表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

episode -1- scene -②-

 伊東未夢とは、市立番町中学校の三年生で、三月から生徒会長を務めている……私とは正反対で、陽キャな性格のお姉ちゃんです。

 何となく察しがつくと思いますが、大きすぎなお姉ちゃんの陰で、妹である私は……存在自体スッポリと覆い隠されてしまって、少しも目立ちません。


 それに、何故か……お姉ちゃんだけは、幼い頃からママからの期待が厚く、デパートへのお買い物に連れて行ってもらえる程、可愛がられてきました。

 でも、妹の私については、ママからの扱いがぞんざいで……デパートへのお買い物に連れて行ってもらった記憶など、ありません。

 だから……日曜日に私がパパを独占し、居間でアニメなどを一緒に鑑賞出来たのは、ママがお姉ちゃんだけを、デパートに連れて行っていたからです。


 まぁ……おかげで、推しとの運命の出会いが出来て、パパとは絆が深まって……未だ、一緒にお風呂に入る程、仲良しな父娘の関係を築けたのですが。


 そういった歪な家族事情があるので、学校内……まして、自分のクラス内で……まず、お姉ちゃんの名前を出されるのは、いい気分がしないのです。

 ただ、別に……お姉ちゃんとの仲は悪くはなく、少し前までは……『パパのことが大好き』という、共通点を持っていた、仲良し姉妹ではありました。

 でも、私は伊東未來であって……伊東未夢ではありません。

 別の……意志を持った、一人の人間なのです。


 なので、人気者なお姉ちゃんへのご機嫌取りを、本人にではなく、妹の私にされても……何も嬉しくないですし、はっきり言って迷惑です。


 なんか、これでは……私がただ、皮肉屋の嫌な女にしか見えないので……もう少し、お姉ちゃんとの違いについて、語ってみようかなと思います。


 まず、お姉ちゃんの所属する部活動は……運動部みたいな文化部と言える、吹奏楽部で……フルートのファーストを担当していて、しかも副部長です。

 全国で行われている、吹奏楽コンクールの県内中学生の部で、『ダメ金』でない方の金賞が獲れる強豪校で、毎回会場まで家族で応援に行く程です。


 そんな輝いているお姉ちゃんとは違い、私の所属する部活動は……情報技術部という、パソコン室を部室に使っている、陰キャの巣窟の文化部です。

 しかも、活動方針が非常に曖昧で……IT(情報技術)を使っていれば、何をしてもOKなので、私は部活の時間中は、WEB小説を書いています。


 そして、恐らく……皆さんが一番気になっているのは、お姉ちゃんの容姿についてだと思います。

 まぁ……お姉ちゃんは、背こそ165cm程なのですが、顔立ちからスタイルまで……美人なママ似で、中三とは思えぬ恵まれた容貌をしてます。


 ついで程度に……私は、背が155cm程、顔立ちはパパにもママにも似ておらず、母方の祖母の若い頃に似ているそうで、色白で細身が取り柄です。

 でも……パパや母方の祖父だけは、私に『未來は昭和美人』と言って、チヤホヤしてくれています。

 できれば、私も……お姉ちゃんみたいに、ママに似た容姿に生まれたかったです。


 成長していくにつれ、私が陰キャになっていったのは、ママやお姉ちゃんとの明白な容姿の差による……ある種のコンプレックスだと思います。

 もし……私がママ似で生まれていれば、お姉ちゃんみたいに……デパートへ連れて行ってもらえ、もっと……愛で溢れていたのではと、よく考えます。

 なので、今の私では……いくらどう足掻いたとしても、お姉ちゃんのいる場所は、一番縁遠いものにしか思えないのです。

 そう考えれば考えるほど、私の中で渦巻いている闇は……深く、深く拡がっていくのです。


 「さ、齋藤さん……?私のお姉ちゃんと……お知り合い……?」

 「アタシさぁ?こう見えてぇ、生徒会の役員だしねぇ?」

