作戦会議①︰何をやるか
【今北産業】
婚約破棄されて修道院送りになった元公爵令嬢、セラフィア
修道院から脱走した先で、悪魔のモルティアスと遭遇
角を折ったせいで(記憶なし)悪魔を飼うことに(勝手に同居した)
公爵家がどうたらこうたらと言っているが、セラフィアの現状として、意外とギリギリのところにいるというのも事実だった。
一旦、軽く考えてみて欲しい。婚約破棄されて修道院に行った令嬢の立場がどんなものになるのかを。廃籍されてもおかしくはなかったが、じゃあなぜ今も貴族でいるのかと言うと、理由は単純だ。セラフィアの失敗は特別致命的な失敗ではなかったからだ。
セラフィアがやったことくらい、どこにでもよくあることだ。なんなら自発的に虐めをしている令嬢を何人見たことか。伯爵令嬢が近付く時だけやっていたのだから、まあ、虐めと言われても良いのだが、かなり優しい方だろうと自分でも思う。
普通なら、修道院に送られる筈がなかった。だからセラフィアは貴族のままでいる。
父にも言われた。
運が悪かったなと。ただし、上手くやれなかったお前の責任だ、と。
正しいか正しくないかは関係がない。どうなったか、が正解だ。
王太子はかなりオツムが弱かった。高等科で赤点を取ったなどと聞いたことはなかったが、感情で行動を決めていた。
セラフィアを見て、強いと思い。
伯爵令嬢を見て、弱いと思い。
弱い者を守らなくてはと思い。
伯爵令嬢に恋愛感情があったかは知らないが、最後は付き添っていたように思う。
本質と建前を見ることができない人間は、お飾りになるぐらいが関の山。
もしかしたら、宰相がセラフィアを邪魔だと考えて、なにかしら入れ知恵をしたのかもしれない。そうだとしたら、完全にセラフィアが弱かった。
ならば負けたで終わるかと言うと、そういうことを言いたい訳ではない。
もちろん、家族から見れば何かのチャンスがあった際のコマとして保存しておいているだけである。美貌が失われてはいけないから、それを保つ為の道具は渡して。
そして、セラフィアが万が一のコマとして従順に時を待ち続けるか? 答えはNOだ。寧ろ、それをやるような人間なら、父はセラフィアを別荘に幽閉しただろう。そっちの方が、厳重に守られる。
恐らく、あの時、処分が国外追放から修道院行きに変わっていたのは父の策略であろう。隣国にも別荘は幾つか持っているから、国外追放だろうと特に問題は無い筈だ。
要するに、何が言いたいかと言うと。
父は、母は、セラフィアにこの修道院で期待しているのだ。
わざわざ、隣国の別荘に近い上に、王都から最も遠い部類の修道院にいる意味など、それ以外にない。
セラフィアは考えた。悪魔との契約はセラフィアがするものではない。一度願いを叶えて魂を抜かれるのであれば、全くもって意味がないのだ。
ならばどうするか。
悪魔にとって、利がある行動を取ればいい。
例えば、セラフィアがいることによって悪魔が魂を貰えるペースが1.1倍になるとしたら、12人目以降は悪魔にとって、利があるようになる。
悪魔は魂を貰えるのが利点。そしてセラフィアの利点は二つある。
一つ目は明確。セラフィアの魂は奪われない。
二つ目。いて欲しくない人間の魂を奪わせることができる。
勿論、普通の人間なら悪魔を斡旋するなどオススメはしない。なぜなら二つ目の利点は崩壊しやすいからだ。
例えば魂の代わりにセラフィアの家を潰してと言われたら?
それの対応策を考えられないのであれば愚策。考えられるならば悪魔に喰わせた魂の数だけ、セラフィアの利点になる。
ある程度は勝算があるから賭けに出た。悪魔が乗り気でなくとも目の前に現れた餌に反応ができるのなら、賭けに出る予定だった。
都合が良いことに現状、悪魔に元々命を狙われることもなく、安全地帯からの賭け事ができるらしい。
本来、もっとちゃんとした安全地帯からやりたいのだが、それは一度セラフィアがヘマを犯しているから出来ない。
更にいえば、修道院でも失敗をしている。
父と母も期待を裏切られれば幽閉に切り替える路線だって有り得るのだ。
ならば、やることはひとつ。
どんなにデカイ代償があるとしても、期待値に賭けをする。
さて。手頃な令嬢が三人いる。
早めに会わせたいのだが、障害がある。それが修道院だ。
セラフィアは自由な外出が出来ない。ここがもし寂れて数人しかいないような場所なら話は別だが、そこそこ大きい上に、国内の一番近くの街までは、馬車を使わないと辿り着けないくらいの遠さがある。
恐らく、修道院長と仲良くなれば外にだって行けるよう内密に手配をしてくれよう。貴族なんてそんなものだ。だが生憎、馬が合わず何も出来ていない。
それさえ出来れば、と何度思ったことか。
だが。
モルティアスがいれば出来るかもしれない。
もし、だ。
人間に、叶えられない悪い願い事があったとして。
それを叶えられるよ、と言ってくれたとしたら。
いや、それだけだと足りない。
自分がどんどんと悲惨な目にあっていく。
それなのに、自分が深く憎んでいる相手は上に上がっていく。
──その、絶望の最中に、叶えられると言われたら。
公爵家でも似たようなことはさせられるのだが、もし足がつけばおしまいだ。それにこれを実行するメリットが今まで薄かった。
だが、ここまで来たら。
これが、正真正銘の悪魔に魂を売るではないか。
「ねぇ、モルティアス。早速やりたいことがあるの」
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