episode -1- scene -②-
伊東未夢とは、市立番町中学校の三年生で、三月から生徒会長を務めている……私とは正反対で、陽キャな性格のお姉ちゃんです。
何となく察しがつくと思いますが、大きすぎなお姉ちゃんの陰で、妹である私は……存在自体スッポリと覆い隠されてしまって、少しも目立ちません。
それに、何故か……お姉ちゃんだけは、幼い頃からママからの期待が厚く、デパートへのお買い物に連れて行ってもらえる程、可愛がられてきました。
でも、妹の私については、ママからの扱いがぞんざいで……デパートへのお買い物に連れて行ってもらった記憶など、ありません。
だから……日曜日に私がパパを独占し、居間でアニメなどを一緒に鑑賞出来たのは、ママがお姉ちゃんだけを、デパートに連れて行っていたからです。
まぁ……おかげで、推しとの運命の出会いが出来て、パパとは絆が深まって……未だ、一緒にお風呂に入る程、仲良しな父娘の関係を築けたのですが。
そういった歪な家族事情があるので、学校内……まして、自分のクラス内で……まず、お姉ちゃんの名前を出されるのは、いい気分がしないのです。
ただ、別に……お姉ちゃんとの仲は悪くはなく、少し前までは……『パパのことが大好き』という、共通点を持っていた、仲良し姉妹ではありました。
でも、私は伊東未來であって……伊東未夢ではありません。
別の……意志を持った、一人の人間なのです。
なので、人気者なお姉ちゃんへのご機嫌取りを、本人にではなく、妹の私にされても……何も嬉しくないですし、はっきり言って迷惑です。
なんか、これでは……私がただ、皮肉屋の嫌な女にしか見えないので……もう少し、お姉ちゃんとの違いについて、語ってみようかなと思います。
まず、お姉ちゃんの所属する部活動は……運動部みたいな文化部と言える、吹奏楽部で……フルートのファーストを担当していて、しかも副部長です。
全国で行われている、吹奏楽コンクールの県内中学生の部で、『ダメ金』でない方の金賞が獲れる強豪校で、毎回会場まで家族で応援に行く程です。
そんな輝いているお姉ちゃんとは違い、私の所属する部活動は……情報技術部という、パソコン室を部室に使っている、陰キャの巣窟の文化部です。
しかも、活動方針が非常に曖昧で……IT(情報技術)を使っていれば、何をしてもOKなので、私は部活の時間中は、WEB小説を書いています。
そして、恐らく……皆さんが一番気になっているのは、お姉ちゃんの容姿についてだと思います。
まぁ……お姉ちゃんは、背こそ165cm程なのですが、顔立ちからスタイルまで……美人なママ似で、中三とは思えぬ恵まれた容貌をしてます。
ついで程度に……私は、背が155cm程、顔立ちはパパにもママにも似ておらず、母方の祖母の若い頃に似ているそうで、色白で細身が取り柄です。
でも……パパや母方の祖父だけは、私に『未來は昭和美人』と言って、チヤホヤしてくれています。
できれば、私も……お姉ちゃんみたいに、ママに似た容姿に生まれたかったです。
成長していくにつれ、私が陰キャになっていったのは、ママやお姉ちゃんとの明白な容姿の差による……ある種のコンプレックスだと思います。
もし……私がママ似で生まれていれば、お姉ちゃんみたいに……デパートへ連れて行ってもらえ、もっと……愛で溢れていたのではと、よく考えます。
なので、今の私では……いくらどう足掻いたとしても、お姉ちゃんのいる場所は、一番縁遠いものにしか思えないのです。
そう考えれば考えるほど、私の中で渦巻いている闇は……深く、深く拡がっていくのです。
「さ、齋藤さん……?私のお姉ちゃんと……お知り合い……?」
「アタシさぁ?こう見えてぇ、生徒会の役員だしねぇ?」
