現状を整理しましょう③︰契約
「まず、私はこんな感じですの。で、お次は貴方の番ですわ」
「イヤいや、早くないですカ」
「あんまりにも近くに寄ってくるから気になってたのよ」
「来たくて近くに寄ってるワケじゃないデスけどね」
「そもそもこうなった経緯を教えなさい」
「は。話聞かねェタイプじゃん」
セラフィアは、感情で目的を見失わないタイプだ。要するに、こんなに逆らってきたとしても、気になることを聞くまでは見逃すということである。
「で、ナニを聞きたいんデスか」
「そもそも、私の部屋にいる経緯よ。私は貴方が怪しい呪文を唱えたところまでしか覚えていないわ」
「何が怪しい呪文でしょうかァ……」
ひとつため息をついてからモルティアスは答えた。
「と、言うより、なんでそこまでしか覚えてないんですカ?」
「え? それ以上なにかあるの」
「……じゃあ、大怪我負ったコトも覚えてないンですか?」
「え!? 私が!?」
「……あのあと、迷い込んだ地点に置いてこうとしたら、ちょうどいたオオカミに食われて、シンだかなと近付いた瞬間に角を掴まれて折られた」
「ナニを言ってるのですか!??」
「……ウン。信じなくてイイです」
何やらひとりで納得したような言い方をしている。
記憶の中にはそんなものは一切ない。嘘をついているとも考えられるが、その顔は嘘をついているようには思えない。
「全く記憶にない出来事ですが……嘘をついているようには見えませんの」
「嘘をついてないデスから」
「なら、私の記憶の中に、一切その記憶がないのはどうしてだとお思いになります?」
「知らない、から此処に居るンでしょう?」
「まあ、そうかもしれませんわ」
聞いたところでなあんにも解決はしなさそうだと感じて、セラフィアは会話を切り上げた。
「それに、違いますわ」
重要なことを聞けていない。
そういえば、と思った。初めから呼び捨てで何も言わないのだな、と。ただ、言われないので気にしないことにする。セラフィアだって、彼からの呼び捨てはあまり気にならない。恐らく貴族特有の下に見るあの嫌な雰囲気がないからかとは思う。
「私が一番気になるのは、角が折れたらどうなるのかです。もしかして、魔力が無くなるのですか? まだ半分もあるのに」
その言葉にピクッとモルティアスの身体が動いた。
「半分も、ダ」
「そんなに半分が大事なのですか?」
「そうデス。まあ、セラフィアは魔法を使ったことがないから分からないでしょうが」
「……残念ながら、その通りね」
少しだけ、視線を下に向ける。無意識でやっていた。モルティアスになどしなくていい動作だったと、数秒遅れて気がついた。この動作は、社交界などでいい印象を持たせるテクニックだったからである。
「あと、何ヶ月くらい必要なの?」
「……まあ、半年あればなんトか」
「長いわね」
「人間からしたら……そうデすね」
「期間を短くする方法はないの?」
「契約する、トか?」
セラフィアはパチンッと指を鳴らした。
「それよ」
「は?」
まあ、狙って言ったけれども、と内心思いながら畳み掛ける。夢のような初めて会った時に、契約の話はした筈だ。
「契約、させてあげましょう」
「……は、?」
喜ぶどころか訝しむその姿に、セラフィアは改めて既視感を覚えた。
「悪魔は人間の魂を主食とするのでしょう?」
「主食……?」
「ええ。魂を奪う為に、契約をさせて、願いを叶えるのでしょう?」
「まあ、それは合ってますケド……」
「なら、私がそれを叶えましょう。ちょうどいい人達がいるのよ、三人ほど」
「は?」
「紹介いたしますわ。欲にまみれて、とても汚らわしいわ。見目は美しいですが」
にっこりと笑みを浮かべた。わざとらしくなってないといいが。前、王太子に笑いかけた時は、周りのメイドから怖いと言われたことがあった。あれから特訓をしたのだ。
「お、オマエ……」
「お前じゃありません。セラフィアですわ」
そうじゃねぇ!と言いたげな口を引き攣らせたモルティアスの顔が見えた。
「セラフィア、オマエ、おかしいだろーーー!!!」
「じゃあ、決定ですね」
「なんでだヨ!」
契約を無理矢理結ばせる時は、話が通じない相手だと思わせる。これに限る。
まあ、勝手に居候してきたのだから、これくらいは許されよう。ぎゃあぎゃあ煩いので、耳栓を付けてやった。
そういえば、と思う。
時計の針が、戻っている。
──セラフィアが、修道院から居なくなる三時間前に。
もしかしたら悪魔の力なのかもしれないと思った。けれど、おかしい。セラフィアはモルティアスと契約をしていない。
「ねぇ、モルティアス。時間を戻したの?」
「そんなワケねェだろ。オレがやったのはあくまでも場所を動かすだけダ」
耳栓を抜いて聞いてやれば、怒っているモルティアスは答えてくれる。感情的になった方が人間はいいことを話してくれるものだ。
「そう」
セラフィアが、時を間違えたのだろうか。けれど、今はモルティアスに何か言うのは面倒だ。
耳栓を改めて付けると、ざあざあと雨が降る外を眺めて、どうしようかと少し、考えることにしたのである。
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