 「ええええ……?!あ……!?」

 「いやぁ、分かるっ!!意外でしょぉ?」


 お姉ちゃんのことを……『未夢先輩』って呼ぶので、吹奏楽部の後輩かと一瞬、私の頭をよぎりましたが、見覚えが確かにありませんでした。

 でも……まさか、生徒会の役員だとは思いもしない、ギャル系で陽キャな容姿の女子で、私は思わず本音が出て、驚きの声をあげてしまったのです。


 「は、はい……」

 「アタシらさぁ?席ぃ、隣だしぃ?仲良くしようよぉ?」

 「あ……はい……」


 本当ならば、ここで……ビシッっと断りたかったのですが、長い間……陰キャ生活をおくってきた私が、断る程の勇気など持ち合わせておりません。

 ただ……齋藤さんは、生徒会の役員だと名乗っている以上、生徒会長であるお姉ちゃんの部下ということで、特に私に害は無いだろうと判断しました。


─_─_─_─_


 「それでさぁ?」

 「は、はい……」


 てっきり私は、生徒会長のお姉ちゃんの手前で、社交辞令的な『仲良くしよう』だとばかり思っていたのですが、齋藤さん的には違ったようです。

 あの後も、私の席を不法占拠していた、齋藤さんとは同じ小学校だった『山本さん』を紹介され、二人の会話の中へと、混ぜられてしまったのです。

 その後も、これまで私が席に居る時は、休み時間になると齋藤さんは、殆ど離席していたのですが、自席から離れずこちらに話しかけてきたのです。


 「伊東さんってさぁ?未夢先輩とは似てないよねぇ?」

 「はい……よく言われます……」

 「どちらかと言えばさぁ?アタシはぁ、伊東さんの方がいいなぁ!!」


 『ああ……また、いつもの流れだ……』と思って、齋藤さんの話を聞いていたのですが、今日は違いました。


 「ええええ?!」

 「えぇ!?何びっくりしちゃってるのぉ?!」

 「だ、だって……お姉ちゃんの方が……」

 「はぁいっ!!それ以上言うのやめぇ!!」


 十人に聞けば、恐らく全員が……『未夢ちゃんの方がいい』と言うのは、経験上分かっていたつもりでした。

 まぁ、パパや母方の祖父だけは……私のことを『昭和美人』と呼んでくれてはおりますが、容貌に関しては……身内の意見ほど信用できません。

 それなのに、齋藤さんは……美人なママ似のお姉ちゃんよりも、私のことがいいと言ってくれたのです。

 しかも、お姉ちゃんは生徒会長なので、生徒会役員の齋藤さんにとっては、上司の筈で……忖度してなんぼの世界なのに、意味が分かりませんでした。


 「アタシはさぁ?伊東さんのほうがぁ、未夢先輩よりもいいと思ったっ!!嘘ついてもしかたないっしょ?」

 「あ……はい……」

 「あっ!?そうだぁ!!未來ちゃんってぇ、呼んでいいかなぁ?」


 陰キャに堕ち始めてから、浮いた存在になっている私は、数少ない親友たち以外からは、苗字でしか呼ばれたことはありませんでした。


 「え?!あ、はい……」

 「じゃあさぁ?未來ちゃんはぁ、アタシのことぉ……冴彌(さや)って呼んでぇ?」

 「はい……さ、冴彌……さん……」

 「はいっ!!ってかぁ、冴彌で良いからさぁ?」


 そう言いながら、齋藤さん……もとい、冴彌……さんは、突然私の手をギュッと握ってきたのです。

 そんな冴彌さんの手は……同い年とは思えぬほど、家の中では何もしていない私とは違い、働き者のような……手荒れをしてガサガサしていました。

 見た目こそギャル風な冴彌さんですが、きっとご家庭の事情か何かで……家事などをしながらも、生徒会役員をこなしているのだと、感じました。


 「さ、冴彌?」

 「うんうんっ!!にしてもぉ、未來ちゃんはさぁ?可愛いんだからぁ、自信持ちなぁ?」


 冴彌さんは嬉しそうな表情で、私の手を更に……握りしめながら、確かに……そう言ってきたのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