「ええええ……?!あ……!?」
「いやぁ、分かるっ!!意外でしょぉ?」
お姉ちゃんのことを……『未夢先輩』って呼ぶので、吹奏楽部の後輩かと一瞬、私の頭をよぎりましたが、見覚えが確かにありませんでした。
でも……まさか、生徒会の役員だとは思いもしない、ギャル系で陽キャな容姿の女子で、私は思わず本音が出て、驚きの声をあげてしまったのです。
「は、はい……」
「アタシらさぁ?席ぃ、隣だしぃ?仲良くしようよぉ?」
「あ……はい……」
本当ならば、ここで……ビシッっと断りたかったのですが、長い間……陰キャ生活をおくってきた私が、断る程の勇気など持ち合わせておりません。
ただ……齋藤さんは、生徒会の役員だと名乗っている以上、生徒会長であるお姉ちゃんの部下ということで、特に私に害は無いだろうと判断しました。
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「それでさぁ?」
「は、はい……」
てっきり私は、生徒会長のお姉ちゃんの手前で、社交辞令的な『仲良くしよう』だとばかり思っていたのですが、齋藤さん的には違ったようです。
あの後も、私の席を不法占拠していた、齋藤さんとは同じ小学校だった『山本さん』を紹介され、二人の会話の中へと、混ぜられてしまったのです。
その後も、これまで私が席に居る時は、休み時間になると齋藤さんは、殆ど離席していたのですが、自席から離れずこちらに話しかけてきたのです。
「伊東さんってさぁ?未夢先輩とは似てないよねぇ?」
「はい……よく言われます……」
「どちらかと言えばさぁ?アタシはぁ、伊東さんの方がいいなぁ!!」
『ああ……また、いつもの流れだ……』と思って、齋藤さんの話を聞いていたのですが、今日は違いました。
「ええええ?!」
「えぇ!?何びっくりしちゃってるのぉ?!」
「だ、だって……お姉ちゃんの方が……」
「はぁいっ!!それ以上言うのやめぇ!!」
十人に聞けば、恐らく全員が……『未夢ちゃんの方がいい』と言うのは、経験上分かっていたつもりでした。
まぁ、パパや母方の祖父だけは……私のことを『昭和美人』と呼んでくれてはおりますが、容貌に関しては……身内の意見ほど信用できません。
それなのに、齋藤さんは……美人なママ似のお姉ちゃんよりも、私のことがいいと言ってくれたのです。
しかも、お姉ちゃんは生徒会長なので、生徒会役員の齋藤さんにとっては、上司の筈で……忖度してなんぼの世界なのに、意味が分かりませんでした。
「アタシはさぁ?伊東さんのほうがぁ、未夢先輩よりもいいと思ったっ!!嘘ついてもしかたないっしょ?」
「あ……はい……」
「あっ!?そうだぁ!!未來ちゃんってぇ、呼んでいいかなぁ?」
陰キャに堕ち始めてから、浮いた存在になっている私は、数少ない親友たち以外からは、苗字でしか呼ばれたことはありませんでした。
「え?!あ、はい……」
「じゃあさぁ?未來ちゃんはぁ、アタシのことぉ……冴彌って呼んでぇ?」
「はい……さ、冴彌……さん……」
「はいっ!!ってかぁ、冴彌で良いからさぁ?」
そう言いながら、齋藤さん……もとい、冴彌……さんは、突然私の手をギュッと握ってきたのです。
そんな冴彌さんの手は……同い年とは思えぬほど、家の中では何もしていない私とは違い、働き者のような……手荒れをしてガサガサしていました。
見た目こそギャル風な冴彌さんですが、きっとご家庭の事情か何かで……家事などをしながらも、生徒会役員をこなしているのだと、感じました。
「さ、冴彌?」
「うんうんっ!!にしてもぉ、未來ちゃんはさぁ?可愛いんだからぁ、自信持ちなぁ?」
冴彌さんは嬉しそうな表情で、私の手を更に……握りしめながら、確かに……そう言ってきたのです。




