどうなのでしょうか。
学校内では、可能な限りお姉ちゃんへの干渉を避けて、迷惑をかけないようにしている私にとって、動向を知らない方が都合が良かったのです。
でも、目の前にいる三年の生徒会役員の先輩は、不思議そうな表情をしながら、私に向かってお姉ちゃんの動向について、教えてくれたのです。
「未來ちゃん、惜しかったねぇ?入れ違いになっちゃったみたいだねぇ?」
「う、うん……」
「冴彌さん、会長の妹さんと仲良かったの?」
「はいっ!!でも、二年になってからですっ!!」
「あら、そうなの?!これで、ようやく会長も一安心なんじゃないかしら……」
お姉ちゃんが、私の事について……どんな内容を生徒会の役員内で、語っていたのか……怖くて聞けないですが、心配してくれていたのは察せました。
先程の通り、仲の良い友達は私立中学へ行ってしまい、それ以来私の家に同年代の子が遊びに来なくなったので、お姉ちゃんは心配だったのでしょう。
なので、お姉ちゃんのことなので……『私の妹と仲良くしてあげて欲しい』などと、生徒会の役員の生徒たちへ言っていても、おかしくはありません。
「あぁ、そうだっ!!未來ちゃん?こちらは、三年生で……」
「わたくし、生徒副会長を務めさせて頂いております、田村緋夏と申します。宜しくお願いします。」
「ふ、副会長さんですか!?」
「はい!!それに、会長から……未來さんのことは、色々とお話……伺っておりますよ?」
私についての話を、どこまで生徒会役員の皆さんに、お姉ちゃんがしているのか……今夜でも、問いたださなければいけないと、思います。
「そ……そうなのですね……」
「まぁ、無視されるよりは良くないかなぁ?」
「う、うん……」
「という感じなんでぇ、未來ちゃんはいつでも来ていいからさぁ?」
「ええええ!?」
「未來さんは、わたくしたちのことをご存知ないかも知れませんけれど、こちらからしてみれば……そうですね、可愛い妹みたいな存在でしょうか?」
こうして、中一では友達が出来なかった私が、中二の一学期始まって間も無く、ひょんなキッカケで一人友達が出来たことで、光明が差し始めました。
それもこれも、生徒会長のお姉ちゃんが、役員の皆さんに対する、根回しの賜物とも言えますが、体現した冴彌ちゃんの気持ちに、私は応えたいです。




