弍
「蓮、治療しろ。」
「…は?」
浜辺に打ち上げられた奇妙な生き物を椿は少々乱暴に担ぎあげて知人の医者、蓮の元へと運んだ。
同種族の幼なじみである二人は口が悪いものの、それなりの仲を保ったまま早五百年は経過しようとしていた。
それ故椿は蓮が妖の中でも優秀な医者であることは十二分に知っており、今回奇妙な生き物を持ち込んだのだった。
蓮からすればまた椿が骨の一本や二本でも折ったから治せという依頼と思えば、診察台に無造作に投げられた物を見てやっと出てきた言葉が上記の一言だ。
しかし鼻をつく鉄の臭いは本物、すぐ様その血は診察台に赤い染みを作っていく。
「珍しいね椿が自分以外の治療を依頼するなんて。」
「ああ…似合わないことをしている自覚はある。
それでも、その魚がなんなのか気になる。
見たことあるか。」
「ないよ。
大陸にいるものかもしれないけれど、少なくとも日の本では確認されていないはず。」
蓮は喋りながらも手は止めなかった。
まず血の止まらない大きな裂傷から着手し、真っ白な手ぬぐいを真っ赤に染めるほど血を拭いとって消毒する。
ある程度綺麗にすればあとは縫合するだけ、男相手なら火で焼きながらでも構わなかったが相手は雌個体であることは確認していたためその方法は却下した。
あまりの傷の大きさに真正面から刀で切られたことも考えられるが、どういう経緯でそこに至ったのかは全く不明だった。
目のやり場に困るような治療を終えて改めて蓮は椿に向き直る。
「本当に不思議な生き物だね。
妖怪のような気配はしない、けれども人間とはかけ離れている。」
「俺も始めは人間だと思った。
…しかしその下半身はなんだ魚だ、人の気配をしながら姿は似ても似つかない。
これで妖気を放ってくれれば、同類ということで決着が着くんだけどな。」
部屋には呻き声だけが響いた。




