一人目作戦会議②︰紹介
「ねぇ、モルティアス。早速やりたいことがあるの」
「はァ……なんデスか」
モルティアスの目をじっと見ながら言えば、半分ぐらい嫌がりながらも聞いてくれる。
「貴方に是非とも契約をお願いしたい淑女の方が三人いるのですけれども、現状だとかなり厳しいんですの。そこは申し訳ないですわ」
「そもそも願ってモないデスけどね」
「なので、前菜を用意しようと思いまして!」
「もしかしてオマエが悪魔か?」
「ただ、それについても少々お時間が掛かりますのと、モルティアスにもお願いをしたいことがございますの」
「なんでオレが?」
「効率的に魂を頂くことが出来ますわよ?」
「セラフィアにいっぱい魂が欲しいとか言ったことアリマシタか?」
「欲しくないの?」
「は?」
「悪魔にとって魂は食事と聞きましたわ。人間は、今、食欲があるかは聞くけれども、そもそも食事をとる人間か取らない人間かを聞くことはございませんの」
「……ソウ」
モルティアスは返事をすると、それから何も言わなくなったからきっと納得をしてくれたのだろう。
「結論から言いますと、まずは私がやることにフォローを入れて欲しいですわ」
「は、はぁ……」
「まず、どこが壁になっているかと言いますと、貴方にお渡ししたい方にお会いして頂くために、修道院から出なくてはいけませんの。でもそれが今は、規則によってできません」
「おん……」
「ですので円滑に出るために、まず中から崩したいのです。修道院長に初めから言っても意味が無いので、周りから固めようと思っておりますわ」
「ふーん……」
「ですので、まずは味方を作りたいんですわ。そう! 貴方、魂を頂く契約の他にできることってございますの?」
「へー」
「聞いてませんわね!」
ここで、ようやく気がついた。
話に熱中する、悪い癖がある。
「ダって話が長いジャないですか」
「悪!かっ!た!わね!」
「そんなに怒らなくても」
「怒ってなんていませんわ!」
「ジャあその気を収めて」
「できることならしてますわ!」
「あー……はい、ワかりました……」
何を思ったのかは知らないが、はー、とため息を吐いたモルティアスは、幼子を宥めるかのようにごく自然な様子でセラフィアの頭に手を乗せた。そして優しく撫でる。
身長はどっちが高いか低いかなど気にしたことがなかったのだが、今はセラフィアが椅子に座っていて、モルティアスが立っている状態のため、身長差があった。だから簡単にできるのだろう。
「ハイハイ。アリガトうございます」
「……」
へぇっ、と。
今まで誰にも頭を撫でられたことはなかったなぁ、とセラフィアは思って、じゃあどうすればいいんだろうと考えた時に何も思い浮かばないことに気が付いた。
婚約者同士、あるいは幼少期の家族間であれば許される行為だが、そもそも家族とも、婚約者ともそんなやり取りをしたことが無い。
更にいえば、人間なら跳ね除けたって不自然ではないだろうが、悪魔だとどうだ。
異種族間ではこれくらいのコミュニケーションは普通なのだとしたら、セラフィアがそれを人間にされた時のように跳ね除けることになんの意味があるのか。
──数秒だけ考えて出した結論は、何も気にしないで、話を続けることである。
若干、あやされているような気がするが、そこはまだ今の状態では分からない。
「……だからね、まずは、」
「教えてよ」
「え?」
「そもそも、ここについてナんにも知らないんデスよね。ここ、修道院ナの?」
「あ、」
そうだ。完全な前提知識が抜けていた。
セラフィアは、修道院についてそこそこ分かるようになってきたが、そもそもモルティアスはここがどこなのかも知らない。
ただ。少しだけ本筋から離れるが疑問がある。
「……知らないのに、どうやってここに来たの?」
「気付いたら?」
もしかしたら、悪魔にとって、ここがどこであるかなど些細なことなのかも知れなかった。閉話休題。
「……一から、お教えいたしますわ」
何はともあれ、興味を持ってくれることが一番大切だ。それを心得ているからこそ、これ以上言うことはない。
「まず、ここは修道院ですわ。正確に言うと、修道院の宿舎に当たります」
「へぇ……ずいぶん狭いですネ」
「……貴族向けでしたらこれの倍の広さはあるところが多いかと思いますが、ここは孤児や平民を迎え入れることが大部分の場所ですからね。予算が厳しいのでしょう」
いつも思っていることを言われた。悪魔でも感覚は同じらしい。
「修道院で暮らす修道女と修練女は、私を入れて二十人いるわ」
「結構大きい」
「そうなの? 王都にいた時はこの倍の人数はよく見かけたけれど」
「王都デスからね」
だいぶこじんまりしたところだと思っていたが、評価を改めるべきかもしれない。
セラフィアはまだ若く、領地の隅々まで見て回ることを許されていなかった。そのため、王都以外の修道院については、まだ知らないことが多かった。
「修道院長は、元々ここで修道女をしていた方で、もう長年いらっしゃるわ。たしか、四十年ぐらいでしたっけ。だからこそ規律に厳しいけれど、孤児を受け入れていることもあって、寛容な部分も大きいわ」
「セラフィアが言うのは珍しいデスね」
「私がそうでしたからね」
「ワタシが?」
「貴族出身ですわよ? 修道院や平民の生き方なんて、なあんにも知りませんわ」
「まあ、そうか」
「間違いは多かったですが、それを分かってくれるのは、並大抵の経験ではできませんの」
「……結構、評価してるンですね」
「私の評価は、貴族だからする訳ではございません。全国民に対して平等に行うものですわ」
驚かれるのは心外だが、今までも周囲からはそう見られていたのだろう。そう考えることにした。だからと言って、何かを変えるわけではない。
「それから、他の修道女については……まず、チームに分かれてるわ。一チーム五人。それを束ねる先輩がチームの中に一人いるという図式」
「ふーん」
「部屋もチームごとに分かれているわ。チームリーダーはマルタという方。そこそこちゃんとしてるんじゃないかしら」
他に言うべきことを思案するが、特に無さそうである。
「で、」
さて、次だ。セラフィアが話を続けようとした、その時だった。
「セラフィアの、チームの子は?」
「……え? 特に必要ないので割愛しましたの。私以外にちゃんと三人おりますわ」
「……そういうところ、じゃないデスか?」
モルティアスに、そう、目を見ながら言われた。
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