陸
「ところで椿。」
「なんだ、改まって。」
「桜をどうするつもり?
まさか拾ってきたからそのまま飼うとかないよね、捨て猫じゃあるまいし。」
「だからってまた捨ててこいってか、いつから俺の母親になったんだ。」
そう椿が答えればまた二人の視線は私に向けられる。
小さく首を傾げてみるも、二人はじっと此方を見つめたまま。
「私は行くところないよ?」
「えぇっと…いや椿と桜の意見が合致するならいいよ。でも椿今まで動物を飼ったことがないし、世話するとか向いていないでしょう。」
「やめてくれ、別に愛玩動物が欲しいわけじゃない。
ただ気になっただけだ…海神がいた時代から生存しているなら色々と面白いだろう。」
「だからってそんなに怪しいものを拾わなくても…。」
「お前に治療を依頼し、お前はそれを飲んだ。
救った命をまた捨てるならこの時間は全て無意味だろう。」
わかったよ、と蓮は盛大にため息をつきながらしぶしぶと言った様子で受け入れたようだ。
別に神代の生き物と言っても私には時間の概念がないし毎日同じことを繰り返していたからきっと、彼の望むような話なんてすぐに尽きてしまうだろう。
もっと他に、椿には考えがあるのではないか。
そうでなければただ不器用なお人好しでしかない。
「…海に帰りたいか?」
「ううん。陸で生活するのに憧れてたから、ちょっと強引だけれど…願ったり、叶ったり?」
「ならいい…蓮、抜歯はいつだ。」
そう椿が問いかければ蓮は私の傷口を再び確認する。
暖かい布を捲られれば自然と冷えた空気が素肌に触れてぶるりと震えてしまう。
その様子を見て蓮は小さく詫びて布を元に戻した。
「3日もすればできそうだね、再生速度が早くなった気がする。」
「わかった。だがな、服くらい着せてやったらどうだ。いくら春とはいえ治るものも治らない。」
「いやそうだけれど。
でもどうやって?下は魚なのに着物を着せるの?」
「な、なら…人型になればいい?」
「そんな便利機能がついているのか。」
かなり昔に教わった人型になる方法、大気中の魔力を変換して取り込み頭の中にある姿を具現化するというよくある方法。
そうやって姉さん達は陸に上がって人間の男と恋を楽しんでいたというのはよくある話。
脳内に人間の女性を思い浮かべる、岩礁からたまに見かける程度だったが見たものと話に聞いたものを合わせればあっという間に姿は出来上がる。
目を開ければ見慣れた青い鱗や鰭は見当たらず、腕と同じ色の所謂脚があった。
成功した。
まだ動作になれないためか上手く操作は出来ないが見た目は人間そのもの。
「これで、合ってるよね?」
二人は1度大きく頷いた。




