肆
その矛盾した願いは儚くも打ち砕かれた。
がちゃり、と扉の開く音がすれば姿を現したのは白銀の長い髪を一つまとめて垂らしたやや中性的な顔立ちの成人男性。
眼鏡の位置を中指で直しながら、思ったより早く起きたな、と小声で呟いた。
「傷は大体治療してあるよ、後は君の再生力に賭けるしかないってところかな。」
寝台の横に木製の簡素な椅子を置いて彼はそこに腰掛けた。
私の上にかけられた布を少し捲っては傷の具合を確認しているようで、たまに指先で押されると思わず声が出そうになるほどに痛む。
かろうじて眉間に皺を寄せて下唇を噛んでしまえば我慢できるが、中々に乱暴だ。
「助けてくれたことには感謝します…けれどもう少し丁寧に扱って欲しい、かな。」
「…あぁ、ごめんよ。何せ頑丈な生き物しか見てこなかったし、ましてや女性なんて滅多に相手にしない。
それよりも言葉が通じるようで何より。そうそう、君を拾ってきたやつはもう少しで来るから少し待っていてね。」
「その拾ってきたやつはもう既に此処だ。」
言葉を遮るようにして姿を現した人は対称的な黒く短めの髪でやや釣り上がった目がより一層眼光を鋭くさせていた。
あからさまに敵対心を向けられれば此方としても怯んでしまう。
そもそも、そんな目を向けるのならば拾ってこなければいいのにと言いたいところだ。
大きな足音を立てて此方に近寄ってくるためつい逃げ出したくなる、と言っても動かないこの体では叶わない願い。
辛うじて少しだけ動く首で彼の方を向けば無遠慮に顎を掴まれて無理やり目を合わせられる。
「それで、お前は何者だ。
お前のような妖は存在しないはずだ、答えろ。」
答えに困った。
何者と言われても私には何も無い、自分を示すものが無い。
あるのは個体を識別するために付けられた長い名称だけ。
それとも…。




